放送局: TNT

プレミア放送日: 6/13/2005 (Mon) 21:00-22:00

第2シーズン・プレミア放送日: 6/12/2006 (Mon) 21:00-22:00

製作: シェファード/ロビン・カンパニー、ワーナー・ブラザースTV

製作総指揮: マイケル・ロビン、グリア・シェファード、ジェイムズ・ダフ

製作: パトリック・マギー

監督: マイケル・ロビン

クリエイター/脚本: ジェイムズ・ダフ

撮影: クリストファー・バッファ

美術: ローレン・クラスコ

編集: ブッチ・ワートマン

音楽: ジェイムズ・レヴァイン

出演: キラ・セジウィック (ブレンダ・ジョンソン)、J. K. シモンズ (ウィル・ポープ)、コーリー・レイノルズ (デイヴィッド・ゲイブリエル)、G. W. ベイリー (プロヴェンザ)、トニー・デニソン (アンディ・フリン)、ロバート・ゴセット (テイラー)、ジョン・テニー (フリッツ・ハワード)、ジーナ・ラヴェラ (アイリーン・ダニエルズ)、レイモンド・クルス (フリオ・サンチェス)、マイケル・ポール・チェン (マイク・タオ)


物語: 元上司だったポープの推薦でLAPD (ロサンジェルス警察) 殺人課のチーフとして配属されたブレンダは、彼女の尋問能力が評価されて一応それなりに認められたとはいえ、まだまだ彼女に対する周りの風当たりは強かった。そんな時、人目のつかない倉庫で多重殺人事件が起きる。しかもそのうち一人はLAPDの私服刑事で、さらに悪いことに、その刑事は現在のブレンダの配下のダニエルズの元恋人だった。ブレンダの一挙手一投足に、殺人課のみならず全LAPDが注目する‥‥


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「ザ・クローザー」は、昨年からケーブルTVのTNTで放送されている刑事ドラマだ。一昨年公開された、ジュリア・ロバーツやナタリー・ポートマンが出演した「クローサー」と混同しそうだが、もちろんまったく似て非なるものだ。あっちは恋愛ドラマ、こっちは刑事ドラマである。


「クローサー」は、近いという意味の close の比較級の、もっと近くへ、という意味の closer だが、「ザ・クローザー」は、閉じる、close する人という意味だ。ベイスボールの、抑えの切り札という方のクローザーと同じである。つまり、ここでタイトルのクローザーが意味していることは、ある事件の犯人と目される人間の自白、あるいは最も重要な目撃者の証言を引き出し、事件をクローズして終結に向かわせることのできる尋問者のことである。その特技を持つ人間をクローザーと呼ぶのだ。


主人公のブレンダはクローザーとして、前上司のポープの推薦もあってLAPDに赴任してくる。しかしなんの根回しもなくいきなり女性上司を据えつけられた殺人課の面々は、一様に反発する。ブレンダは事件を解決に導きながら、同様に部下をなだめすかし、抑えつけ、叱咤激励し、自分の実力を見せつけることで彼らに自分を認めさせなければならない。それが簡単一様に行かないのはもちろんだ。


「クローザー」は、昨年始まったケーブルの新番組として、私が最も面白いと思った番組だ。なるほど、まだまだこういう刑事ドラマの作り方があったのかという感じだ。南部出身のブレンダは、南部訛り丸出しで、よりにもよってLAPD殺人課のチーフに収まってしまう。南部訛りだからコケにされるということはないだろうが、コケティッシュな印象が付随する南部訛りを持つ、さらに女性がいきなりLAPDの、しかも殺人課に、なんの前触れもなくいきなりチーフとして配属される。これではたぶん、ブレンダの下に配属された者はほとんど全員反発するだろう。


一方、その南部訛りがいざ容疑者や目撃者を尋問するという段階で役に立つ。その喋り方では誰も彼女を熟練した尋問者などとは思わないからだ。その、つい気をゆるした隙を突いてブレンダが搦め手から、あるいは正攻法で攻める。気がついてはっとした時には容疑者は、既に喋ってはいけないことを喋ってしまった後なのだ。


私の意見では、「クローザー」と印象が似ている番組は、「刑事コロンボ」である。よれよれトレンチ・コートで、どこから見ても冴えない刑事でしかないコロンボが、しつこく、何度も何度も現れて、さも重要に見えないことを繰り返し容疑者に質問し、そのうちいつしか容疑者は自分がぼろを出したことに気づかされる。その辺の呼吸が似ている。


さらにもう一本「クローザー」が似ている番組として、「水戸黄門」が挙げられる。クローザーであるブレンダは、もちろん何度も容疑者に接見するが、当然最初の方は手の内は明かさないし決定的な証拠は伏せている。法律では有罪が決まらない限り容疑者は無罪であり、そのように容疑者にも接しなければならない。それがだんだん容疑が濃厚になり、証拠が固まってきて、ここが勘所という瞬間が訪れる。これ以下の手持ちのカードでは容疑者は落とせないし、これ以上待つと容疑者に白を切り通されて逃げられるというぎりぎりの瞬間が訪れるのだ。言い換えれば、その瞬間を正しく把握することのできる人間が一流のクローザーであり、ブレンダが皆から煙たがれながらも一定の信望を勝ち得ることのできた理由が、まさしく彼女がクローザーとして一流であるからに他ならない。


ブレンダが、ここが勘所とわきまえ、いざ最後のインタヴュウに乗り出す瞬間は、当然のことながら番組のクライマックスだ。毎回、だいたい番組の残り時間があと10分くらいになるとブレンダが伝家の宝刀を抜いて最後の尋問に挑む。もう、その辺の呼吸、番組進行、エキサイトメントが、「水戸黄門」の終わり近くになって、助さん格さんが印籠を見せつける瞬間を今か今かと待ち構えるのとほとんど乗りがそっくりなのだ。ブレンダが最後のインタヴュウに挑む決心をし、容疑者を呼んでと配下の者に命じる。待ってました、と掛け声をかけたくなる。


もちろんブレンダが容疑者とあいまみえるのは、なにも警察署のマジック・ミラーやヴィデオ・カメラが設置されたインタヴュウ・ルームに限ったことではなく、時には外でさりげなさを装って容疑者と一緒に食事をしながら取り引きを持ちかけることだってあるし、容疑者を尋問する風に見せかけて、それは実は真の容疑者を引っかける囮だったりもする。しかしそれだって、そのことが事件を終結に向かわせるクライマックスであることには変わりはない。


主人公ブレンダに扮するのがキラ・セジウィックで、私がこれまでに見たどのセジウィックよりもこれがいい。文句なしに本人の持ち味とキャラクターがはまっている。確かニューヨーク出身で今も夫のケヴィン・ベーコンと一緒にニューヨーク在住のはずのセジウィックは、基本的に南部訛りはないはずだ。ここで明らかに意識的に訛りを強調して喋っているのは、もちろん役柄の上で、LAPDのチーフがかなり田舎訛りがあることによるミス・マッチ、そしてそれを利用した尋問者としての効用を考えての設定だろう。口のでかいセジウィックがまた、わざと化粧が下手で時々口紅が唇からはみ出ているように塗られているのも、芸が細かい。


このブレンダ、実は私生活はそれほどうまく行ってない。LAPDに呼ばれたのも、元上司兼愛人だったポープが彼女を強力に推薦したからだが、そのために転属が決まったわりには、新天地ではポープは部下や同僚に対する気兼ねもあり、あまりブレンダをサポートできない。ブレンダには今のボーイ・フレンドもいるのだが、それも100%うまく行っているとは言い難い。さらにブレンダには、キャンディ・バーや甘いもの系のジャンク・フード好きというほとんど中毒に近い性癖があって、ストレスが溜まると甘いものに手が出るのを抑えるのに苦労している。だからだいたいは、事件が解決した時の自分へのご褒美として甘いものを食べたりしているのだが、彼女の嗜好を知った部下たちが、時に勝手に甘いものを差し入れたりしてくるのでよけい苦労する。それでも、いつでも彼女の机の引き出しの中には、甘いものがキープされているのだ。


ブレンダに扮するセジウィック以外では、ポープに扮するJ. K. シモンズが最も知名度が高いと思われるが、それ以外の、ブレンダにつかず離れずでサポートしたり反感を持ったりする殺人課の刑事たちがそれなりに皆役にはまっており、いい味出している。なんの根回しもなくいきなり新しい上司が就任してきたりしたら、叩き上げは反発するに決まっている。そういう古参の古狸を相手に自分の言うことを聞かせるためには、成果を上げるしかない。という状況でブレンダは毎日、甘いものへの欲望と事件解決のプレッシャー、男関係に苦しみながら、クローザーとしての使命を全うするのだ。


「クローザー」は現在、私のお気に入りの番組の一つで、今、ケーブルTVに限ると、ほとんど毎回見ている番組は、この「クローザー」とFXの「レスキュー・ミー」くらいしかない。どちらも非常によくできていると思う。一方がニューヨーク、一方がLAを舞台とし、さらに一方の主人公は消防士、もう一方は刑事という、つまりFDNYとLAPDの戦いだ (いや、私が勝手にそうとらえているだけなのだが)。ケーブル番組ということもあり、2本とも基本的にネットワークのオフ・シーズンである夏に放送されているわけだが、この2本ならたとえネットワークのシーズン中に放送されても、裏番組が「ロスト」にでもならない限り、私はこっちの方を見るだろう。ネットワークもうかうかしてはいられない。  







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The Closer


ザ・クローザー   ★★★1/2

 
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