近年のアメリカのケーブルTV界のお宝発掘系リアリティ・ショウの氾濫には、目を見張るものがある。とにかく猫も杓子もどこかにお宝が眠ってないかという番組ばかりなのだ。この一大ブームの源流が、ヒストリー・チャンネルの「ポーン・スターズ」にあることは疑う余地がない。
この辺りの詳細や昨年末時点での状況は「ハリウッド・トレジャー (Hollywood Treasure)」の項で書いたので再述は控えるが、現時点でもこの傾向は続いている。現在では、昨年末に群雄割拠という印象のあったそれらの番組の中では、A&Eの「ストレージ・ウォーズ (Storage Wars)」が頭一つ抜け出ており、あとは団子という印象が強い。
このブームを黙って見ているわけにもいかず、ついにネットワークのFOXまでもが今頃になって「ベリード・トレジャー (Buried Treasure)」なる番組を投入してきたが、これは明らかにDOAだ。金のかからない対象密着型のリアリティ・ショウとして頭角を現してきたお宝発掘番組がネットワークで放送されるからには、何かもっと新しい目を見張る趣向を取り入れることが必要だろう。
さて、いずれにしても現在でもこのジャンルでは圧倒的な人気を誇るのが、掲題の「ポーン・スターズ」と「アメリカン・ピッカーズ」だ。「ポーン・スターズ」はラスヴェガスのポーン・ショップ (質屋) 「ゴールド&シルヴァー・ポーン・ショップ (Gold ＆ Silver Pawn Shop)」経営者の、親子3代にわたるハリソン一家に密着する番組で、「アメリカン・ピッカーズ」は、アメリカ中を渡り歩きながら掘り出し物を探して回るマイク・ウルフとフランク・フリッツの二人のピッカーに密着する。
最も新参の「アメリカン・リストレーション」は「ポーン・スターズ」からのスピンオフ番組で、「ゴールド&シルヴァー」に持ち込まれたはいいものの、修繕やリストアが必要なものを一手に引き受ける、「リックズ・リストレーションズ (Rick’s Restorations)」経営者リック・デイルに密着する。こちらはお宝発掘番組ではないが、リックの人柄や「ポーン・スターズ」絡みでそこそこ人気がある。
別々に存在しているとはいえテーマが近く、それぞれ人気のあるこれらの番組を、クロスオーヴァーさせてみたらどうかという考えは、ごく自然に出てきたものと思う。「アメリカン・ピッカーズ」の二人が探し出してきたものを「アメリカン・リストレーション」で修理回復させ、「ポーン・スターズ」に売る。流れに無理がない。そこで製作されたのが、今回の「ザ・ピック、ザ・ポーン&ザ・ポリッシュ (The Pick, The Pawn, & The Polish)」と題されたクロスオーヴァー特番だ。
とはいうものの、実際には通常は「ポーン・スターズ」が客の持ち込んだものの修繕を「アメリカン・リストレーション」に頼むだけだから、やはりちょっと通常の流れとは違う。そこでこの特番を製作するためにどういうシチュエイションを捏造したかというと、まず、「アメリカン・ピッカーズ」の冒頭でいきなり「ポーン・スターズ」の現当主リックが登場する。先代のリチャードが近々のうちに70の誕生日を迎えるので、1957年型シヴォレーをプレゼントしたい。それを探し出してきてくれと、ピッカーズに頼むのだ。
なんでも1957年型シェヴィというのは最も多くNASCARで走ったクルマだそうで、マニア垂涎のクラシックなのだそうだ。リックはそれを見つけ出してくるのをピッカーズの二人に頼むのだが、そこはそれ、彼ら以外にも狙っている者の多いクルマとて、簡単には見つからない。やっとのことで探し当てたクルマは、正直言って解体一歩手前の野ざらしになったままの状態で、もちろん走らないし内部は錆びだらけだ。これ、本当に買うわけ?
しかしピッカーズはそこで持ち主と交渉に入る。彼らの仕事はできるだけ安く車体を手に入れ、できるだけ高くリック (H) に売りつけることだけにある。モノのリストアは、それこそそのためにリック (D) がいるのだ。ピッカーズはまずオーナーにいくらなら車を手放すかと訊き、6,500ドルという答えを得る。6,500ドル!? 50万円!? 錆びだらけの走らないクルマが! 一瞬耳を疑ったが、彼はマジだ。本当に車体だけでも買い手のあるクラシック・カーのようだ。
ピッカーズはそこで、我々の予算は4,500ドルだと持ちかける。安くで買い叩けば叩くほど差額は彼らの儲けになるので、この交渉はTV番組云々を別にして彼らも本気だ。オーナーも折れ、5,000ドルで商談成立。今度はピッカーズはリック (H) に電話をかける。今度は彼らが売る方だ。できるだけ高く売りたい。まず8,500ドルと吹っかけ、予算は6,000ドル程度なんだがと渋るリック (H) に、急ぎなんだろ、こちらも八方手を尽くしたんだとあることないこと吹き込む。商売上手だ。リック (H) は、ではモノを見てからだと、ピッカーズにクルマをヴェガスまで運ばせる。
しかしヴェガスでは、モノを見たとたん、リック (D) は渋い顔になる。ボディ以外はほとんど一から作り直すに等しい。リック (H) も同様に渋い顔だ。これは値切りたい。しかしピッカーのマイクとフランクは、7,500ドルから下には下げないと相談して交渉に挑む。リック (H) はまず6,000ドルと切り出し、ピッカーズの強硬な抵抗に遭う。じゃあ7,000ドル、もう一声という感じで詰めていき、最終的に7,225ドルで合意、握手を交わす。ピッカーズはクルマと輸送費で5,500ドル使ったため、利益は1,725ドルだ。結構歩き回る金と時間と情報網を使っており、時間との戦いやプレッシャーなど、私の眼から見ると特においしい商売とも思えない。値切り上手、交渉上手でなければ逆に損しそうだ。好きじゃなければやっていけない仕事だろう。
ここまでが「アメリカン・ピッカーズ」で、番組は次の「アメリカン・リストレーション」に移動する。「ピッカーズ」は1時間番組で、「リストレーション」と「ポーン・スターズ」は共に30分番組だ。今回の特番においては、リチャードにプレゼントするシェヴィ・ネタで推移しているとはいえ、それぞれの番組は他にもお宝を発掘したり、リストアしたり、客から持ち込まれた質ネタを値切ったりしている。
「リストレーション」では、リック (D) は持てる技術とスタッフを総動員してクルマのリストレーションに当たる。リストアに充てる予算と期間はどれくらいになりそうかと訊かれ、リック (D) はこれにつきっきりでやるとして6か月で予算70,000ドルと答え、リック (H) から3か月でやってくれと言われる。リチャードの誕生日が来てしまうのだ。もちろんオーナーズ・マニュアルなんてない。ほんとに、最初から自分で組んで作った方が安くて早いんじゃないかと思えるくらいだ。7,000ドルで買って70,000ドルかけて直すなんてどこか間違っているような気もしないではないが、それが骨董品の価値というものなんだろう。
番組はそのまま「ポーン・スターズ」に流れ込む。まだシェヴィのリストアは完成していない。本当に仕上がるのだろうか。そして番組も終了間近になってでき上がってきたシェヴィは、新車みたいなゴージャスなクルマに生まれ変わった。全体が黒メタ、テイル・フィンがシルヴァー・メタで、こうやってフル・リストアされて復活してくると、この年代のクルマ独特の存在感があることは否定できない。これは、確かにマニアなら一千万円は出すかもしれない。リチャードもご満悦だ。それでこの時とばかりにリック (H) は、先代にそろそろ引退を、と禁句発言。一瞬静まり返る場内。しかしリチャードはそれをジョークで一蹴し、悠然とシェヴィに乗ってドライヴに乗り出すのだった。ヴェガスとこの時代のクルマって、これがまたよく合う。
