Fast & Furious


ワイルド・スピード MAX  (ファスト・アンド・フューリアス)  (2009年4月)

中米で燃料トラックのハイ・ジャッキングを成功させたドミニク (ヴィン・ディーゼル) とレティ (ミシェル・ロドリゲス) だったが、お尋ね者のドミニクの包囲網は厳しくなり、レティを安全圏に置くためにドミニクは黙ってレティの元を去る。しかしそのドミニクに妹のミア (ジョーダナ・ブリュウスター) からかかってきた電話は、レティが殺されたことを告げるものだった。ドミニクはレティの敵を討つために危険を冒してLAに舞い戻る。そしてそれはFBIの仇敵ブライアン (ポール・ウォーカー) に再び相見えることでもあった‥‥


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エンタテインメント・ウィークリー誌によると、「ファスト・アンド・フューリアス (F&F)」、邦題で言えば「ワイルド・スピード」シリーズの新作は、関係者が誰も作りたがっていなかった映画なのだそうだ。要するに出演者やプロデューサーを含めて、飽きたり利権関係なりのエゴの衝突があったのだろう。


今回のシリーズ最新作が、タイトルがこれまでの「ザ・ファスト・アンド・ザ・フューリアス」ではなく、定冠詞のつかない「ファスト・アンド・フューリアス」になってしまったのは、タイトルがそれまでの主人公である彼らを意味してないその辺の事情を述べているようで何やら興味深い。


とはいうものの、現実には「ファスト・アンド・フューリアス」は第1作の主要出演者がほとんど再度出演しており、昔のメンツがまた集まっての同窓会という乗りが強い。実際、これまで3作製作されているF&Fフランチャイズで、たとえ舞台をフロリダにしようと東京にしようと、最も記憶に残っているのはやはり一番最初のオリジナル「The Fast and the Furious (ワイルド・スピード) (1)」だろう。端的に言うと、このシリーズにおいては「2 Fast 2 Furious (ワイルド・スピードX2) (2)」のミツビシ・エボでもなく、「The Fast & The Furious: Tokyo Drift (ワイルド・スピードX3 Tokyo Drift) (3)」のニッサンZでもなく、「1」のホンダ・シビックが18ホイーラーの下をくぐり抜けるシーンが最もエキサイティングかつ記憶に残っているのだ。


特に海の向こうの東京を舞台にした「3」が最も感触が異なるのは当然だろう。シリーズ4作中3作に出ている基本的にシリーズ主人公のポール・ウォーカーですらこの作品には出ていない。外人に詰め襟とセーラー服を着せてドリフト走行させるというほとんど禁忌妄想を現実に撮ってしまったという恐るべし倒錯映画が「3」であり、シリーズの主要なメンツが「3」には出ていないのは、これはもう当然と言うべきだろう。「3」はいわばF&FシリーズであってF&Fではない。


一方で「3」の最後にはヴィン・ディーゼルが顔を出すなど次があることを匂わせ、主要キャラクターの一人だったスン・カンが本「ファスト・アンド・フューリアス (4)」にも出ているなど、一応全部が関連のあるシリーズであることを匂わせてはいる。ところでそのカンは「4」では前半部にちょいと顔を出すだけで、すぐいなくなる。どうやら東京に高飛びしたようなのだが、ということは「4」は時間的には「3」の前のことか。それともカンは東京-LA-東京と移動しているということか。ちょっとよくわからなかった。


いずれにしても「4」では、「1」の主要メンツの一人だったミシェル・ロドリゲス扮するレティがすぐ殺されていなくなる。話はそれから、レティの仇討ちのためにLAに舞い戻り、復讐の相手を探すドミニク、そしてFBIという立場から同じ相手を追っているブライアン、そのブライアンのかつての恋人であり、そしてドミニクの妹でもあるミアを絡めて進行する。


よくも悪くも「F&F」シリーズは、カー・アクションがすべてだ。結局作り手もどういうカー・アクションを見せるかを念頭に置いて作品を作っているし、見る方だって今度はいったいどんなカー・アクションを見せてくれるかを楽しみにして劇場に足を運ぶ。そのため、ストーリー展開のリアリティやスムーズさが多少犠牲になるのはどうしてもやむを得ない。「3」のように最初から異国でやりたい放題を目論んではなっからリアリティ無視ならそれはそれでいいが、アメリカに戻ってきてあまり話が浮き足立つと今度はカー・アクションの興奮を削ぎかねないので、その辺の微妙な兼ね合いは慎重を要する。


冒頭、つかみのカリブでのカー・アクションが終わると、ドミニクは殺されたレティの復讐のためにLAに戻ってくるのだが、彼はたぶんお尋ね者のはずなのに、好き勝手に振る舞っている。ミアだってヤバいから帰ってくるなと言っているのに、平気で帰ってくるというそもそもの設定からしてかなり無理がある。


そのくせ誰もドミニクをとらえようともしないし誰かから襲われるわけでもない。殺される前のレティがブライアンと取り引きしてドミニクの安全を約束していたという理由こそ後で明らかになるが、しかしドミニク自身はそれを知らない。それで平気でブライアンに会える面の皮の厚さは大したものだ。自分の手が後ろに回ることなど露ほども考えてないのだろうか。などなど、「3」ほどではないにしても突っ込みどころは満載なのだが、結局誰もその他諸々の無理筋には言及せず、単純にカー・アクションを楽しんでいるのだった。まあそれが「F&F」の正しい楽しみ方ではあるだろう。


今回フィーチャーされるクルマは、いつも通り日本車のニッサン・スカイラインやスバルWRXやドイツ車のポルシェ・カイエンもあるが、やはり主人公と言うべきクルマは、ドミニクの運転するドッジ・チャージャーだ。マッスル・カーはなんといってもアメリカのクルマ好きの永遠の憧れなのだった。マッスル・カーのボディをぴかぴかに磨いて、いつも最上の状態にしておく。本当は乗り回すんじゃなくて、ガレージに飾っておきたいんだろう。「グラン・トリノ」でクリント・イーストウッド演じる主人公が、いつもはトラックに乗っているくせに、ちゃんとグラン・トリノだけはワックスをかけてぴかぴかにしていたことを思い出す。


パワー命みたいなアメ車は、しかし、正直言って小回りはあまり利きそうもない。ドリフトという技は、むろんNASCARのウィニングのドーナツ・ターンでもわかるようにアメリカのレース・ドライヴァーだってやるが、ドリフトを使ってどれだけクルマを乗りこなせるかがポイントのダートを走るラリーと違って、アメリカのカー・レースはNASCARのようにオーヴァル・コース周回とかストック・カー・レースとか、単純にパワー勝負みたいなところがある。当然アメ車自体もそういう印象があり、フードから半分エンジンが飛び出ているようなクルマにドリフト走行させてもなと思ってしまう。


むろん「イニシャルD」とかの影響もあり、アメリカでだってドリフトの魅力は定着しているし、最近の新車のコマーシャルではクルマをドリフトさせるシーンをよく見る。人々がドリフトを格好いいと思っている証拠だろう。しかし、やはりドリフトは職人の世界という印象が強いのがアメリカのクルマ好きのとらえ方であって、職人とレーサーは違う。小よく大を制すではなく、パワーで圧倒、最後は直線勝負がアメリカのカー・アクションの基本なのだと、つくづく今回感じた。日本車によく乗っているブライアンではなくて、主人公はやはり本人も筋肉もりもりのドミニクでなくてはならない。


ところで、それでも「4」の最後はカー・アクションはカー・アクションでも、レースというよりは「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」の坑道のトロッコ・チェイスみたいになっている。アメリカ-メキシコの国境で、人知れず両国を行き来するために作られたトンネルには秘密の出入り口があり、そこへ突っ込むという展開は、「インディ・ジョーンズ」+「007」÷ 2みたいな印象が濃厚だ。それはそれで面白いのは確かだが、この分だとたしかに「5」の製作の可能性はあまりなさそうだ。演出は「3」に続いてのジャスティン・リン。








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