Fast Five


ワイルド・スピード MEGA MAX  (2011年4月)

アメリカを脱出した後、リオデジャネイロに潜伏しながら仕事をしていたドミニク (ヴィン・ディーゼル)、ブライアン (ポール・ウォーカー)、ミア (ジョーダナ・ブリュウスター) だったが、ある仕事がきっかけで地元を仕切る大物のレイズ (ホアキム・デ・アルメイダ) を敵に回す。ドミニクらは最後の大仕事をして引退しようと、これまでの仲間をリオに呼び寄せる。ロマン (タイリース)、ハン (サン・カン)、ジゼル (ガル・ギャドー)、テジ (ルダクリス) らが続々とリオに集結する。しかし一方、そういう彼らの動きを追っていた連邦エージェントのホッブス (ドワイン・ジョンソン) もきな臭い臭いを嗅ぎつけ、これは何かあるとリオ入りしていた‥‥


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なぜだか癖になる「ワイルド・スピード (Fast and Furious)」シリーズ最新作は、南米、ブラジルのリオを舞台に展開する。FBIから一転して追われる立場になったブライアンとガールフレンドのミア、そしてドミニクが、最後に一発大仕事をして引退しようと、地元で裏で仕切っている顔役レイズ相手に一戦交えることを決意する。しかし警察にも顔が利くレイズは、その資産をなんと警察署内の金庫にしまっており、そこから金を盗み出すことはまず不可能だった。


そこで不可能を可能にするべく、ドミニクたちはかつての仲間たちと連絡をとってリオに呼び寄せる。一癖も二癖もある面々が続々とリオ入りする。「X2 (2 Fast 2 Furious)」のロマン、テジ、「X3 (Tokyo Drift)」のハン、「MAX ( Fast & Furious)」のジゼルらが続々とリオに集結する。パーティの始まりだ。


なんて印象が濃厚な今回の「MEGA MAX」、おかげで実は、いつも通りリオのいたるところをクルマが爆走しはするが、それでも印象はカー・アクションというよりもバディ・ムーヴィ、「オーシャンズ (Ocean’s Thirteen)」シリーズか「エクスペンダブルズ (The Expendables)」を見ているような、ガラ作品に仕上がっている。むろんそれはそれで見ていて楽しいことは言うまでもない。


映画は冒頭、お約束のカー・アクションの後、リオのスラム、ファヴェラに潜伏しているドミニクたちをとらえる。ファヴェラは「シティ・オブ・メン (City of Men)」「インクレディブル・ハルク (The Incredible Hulk)」で描かれているように、世界で最も絵になる極貧区だ。急斜面に都市計画なしに行き当たりばったりで建てられたみすぼらしい掘っ立て小屋、コンクリの家が密集しており、奇観というか、ある種猥雑な美しさを持つ。


ここに犯罪者が潜むのは当然であるが、しかし、そういう場所であるから道がない。いや、坂道はあることはあるが、それは家々の間をくねくねと曲がりながら繋いでいるもので、クルマが走れるほどの道幅は当然ない。イメージとしては悪くないが、カー・アクションにはまったく不向きな場所で、したがってここでのアクションは銃撃戦、および生身でのアクションが基本になる。


しかもドミニクたちを追って潜入してきた連邦エージェントが、WWEのザ・ロックことドウェイン・ジョンソンだ。対するのが同様に武闘派のヴィン・ディーゼルとなれば、いったいクルマはどこに登場するの? という展開になるのは当然で、前半の山場のアクションなのに、これは本当に「ワイルド・スピード」か。その上、乗りが「オーシャンズ」となれば、一層「ワイルド・スピード」の基本路線から逸脱していく。


さらに、今回はこれまで別の意味で主役と言えたクルマが登場しない。元々、ホンダ・シビック、ミツビシ・エボ、ニッサンZ、ドッジ・チャージャーと一作ごとにフィーチャーした車があった「ワイルド・スピード」シリーズだが、今回はそれがない。冒頭で強奪したクルマは、すぐに川に転落してしまう。クルマを調達しに公道レースに挑んでも、次のシーンでは既にレースで勝って手にしたクルマに乗っており、レース・シーンがあるわけではない。あるいは世界に数台しかないという超スーパーカーも登場するが、それが話の肝でもない。


もし今回主役の車があるとすれば、それはリオの警察が導入している公用のパトロール・カーということになるかと思うが、なぜだかパトカーというのは、ペイントとかカラリングのせいもあるだろうが、どこの国でも特に個性を感じさせない。おかげでやはり今回の「ワイルド・スピード」は、「Tokyo Drift」ほどではないが、シリーズの中では一際異彩を放つ作品になった。


一方、ガラ・バディ・ムーヴィなんだから、その「Tokyo Drift」に主演したルーカス・ブラックも呼んでもよかったのに。あるいは、さすがに彼まで参加させてしまうと収拾がつかなくなってしまうと予想したか。その可能性は充分ある。


「MEGA MAX」では、別に特に秘密にしているわけでもないと思うから言ってしまうが、最後にエヴァ・メンデスも姿を現す。あれ、そういえばメンデスってこのシリーズに出てたっけと思って、そうだ、確か「X2」にいたと思い出した。さらには、「MAX」で死んだはずのレティが生きている可能性を示唆して終わる。おいおい、死人が生き返るなんて、まるでソープみたいな設定を平気で持ち出してくるじゃないか。いずれにしても次への布石打ちまくりで、少しは遠慮したらどうかとすら思った。


実は「MEGA MAX」は受けがよく、これまでの「ワイルド・スピード」シリーズで最も成功した作品になった。劇場に入ったらほとんど席が埋まっていたので驚いたくらいだ。バディ・ムーヴィ化したことが奏功したわけだが、一方「MEGA MAX」はガチンコの「ワイルド・スピード」」シリーズ・ファンにとっては異端に近く、カー・アクションとしてはむしろ不満に感じる者の方が多いのではないかという気がする。クルマ映画としては、まだ「Tokyo Drift」の方が少なくとも基本路線には忠実だった。演出のジャスティン・リンは「Tokyo Drift」からずっと撮ってきているわけだが、今後どのように展開していくかが腕の見せ所と言える。








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