アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。



1. WGAスト


2007年アメリカTV界に最も影響を与えた事件といえば、WGA (米脚本家組合) のストに勝るものはないだろう。このことが本格的にTV界に影響を与え始めるのは、各ネットワークが製作済みの番組エピソードを使い果たして再放送ばかりに走り、一方で脚本家の肩を持つ俳優が、毎年恒例の各種アウォーズ・セレモニーをボイコットし始める年末から年初にかけてなのだが、いずれにしてもこのことが業界に投げかけた暗雲は、容易には晴れなかった。


一方でてきめんにストの影響を受けたのが、毎夜放送の深夜トーク・ショウだ。ホストの冒頭のモノローグをはじめ、深夜トークで脚本家の占める位置は大きい。したがって11月初旬にWGAがストに入った当日から、深夜トークはすべて再放送になった。


なんでも前回1988年のWGAのストは半年近く続いたそうで、シーズン中に半年ストが続けば、ドラマやシットコム等の製作済みのエピソードの放送を終えた時点でなし崩し的にシーズンはほぼ終わらざるを得なかったろうと思うが、今回のストもほとんどそれと同じ経路を辿る可能性が高くなってきた。


今回の交渉は、DVDやオンライン・セールス等を巡り、脚本家側が要求したその売り上げの何パーセントかをプロデューサー側が認めるかということが焦点になった。むろんDVDやインターネットという媒体は、前回の交渉時には存在していなかった。そのため現在、脚本家がその利益の一部を要求するのは理に適っているが、一方でプロデューサーがこれを認めると、俳優や監督、音楽、美術、その他関係するもろもろの部署にもこれを認めないといけなくなる道理であるので、どうしてもこの要求は突っぱねざるを得ない。この点に関してどちらがどこで折れるかが最大の焦点となっている。


今回のストで最も大きな影響を受けた番組を一つ選べと言われれば、それは年明けから放送が予定されていたが、ついに一話も放送することなく一年間を棒にふることになった、FOXの「24」だろう。ただし別の見方もあり、番組が製作されなくなったおかげで、1月から一と月ばかり飲酒運転のため刑務所入りを余儀なくされた主演のキーファー・サザーランドは、そのおかげで誰にも迷惑をかけることなく無事ムショ入りして出所した。ちょっと情けないメリットと言えないこともないかもしれない。




2. ケーブル・チャンネルの大躍進


例年、ケーブル・チャンネルはネットワークがオフ・シーズンとなる夏場に挙って新オリジナル番組を投入していた。その間ネットワークは再放送とリアリティ・ショウでお茶を濁していたわけだが、今年ケーブルが矢継ぎ早に投入した新番組は、質、量共にネットワーク番組を凌駕したと言っても過言ではない。


その中心となったのが、ケーブルを代表するTNTとUSAの両チャンネルで、それにライフタイム、AMC、FX等のヴェテラン、新参合わせた処々のチャンネルが次々に見応えのある新番組を量産した。元々TNTは「ザ・クローザー (The Closer)」、USAは「モンク (Monk)」、「4400」、FXは「レスキュー・ミー」、「ザ・シールド」等の人気番組を擁していたわけだが、それに質の高い新番組が加わることで、さらに安定して常時オリジナル番組を放送することが可能になった。


例を挙げると、TNTのホリー・ハンター主演の「セイヴィング・グレイス (Saving Grace)」、USAのオフ・ビート・アクション・ドラマ「バーン・ノーティス (Burn Notice)」、デブラ・メッシング主演の「ザ・スターター・ワイフ (The Starter Wife)」、FXのグレン・クロース主演の「ダメージス (Damages)」、「ザ・リッチズ (The Riches)」、コートニー・コックス主演の「ダート (Dirt)」、ライフタイムの「アーミー・ワイヴズ (Army Wives)」、AMCの「マッド・メン (Mad Men)」等で、これらはほぼすべて夏場に放送され、ネットワークを完全に霞ませた。


HBOやショウタイムというペイTVのオリジナル番組の質の高さは昔から定評があったわけだが、今年はそれをベイシックのケーブル・チャンネルがしたことに特徴がある。このことはエミー賞でノミネートや受賞する番組がほとんどケーブル製作番組に占有されるという結果となって現れた。天下のネットワークといえども本気でうかうかしてはいられなくなってきている。ケーブル・チャンネルだってWGAストの影響を受けているわけだが、当然番組数の多いネットワークの方がより影響を受けた結果、両者の格差はますます縮まっている。




3. コメディ/シットコムの払底


ネットワークにとってさらに都合の悪いことには、現在、アメリカTV界には、これといったコメディ/シットコムがない。今に始まったことではないが、数年前にNBCの「フレンズ」とCBSの「Hey! レイモンド」が終わって以来、ネットワークには基本的にヒットしたシットコムというものはないのだ。CBSの「トゥ・アンド・ア・ハーフ・メン (Two and a Half Men)」が現在最も視聴率を稼ぐシットコムということを聞くと、嘘でしょうと言いたくなる。


ネットワークもコメディの人気番組を確立するのは難しいと、この分野から手を引き始めている。年々ネットワークが編成する30分コメディ/シットコムは減少の一途を辿っているだけでなく、かつて木曜夜に「フレンズ」、「サインフェルド」、「ウィル&グレイス」等人気シットコムを擁し、「マスト・シーTV (Must See TV)」という無敗神話を打ち立てたNBCが、今シーズンは一本もコメディ/シットコム新番組を投入しなかったのだ。


それで視聴者が求めているお笑いはどこへ行ったのかというと、現在はリアリティ・ショウがその任を担っている。現在アメリカで最も人気のある番組といえば、FOXの「アメリカン・アイドル」だが、その「アイドル」でも人気の高いのが、応募してくるカン違いにーちゃんねーちゃんたちを笑い飛ばす本選前のプリ・ショウだ。最も人気の高いゲーム・ショウのNBCの「ディール・オア・ノー・ディール (Deal or No Deal)」、「1 vs 100」、FOXの「アー・ユー・スマーター・ザン・ア・フィフス・グレイダー? (Are You Smarter Than a 5th Grader?)」、「ドント・フォーゲット・ザ・リリクス (Don't Forget the Lyrics)」等も、ホストの笑いをとる軽妙な受け答えがその人気の理由の一つとなっている。さらにお笑いが必要な視聴者には、深夜トーク・ショウがある。


これらは基本的に日本にプライムタイムにコメディ枠はなく、リアリティ (ヴァラエティ) ショウが笑いを受け持っていることとほとんど構造的には近い。とはいえ果たしてアメリカで伝統的シットコムが消え去る運命にあるのか、あるいはこの沈滞期の後にまたシットコムは復活してくるのか、現時点では誰にもわからない。私はシットコムの伝統が簡単になくなるわけはないと思っているのだが。




4. 新しいリアリティ・ショウの潮流? 減量番組とセレブリティ・ゴシップ・ショウ


アメリカのリアリティ・ショウに特有の現象として、参加者同士を争わせる勝ち抜き形式の番組が多いことが挙げられる。現在人気のあるFOXの「アメリカン・アイドル」、ABCの「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ」、CBSの「サバイバー」等、すべてこの形式であり、何事にも目に見える形で優劣を決めたがるお国柄というのがよく出ている。


今年この種のリアリティ・ショウで新しいプチ流行となったのが、減量を競う番組だ。元々体重過多の人間の多いアメリカであるからして、この種の番組は早くから存在したし、減量だけに絞らなければ、見かけ全般に手を入れて変身する人間メイクオーヴァー系の番組は、さらに昔からあった。それこそディスカバリー・ヘルスのようなチャンネルは、これらメイクオーヴァー系番組の宝庫だった。減量系だけに絞っても、この種の番組の先駆にして現在最も人気のあるNBCの「ザ・ビギスト・ルーザー (The Biggest Loser)」は、既に3年前から放送は始まっているし、セレブリティの減量に焦点を絞ったVH1の「セレブリティ・フィット・クラブ (Celebrity Fit Club)」というのもあった。


だから減量をテーマにした番組の存在という点においてはなんら目新しいものはないが、今流行りのこの種の番組の数々は、減量を勝ち抜きのリアリティ・ショウにしたところに特色がある。参加者にウエイト・トレーニングやエクササイズを施し、カロリー計算に基づいて摂食をコントロールさせ、最も痩せた者が優勝というのが、この新たな勝ち抜きリアリティ・ショウのコンセプトだ。もちろん見所は、痩せたいとは思うが食べたくてしょうがない参加者のぎりぎりの葛藤にあるのは言うまでもない。


今年はさらに、カントリー・ミュージック専門チャンネルのCMTまでもが、かつてチアリーダー、今ただのデブという女性に減量勝負させる「アイ・ウォント・トゥ・ルック・ライク・ア・ハイ・スクール・チアリーダー・アゲイン (I Want to Look Like a High School Cheerleader Again)」という番組を編成した他、ABCが「ファット・マーチ (Fat March)」と題するアメリカ横断減量行脚番組を編成すると、さすがに「パセティック (悲惨)」という評が随所に見られた。現時点では成功していると言える番組は「ビギスト・ルーザー」だけのように見えるが、右を向いても左を見ても体重過多の人間がうようよしているアメリカにおいては、今後も同様の番組が続々と現れてくることは間違いないと思われる。


一方、リアリティ・ショウというジャンルでもう一つ見られた傾向が、セレブリティ・テーマ、端的に言ってセレブリティ・ゴシップ・テーマ番組の隆盛だ。CWの「CWナウ (CW Now)」、マイ・ネットワークTVの「セレブリティ・エキスポゼ (Celebrity Expose)」、シンジケーションの「TMZ・オン・TV (TMZ on TV)」等で、特に今、セレブリティ・ゴシップの情報の早さではピカ一のネット・サイト「TMZ.com」をTV化した「TMZ」は、既に視聴者に定着している。


元々シンジケーションには、「エンタテインメント・トゥナイト (Entertainment Tonight)」、「アクセス・ハリウッド (Access Hollywood)」、「ジ・インサイダー (The Insider)」、「エクストラ (Extra)」という4大芸能界情報番組がある。芸能ゴシップはいわばシンジケーションの生命線の一つであり、昼の奥様向けトークやゲーム・ショウ、擬似法廷番組共々、一つのジャンルを確立している。「TMZ」はその一角に食い込むどころか、既にそれらの先達番組を食う勢いを見せている。この背景には、ブリトニー・スピアーズ、パリス・ヒルトン、リンジー・ローハンの若手スキャンダル・パーソナリティ三羽烏の存在が大きいのはまず間違いないと思う。人はやはりセレブリティのゴシップが好きなのであった。




5. 再放送枠の定着


元々ネットワーク番組には再放送がつきものだ。一つの番組の年間の製作本数は20数本に過ぎず、一年が53週ある以上、残りの約30週は別番組を編成するか、あるいは既に放送済みのエピソードを再放送するしかない。一方、500チャンネル時代の現代では、見たい番組同士が裏番組となって重なるということが頻繁に起きる。そういう時に見逃したエピソードの再放送があるというのは、実は視聴者にとってもありがたかったりする。


こういう視聴者のニーズに敏感なネットワークは、近年、堂々とこれは再放送専用ですとうたったレギュラー枠を、最も潜在的視聴者数の少ない土曜夜に編成し始めた。因みに現在、FOXを除く3大ネットワークが堂々と再放送枠を設けており、だいたいその週の出物がこの枠で再放送される。CWが再放送枠を持ってないのは、単純にCWが土曜には放送自体していないためだし、FOXだってもしプライムタイムの放送枠が2時間ではなくて他のネットワーク同様3時間で、その分の番組を持っていたなら、まず再放送枠を設けたのは間違いないだろう。


とはいえ、そういう再放送ばかりを集めた時間がレギュラー枠として鎮座ましましていると、それは単なる手抜きだろうと言いたくなってしまう。ではあるが、確かに一方で役に立つことも確かなのだ。実際、特に秋の新シーズンなんかになると、新番組同士が同じ日同じ時間に放送を始めるということが頻繁に起きる。時によっては4つ5つの新番組が別チャンネルで同時に始まるということさえある。そういう時にたとえ裏番組が録画できるチューナーやTVを持っていても焼け石に水で、どうしても漏れる番組が出てくる。しかしやはり新番組の第1回はそれが何であろうと押さえておきたい。そういう時に、あらかじめ再放送が予告されている場合は、これは重宝するのだ。


そんなわけで、いつの間にやら私の土曜夜のTV観賞は、特に目ぼしいケーブル番組がない場合、その週に録画してあった番組でまだ見ていなかったものを見るか、さもなければだいたいこれらの再放送枠のどれかを見るということで定着しつつある。ネットワークとしては製作費を抑えながら、私のような視聴者はかなりいるためある程度の需要が見込める。結局需要と供給の原理が働いているため、この試みは定着するものと思われる。たとえ2時間しか放送枠がなくても、FOXも再放送専用枠を設けるのも時間の問題という気がする。







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2007年アメリカTV界10大ニュース。その1

 
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