放送局: FX

プレミア放送日: 3/12/2007 (Mon) 22:00-22:10

製作: マヴェリックTV、FOX TV、FX

製作総指揮: ディミトリ・リプキン、エディ・イザード、マイケル・ローゼンバーグ

共同製作総指揮: ドーン・プレストヴィク、ニコール・ヨーキン

監督: カール・フランクリン

クリエイター/脚本: ディミトリ・リプキン

出演: エディ・イザード (ウエイン・マロイ)、ミニー・ドライヴァー (ダリア・マロイ)、ノエル・フィッシャー (ケイル・マロイ)、シャノン・ウッドワード (デライア・'ディーディー'・マロイ)、エイダン・ミッチェル (サム・マロイ)、マーゴ・マーティンデイル (ニナ・バーンズ)


物語: 旅をしながら人の金をかすめとる生活を送るアイリッシュの「トラヴェラーズ」一族のマロイ家は、一家の長ウエインを娘のディーディー、長男ケイル)、次男サムが支え、今日もどこぞの同窓会の会場に紛れ込み、一席ぶちかましてその間に人々の財布をいただいていた。2年間刑務所入りしていたウエインの妻ダリアが出所してくるが、一族の者と問題を起こしたウエインらは、一族の金をくすねて逃げる。しかもその途中でまたもや揉め事に頭を突っ込んで逃げる途中のウエインらは、交通事故を起こし、BMWに乗っていた相手夫婦は死亡してしまう。彼らが郊外の高級新築の家に初めて向かうところだったことを知ったウエインらは、彼らになりすますことを思いつくが‥‥


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今現在、オリジナル番組を放送することで目を放せないケーブル・チャンネルというと、ペイTVならショウタイム、ベイシック・チャンネルならFXといったところだろう。ペイTVでは一時はHBOに大きく差をつけられていたショウタイムは、現在では「ウイーズ」、「ブラザーフッド」「デクスター」と話題作を連続で製作してHBOとの差を詰めてきている。


一方、目をベイシック・チャンネルに向けた場合、話をドラマやシットコム、コメディ等の脚本つき番組だけに絞るならば、今オリジナル番組で最も気になる番組を揃えているのは、大御所のUSAやTNTといったところではなく、「レスキュー・ミー」や「ザ・シールド」、「ニップ/タック」「シーフ」等の話題作を放送しているFXということになろう。もちろんTNTには「ザ・クローザー」があり、USAには「モンク」や「4400」(第3シーズンはあるのか?) といった人気番組はあるが、その話題性、とんがり具合という点で、FXの優位は動くまい。


FXは今年早々にも、「フレンズ」のコートニー・コックスが情け無用の芸能界タブロイド誌の編集長に扮する「ダート (Dirt)」を編成、このほど放送されたシーズン・フィナーレには盟友のジェニファー・アニストンをゲスト出演させ、ライヴァル誌の編集であるアニストンとコックスが実はレズビアンの愛人同士という設定でキス・シーンまで用意するなど、なにかと話題を提供した。ただしこの番組は、話題性だけは最近のFX番組でも特に高かったと言えるが、FXの他番組に較べると、質の面では多少見劣りがしたことは否めない。コックスが頑張っていることはわかるんだが、ポスト「フレンズ」のイメージ一新は簡単には行かないようだ。


そのFXがまたまた投入する新番組の「ザ・リッチズ」は、「トラヴェラーズ」もしくは「ティンカーズ(Tinkers)」と呼ばれるアイリッシュの流れ者一族を主人公とする。そういうジプシーのような一族がいることなぞまるで知らなかったが、アイルランドおよび英国だけでなく、アメリカにもその末裔は現実にいて、定住地を持たず、くたびれたバスに乗って旅をしながら生活しているのだそうだ。しかし、そんなの、話の上だけならまだしも、現実にいたら胡散臭くてしょうがないという気がする。実際に各地で季節労働に従事して賃金を得ることの多いトラヴェラーズは、各地で揉め事の種を撒き散らしているらしい。


「リッチズ」の主人公マロイ一家も、そういう、人の金をくすねてたつきを得ている。例えばどこぞの同窓会会場に紛れ込み、さも同窓の振りをしてわいわい騒ぎながら財布を失敬するわけだが、同窓会だと結構皆もう顔を覚えてないから見知らぬ人間だといぶかられることが少ないし、酒も入ってガードもゆるくなる。それでうまく財布をすりとって、最後にちょっと感動的なスピーチをすると、人から感謝までされたりする。多少は頭の回転を必要とするから、同様に同じ人様のおこぼれに預かったり騙したりして生計を立てている者の中でも序列は上の方で、専ら楽で簡単な仕事ばかりしているやつらをバッファー (Buffer) と呼んでバカにしてたりする。もちろんそんなの、一般人の目から見たら五十歩百歩でしかない。


番組第1回では、マロイ家の長ウエインの妻ダリアが2年間の刑を終え (当然詐欺まがいの罪だろう)、刑務所から出所してくる。再会の喜びも束の間、仲間のところに帰ってきても、小さな一族なりに上下争いは厳しく、マロイ家の立つ瀬はない。ウエインは病床の一族の長の金庫から金を盗み、家族を連れて逃げ出す。その途中、更なるトラブルに巻き込まれたウエインは、バスでカー・チェイスしながら逃避行の最中、熟年カップルのBMWを巻き込んで二人を事故死させてしまう。持ち物から彼らが裕福な弁護士夫婦で、できたばかりの新居に向かう途中の彼らには誰も知り合いがいないことを知ったウエインは、そのリッチ夫婦に成りすますことを思いつく。


主人公のウエインに扮しているのがエディ・イザードで、「オーシャンズ12」に引き続いて「オーシャンズ13」にも出演しているため、「リッチズ」を別にすればいまんところアメリカではこれで最も顔が売れていると言っていいだろう。いずれにしても、やっぱり人をひっかける作品だ。その妻ダリアに扮するのが、「オペラ座の怪人」のミニー・ドライヴァー。長男ケイルに扮するノエル・フィッシャーは、最初思い出せなかったのだが、「デッドコースター」に出ていたと聞いて、もしかして、あの、非常階段が落ちてきて眼球を突き破って死んだあの彼だったかと思い出した。ディーディーに扮するシャノン・ウッドワードはこれまで見かけた記憶はないが、かなり可愛い。


番組は2回目以降、リッチ夫妻とその家族になりすますウエイン家の者たちと、彼らを取り囲む者たちを描く。特にダリアを助けるお隣りさんとなるバーンズ家のニナに扮しているのは、「ミリオン・ダラー・ベイビー」で、金に汚いヒラリー・スワンクの母を演じたマーゴ・マーティンデイルで、なかなかおいしい配役。こういう一癖も二癖もある人間を騙そうというのだから、騙す方も楽ではない。しかもウエインは、弁護士というプロフェッショナルになりきらなければならないのだ。さらにダリアは死んだリッチ夫妻に罪の意識を負い、子供たちだってこれまで一度も行ったことのない学校に行かなければならない。果たしてこれで無事やっていけるのだろうか。もしかしたらこれまでのように旅すがらの日雇い生活の方がよほど楽だったかもしれない。


要するに「リッチズ」はかなり胡散臭い話なのだが、実は番組クリエイターのディミトリ・リプキンはロシア系ユダヤ人で、それがルイジアナ州を転々とするアイリッシュのトラヴェラーズを描き、主演の二人は英国人、その長男を演じているのはカナダ人と、現実の方もかなりなにやらとりとめのない胡散臭いものである。あるいは、だからこそ話に逆に説得力をつけ加えることができるのかもしれない。ロシア系ユダヤ人って、なんか「屋根の上のバイオリン弾き」のように、定住地を追われて各地を放浪しているみたいな印象がある。もしかしたら「リッチズ」はひねったアメリカン・ドリームの具現を表しているのかもしれない。因みにプレミア・エピソードの演出を担当しているのは黒人演出家のカール・フランクリンであり、ますますとりとめのつかない話に磨きをかけている。







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The Riches

ザ・リッチズ   ★★★

 
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