アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。後編。




  1. 6. サヴァイヴァル・リアリティの蔓延


CBSの「サバイバー (Survivor)」以来、勝ち抜きにせよ密着型にせよ、サヴァイヴァル系のリアリティ・ショウは、途切れることなくそれこそ掃いて捨てるほど編成されている。



「ネイキッド・キャスタウェイ (Naked Castaway)」ディスカバリー

「アルティメット・サヴァイヴァル・アラスカ (Ultimate Survival Alaska)」ナショナル・ジオグラフィック

「72アワーズ (72 Hours)」TNT

「ネイキッド・アンド・アフレイド (Naked and Afraid)」ディスカバリー

「ゲット・アウト・アライヴ・ウィズ・ベア・グリルス (Get Out Alive With Bear Grylls)」NBC



ディスカバリーの「ネイキッド・キャスタウェイ」と「ネイキッド・アンド・アフレイド」は、共にタイトルに「ネイキッド」という単語がついていることからもわかるように、登場人物が裸でサヴァイヴァルに挑む。「72アワーズ」と「ゲット・アウト・ウィズ‥‥」は賞金をかけての勝ち抜きで、「アルティメット・サヴァイヴァル・アラスカ」はサヴァイヴァルのプロとも言える者たちが賞金目当てではなく、自分のプライドだけをかけてアラスカの厳しい自然に挑戦するなど、今年投入されたサヴァイヴァル・リアリティは多種多様であり、このジャンルが成熟期を迎えていることを証明している。あるいは衰退期を迎える前の一時的な隆盛なのか。




  1. 7. スポーツ・格闘技化するシンギング・コンペティション


FOXの「アメリカン・アイドル (American Idol)」に代表される勝ち抜き系のシンギング・コンペティション・リアリティは、明らかにピークを越え、人気に一時ほどの勢いはない。「アイドル」自体視聴率は下り坂だし、主要視聴者層である19-48歳の視聴者間では、既にNBCの「ザ・ヴォイス (The Voice)」に抜かれている。


その「ヴォイス」が始めたギミックの一つに、参加者同士を同じ歌を一緒に歌わせて競わせるバトル・ラウンドというものがある。同じ歌だから、ちょっとできが悪かったりすると如実に差が出る。そのため歌う方も必死で、ほとんどの者が乾坤一擲という気合いで挑む。これがまるで競ったスポーツみたいで非常に面白い。


そしたら今シーズン、FOXの「ジ・X・ファクター (The X Factor)」も、NBCの「ザ・シング-オフ (The Sing-Off)」も、このバトル・ラウンドを番組に取り込み始めた。だいたいバトル・ラウンドはどちらかが追放されるかどうかという段階で取り入れられるため歌う方も必死で、おかげで本当に歌のバトルという感じが伝わってくる。


特に「シング-オフ」は、ただでさえ複数の人間が、アカペラで全員これで負けたら後がないという剣が峰で、ハーモニーとダンスを織り込みながら声を張り上げる。はっきり言ってオリジナルの「ヴォイス」よりこちらのバトルの方が面白かったりする。今に「アイドル」も参加者のバトル・ラウンドが始まるんじゃないだろうか。




  1. 8. タトゥー関連番組大流行り


実はこの傾向は今に始まったことではなく、ここ数年タトゥー関連の番組は着実に増えていた。しかし特にタトゥーに興味があるわけではない私は、これを一過性のものだとばかり思っていた。


そしたらタトゥー・リアリティ、増えこそすれいっかな減少する気配を見せない。世の中の多くの人間は、私が思っているよりももっとマジにタトゥーをしてみようかと考えていたり、あるいは失敗したタトゥーをどうやって消せるかと考えているのだった。


2012

「パーマネント・マーク (Permanent Mark)」スパイクTV

「ニューヨーク・インク (NY Ink)」TLC

「インク・マスター (Ink Master)」スパイクTV

「ベスト・インク (Best Ink)」オキシジェン

「ワールズ・オンリー・タトゥー・スクール (World's Only Tattoo School)」 TLC

「タトゥー・ナイトメアズ (Tattoo Nightmares)」スパイクTV


2013

「ブラック・インク・クルー (Black Ink Crew)」VH1

「サウジー・ルールズ (Southie Rules)」A&E

「アメリカズ・ワースト・タトゥーズ (America's Worst Tattoos)」TLC

「タトゥー・レスキュー (Tattoo Rescue)」スパイクTV

「バッド・インク (Bad Ink)」A&E

「タトゥー・タイタンズ (Tattoo Titans)」CMT

 



  1. 9.アラスカとカナダ


これは上のサヴァイヴァル系番組とも関連しているのだが、サヴァイヴァル・リアリティを撮影するのにうってつけなのは、未だ手つかずの自然が残っている北の大地か南のジャングルだ。そして寒い北が選ばれた場合、ほぼ必然的に舞台はアラスカかカナダのユーコン地方になる。


一方、この地域はまだ手つかずの資源が眠ってもいる。特に金やダイヤモンドを発掘する一攫千金を夢見て、多くの冒険野郎、というよりも社会生活不適合者がこの地を目指してやってくる。それらの荒くれ男どもに密着するリアリティ・ショウがいくつも編成された。さらには単純に北の大地の自然に憧れてやってきた移住組、軍の基地で働く軍人の家族に密着するリアリティ・ショウ、はたまたあるいは癖のあるアラスカ女性のフロリダでの伴侶探しに密着する等、アラスカとユーコン地方はリアリティ・ショウのメッカになりつつある。



「メアリード・トゥ・ジ・アーミー: アラスカ (Married to the Army: Alaska)」オプラ・ウィンフリー・ネットワーク

「アルティメット・サヴァイヴァル・アラスカ (Ultimate Survival Alaska)」ナショナル・ジオグラフィック

「ライフ・ビロウ・ゼロ (Life Below Zero)」ナショナル・ジオグラフィック

「アイス・パイロット (Ice Pilots)」ウェザー

「アラスカン・スティール・メン (Alaskan Steel Men)」ディスカバリー

「ユーコン・ゴールド (Yukon Gold)」ナショナル・ジオグラフィック

「アラスカン・ウーメン・ルッキング・フォー・ラヴ (Alaskan Women Looking for Love)」TLC

「アラスカ・ゴールド・ディガーズ (Alaska Gold Diggers)」アニマル・プラネット

「レイルロード・アラスカ (Railroad Alaska)」デスティネーション・アメリカ




  1. 10.クルマのリストア


野晒しになっていたり乗っていないクラシック・カー、ヴィンテージ・カーやモーターサイクルをできるだけ値切ってリストアし、高く売るというヒストリー・チャンネルの「アメリカン・ピッカーズ (American Pickers)」や「アメリカン・リストレーション (American Restoration)」は、同様のクルマのリストア・リアリティという新しいジャンルを定着させた。要はアメリカ人はやはりクルマ好きなのだ。



「カウンティング・カーズ (Counting Cars)」ヒストリー

「ザ・カー・チェイサーズ (The Car Chasers)」CNBC

「フィリー・スロットル (Philly Throttle)」ディスカバリー

「ターン・アンド・バーン (Turn and Burn)」ディスカバリー

「ロッド・エン'ホイールズ (Rod N' Wheels)」ディスカバリー




番外: ネットワーク・ライヴ・ミュージカル


年末にNBCが生放送した「サウンド・オブ・ミュージック・ライヴ! (The Sound of Music Live!)」は、久し振りのネットワークTVによる大型特番という印象が濃厚のイヴェント番組だった。近年でもTVドラマやTV映画の生放送の例はいくつかあるが、3時間のミュージカルを生放送したというのは、TVという媒体のすべての歴史を見渡しても例があるかどうか。舞台の中継とはわけが違う。


これだけ新味があると話題になり、多くの視聴者を獲得した。NBCは既に来年も大型ミュージカルの生放送を予定しており、今後数年は年末に生ミュージカルTVが見られるかもしれない。同時に、他のネットワークがただ手をこまねいて見ているだろうかという懸念もある。だいたい、あるネットワークが新しい試みに挑戦してそれを成功させると、他のネットワークも我先にとばかりに真似をして、結果としてすぐに供給過剰のマンネリに陥り、衰退して行くというのがこれまでのパターンなのだ。大型ミニシリーズをどこも競って製作し、視聴者から飽きられジャンル全体が衰退してしまったという過去の経験を繰り返さないように。












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2013年アメリカTV界10大ニュース。その2

 
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