The Fast and the Furious: Tokyo Drift   ワイルド・スピードX3 Tokyo Drift   (2006年6月)

車好きで至る所で勝負を挑んでは事故を起こして居場所のなくなったショーン (ルーカス・ブラック) は母親の手にあまり、ついには父のいる日本に送られる。東京の高校に転入してきたショーンは、しかしやはりそこでも車から離れられず、たちまちのうちにDK (ブライアン・ティ) やその仲間のハン (サン・カン) たちと勝負することになる。ドリフト走行をほとんど知らないショーンは、駐車場内のバトルでDKに完膚なきまでに差をつけられるが‥‥


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アメリカの書店で近年気づくことの一つに、年々マンガ・コーナーの棚が拡大されていくことがある。若い層においてはもう問題なく市民権を獲得しているマンガは、近年ではわざわざ左綴じ逆向き印刷にすることなく、ほとんど日本におけるマンガ単行本と同じ体裁のまま、ただセリフが英語になっただけで売られていたりする。要するに、その体裁に慣れてしまえば、アメリカ人だって別に戸惑うこともない。


その中でも人気のあるのはもちろんアニメ化した作品の原作本だろうが、意外と車を題材としたマンガがかなり人気があったりする。実はもうほとんどマンガを読むこともなくなった私が今でも単行本になれば買って読んでいるのが、しげの秀一の「イニシャルD」と森川ジョージの「はじめの一歩」の2作なのだが、「はじめの一歩」はともかく、「イニシャルD」は当然英訳されている。しかも書店の棚にずらりと並んでいるところを見ると、かなり人気も高いと思われる。


「イニシャルD」を読んだ者ならわかるが、あれはドリフトに命をかける峠の走り屋たちの話である。それが今度の「ワイルド・スピード」第3弾「Tokyo Drift」は、舞台が東京で、ドリフト命の走り屋たちの話なのだ。これはもう、どう考えても「イニシャルD」読んでるだろうとしか思えない。舞台が日本なのは、当然「イニシャルD」を筆頭とする走り屋マンガに対するオマージュと見るのが妥当だろう。さらに「1」ではホンダ・シビック、「2」ではミツビシ・エボが話題をさらい、今回はニッサンZがメインと、メイド・イン・ジャパンの車が毎回フィーチャーされている。これは一度は日本に足を運ぶのが礼儀というものであろう。


というわけで、とにかく善光寺参りではないが本場に一度は足を運ばなければなるまいというわけでできあがったのが、この「Tokyo Drift」だ。もちろん話の裏をとったわけではなく、私が勝手に想像しているだけなのだが、この理由以外でわざわざトーキョーまで足を運ぼうという気にはならないと思う。というか、やはりトヨタ、ホンダ、ミツビシ、マツダ、スバル、ニッサンを生んだ国で公道カー・レース作品を撮るというアイディアは、誰だってそそられるものがあるに違いない。


というわけで今回の主人公ショーンは、アメリカで好き放題した挙げ句、彼を受け入れてくれる学校がなくなってしまい、母によって父 (ブライアン・グッドマン) のいるトーキョーに飛ばされる (ポール・ウォーカーはどうなったんだ。) アメリカで手に余る人間がトーキョーでうまくやっていける可能性は限りなくゼロに近いと思うが、ま、そこは目をつぶろう。父がなぜトーキョーにいて、トーキョーで何をやっているかも説明されない (ガレージ経営?) のだが、これまたよしとしよう。しかし、それでも、日本語をほとんど片言ですら喋れない人間が、いきなり都立の高校に編入してくるかあ。しかも教室に入ると、やはりガイジン生徒たちが、窮屈な詰め襟やセーラー服を着て座っていたりする。そこで、ああ、なるほど、ただ女の子にセーラー服を着せてみたかったわけかと納得はしても (アニメの見過ぎだ)、まったく日本語を解さないんでは、学校に行く意味はあるまい。


だいたい、おまえら、みんなどう見ても高校生には見えない。それなのにその高校生がプロ顔負けのドラ・テクを持っていて、壁際2センチまでつけるドリフトでかっ飛ばしていくのだ。日本だと免許は18歳からという基本的なことは知っているのだろうか。この分だとこいつらの大半は無免で車を乗り回している計算になるのだが、一応警官もほとんどいないようだからなんとかなるのか。さらに、銭湯のKONISHIKIはいったいなんだったんだ、とまあ、こういった些細な突っ込みどころを挙げていくと、それだけで一日が終わってしまうくらいだ。是非これは友人知人と一緒に見に行って、見た後であれがヘンだった、これがヘンだったと皆で騒いでもらいたい。場が盛り上がること必至である。


とまあ、日本人なら突っ込みネタでいつまでも盛り上がれるだろうが、しかし、やはりこの映画の醍醐味はドリフト、それに渋谷新宿首都高の公道走行にある。公道シーンのすべてを実際に東京で撮っているかはちと怪しいし、かなりの部分をCGでごまかしてもいるのだが、それでも、やはり新宿のガード下をフル・スピードで駆け抜けたり、人がうじゃうじゃ蟻のように蠢く渋谷のスクランブル交差点のど真ん中をドリフトしながら駆け抜けるなんてのは、見ていて思わず握った拳に力が入る。あれだけの人がいて車が突っ込んできたら、たとえ歩行者の全員をスタントマンにしても何人か撥ねるのは確実なのだが、「十戒」の海のように人波が左右に分かれて其の間隙を絵に描いたように抜けていったところを見ると、やはりCGと断ぜざるを得ない。しかしまあ、そこで本当に人を数人撥ねちゃったりしたら、シャレにならんからなあ。


「Tokyo Drift」が「イニシャルD」を手本にしている証拠は、最後のバトルが峠でのドリフト勝負になることでも明らかである。ここは話の展開上、バトルが峠になる必要はまったくないのだが、いきなりなぜだか峠の下り勝負になってしまうのだ。それでも、それでバトルが面白くなるならそういう辻褄なぞこっちも気にしないんだが、ここもかなりの部分CGになってしまうところが玉に瑕だ。全部実写では撮れないのかなあ、渋谷のスクランブル交差点じゃないんだから、なんとかなったんじゃないかと思うのだが。


また、今回フィーチャーされている車はニッサンZなのだが (これって日本ではいまだにフェアレディって言うのだろうか)、最後のバトルでショーンが乗ってそのZと相対するのは、当然アメリカ生まれのフォード・ムスタングだ。これまた最後の方でいいところはアメ車がさらった「2」の轍を踏んでいるが、アメリカ映画なんだから、まあ、しょうがあるまい。しかし、そのショーンが乗るムスタングのフードを開けると、エンジンにはちゃんとNISSANと書かれているのには笑ってしまった。これじゃわざわざ日本までムスタングのボディを運んできた意味がないんじゃないか。今回はかなりニッサンがサポートしているものと見た。


ところで、いかにもアメリカ青年然としているショーンは、最初は前に飛ばすだけしか脳がなく、ドリフトのドの字も知らないため、ハンの指導で特訓を受ける。それをどこぞの港の桟橋のところでやっているわけだが、このシチュエイションは山口かつみの「オーバーレブ」で見たような記憶があるなあ。これも英訳されているのだろうか。確かあのマンガでは主人公が乗っていたのはシルビアだったが、ちゃんと「Tokyo Drift」でもシルビアは登場する。ま、ニッサンだしね。


これまでのシリーズ主人公だったポール・ウォーカーの代わりに今回主人公を演じているのはルーカス・ブラックで、あんた、まあ大人になって。10年前にCBSの「アメリカン・ゴシック」で一番最初に目にした時はリヴァー・フェニックスの再来かと思ったんだが、ちょっと方向が違ったようだ。それでも今でもいい顔していることには変わりはない。


今回演出を任されているのは「アナポリス」のジャスティン・リンで、実は彼もアン・リーと同じ台湾生まれだ。リーが「ブロークバック・マウンテン」でゲイ・ウエスタンを撮り、リンもアメリカ海軍の心の故郷と言えるアナポリスを舞台とした作品を撮る。この頃のアメリカの本質に迫るアメリカ映画は、台湾生まれの映画作家が撮っている。ホウ・シャオシェンがアメリカに招かれるのももうすぐか。その上、台湾生まれのリンが、日本製のマンガに以前から馴染んでいたのもほとんど間違いないところであり、演出を任されたのもその辺だろう。


台湾で思い出したが、映画の中で、ショーンの父がいきなり、「出る杭は打たれる」と格言を言い出すシーンがあるのだが、それはともかく、その後、千葉真一が、今度は「釘がなくて蹄鉄が作れず、蹄鉄がないから馬を走らせることができず、馬を走らせることができないから伝令を出せず、伝令を出せないから戦争に負けた」みたいなややこしい格言を述べるシーンがある。こんな格言、生まれてからこのかた一度も聞いたことがない。たぶん台湾にこういう言い回しがあるのだろうと踏んだのだが、いや、もう、ちょっと、唖然としてしまった。


今回は、これまでのシリーズ主人公だったポール・ウォーカーはいないのに、「1」の立役者だったヴィン・ディーゼルが最後にちょこっと顔を見せる。まだまだシリーズは続いていくという意思表示なんだろう。ホンダ、ミツビシ、ニッサンと来たら、マツダ、トヨタ、スバルも黙ってはいられないと思うが、さて、次フィーチャーされるメイカーはどこか。もしかしたら逆をついてヨーロッパ車という可能性もないこともないかもしれない。アウディとかBMWとかメルセデスとかVWとか、特にドイツ車はくさい。舞台をヨーロッパにもできるし。あるいはNASCAR絡みで純米国産で行くとか。いずれにしてもエキサイティングなバトルさえ見せてくれるなら、こちらとしては文句はありません。 







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