The Voice   ザ・ヴォイス

放送局: NBC

第1シーズン・プレミア放送日: 4/26/2011 (Tue) 21:00-23:00

第2シーズン・プレミア放送日: 2/5/2012 (Sun) 22:00-23:00

製作: ワン・スリー、タルパ・コンテントUSA、ワーナー・ホライズン

製作総指揮: ジョン・デ・モル、マーク・バーネット、オードリー・モリッセイ

コーチ: アダム・ラヴィーン、シー・ロー・グリーン、クリスティーナ・アギレラ、ブレイク・シェルトン

ホスト: カーソン・デイリー


内容: 勝ち抜きシンギング・コンペティション・リアリティ。


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The Voice


ザ・ヴォイス   ★★★

勝ち抜きのシンギング・コンペティション・リアリティ「ヴォイス」は、要するに、基本はFOXが放送している現在No. 1の人気を誇るTV番組「アメリカン・アイドル (American Idol)」と同じだ。「ヴォイス」は、そこに様々な新しいギミックを導入して、息切れの兆候が見え始めていたこのジャンルに新しい息吹きを吹き込むことに成功した。


昨年の第1シーズンは春先から初夏まで3か月にわたって都合12回放送され、尻上がりに成績を上げた。「アメリカン・アイドル」がさすがに頭打ちでこれ以上の成績向上は望むべくもない時に、しかもここんとこネットワークとして成績最下位に甘んじているNBCでただ一人気を吐いた「ヴォイス」は、ほとんど唯一の明るい材料だった。


NBCは他にもシンギング・コンペティションの「ザ・シング-オフ (The Sing-Off)」を編成しているが、多人数によるアカペラ・コンペティションの「シング-オフ」は、どうしても好みが偏りやすい。私や、合唱をやっているうちの女房は番組のファンなのだが、これが大多数にアピールしているわけじゃないというのもわかる。そういう時に現れた「ヴォイス」は、NBCの救世主的存在だった。


その「ヴォイス」、第2シーズンのプレミア・エピソードはアメリカで年間で最も多くの視聴者を獲得するNFLの優勝決定戦、「スーパー・ボウル (Super Bowl)」直後に編成された。因みにスーパー・ボウルはエミー賞中継と同じく、毎年各ネットワークが持ち回りで中継し、今年はNBCがその番に当たっていた。そこでNBCは、その後に編成することで番組の露出度を高めることを狙ったわけだ。どんなに番組に期待しているかが窺える。


ニューイングランド・ペイトリオッツ対ニューヨーク・ジャイアンツという4年前と同じカードとなった今回のスーパー・ボウルは、今シーズン圧倒的な戦績を誇るペイトリオッツに対し、一方のジャイアンツは首の皮一枚残したワイルド・カードでプレイオフに駒を進めてきた。しかしそのせいもあって毎回勝負は接戦、もしくは逆転でファンを沸かせており、勝負としてはこちらの方が盛り上げており、注目は高かった。


私がジャイアンツ応援に燃えるニューヨークに住んでいるということを抜きしても、ここまで街中が浮かれ騒ぐかというくらい、街はフットボール一色だった。サッカーのワールド・カップの20倍くらい人が熱狂しているという感じがした。サッカーにも増してフットボールのルールなんかまるで知らないうちの女房までもが、今回はスーパー・ボウル見ると断言していたくらいだから、注目度の高さが知れる。


因みに勝負の方は再度ジャイアンツがペイトリオッツを破ったわけだが、その中継は、全米で1億1千113万視聴者が見るというレコードを叩き出した。日本の全国民数とほぼ同じ数字だ。そしてそのゲームが終わった直後、夜10時、実際には10時半前後から第2シーズンの放送が始まったのが、「ザ・ヴォイス」だ。


「ヴォイス」は、4人のコーチがステージに向かって後ろ向きに座り、まず参加者の歌だけを聴く。声だけで判断し、気に入ったらボタンを押してステージに向き直り、自分のティームに勧誘する、「ブラインド・オーディション」で幕を開ける。コーチを務めるのは、アダム・ラヴィーン、シー・ロー・グリーン、クリスティーナ・アギレラ、ブレイク・シェルトンというそれぞれ第一線で活躍する現役シンガーだ。


ラヴィーンはマルーン5のヴォーカル、グリーンは元ナールズ・バークリーのヴォーカル、アギレラはまず知らない者はいないだろう。一方カントリーにはまったく素養のない私は、斯界ではビッグ・アーティストらしいシェルトンは、実はこれまでまったく知らなかった。たぶんグラミーとかのパフォーマンスで一度ならず目にしているとは思うのだが、このジャンルの曲は耳を素通りするので、まったく記憶に残らない。


年齢制限にさえ引っかからなければ誰でも応募でき、そのカン違いにーちゃんねーちゃんたちの脱線ぶりが面白くもあった「アイドル」とは異なり、「ヴォイス」は、応募してきた者を篩いにかけ、さらに全米からスカウトしてくるなど、ブラインド・オーディションの時点で既にセミ・プロ級の者が揃っている。そういう者たちが歌うのを、声だけで判断する。


これがまずなかなか面白い。人によってはものすごくかっこいい、可愛いにーちゃんねーちゃんだったりし、歌って踊っているのを見ると既にスター並みというのがざらにいるが、コーチには声しか判断する材料が与えられていない。そのため、どんなに顔やスタイルがよくても、この時点ではなんのプラスにもならない。まず声だけでコーチに印象を与えなければならないのだ。そのため、どんなに容姿がよくても声だけでは今一つと思われると、どのコーチもボタンを押さず、引き取り手がいないことになって、参加者はこの時点で失格となる。また、二人以上のコーチが同一参加者に対してボタンを押すと、参加者にコーチを決める決定権があるため、今度はコーチ同士が参加者に対して自分のティームに来いと勧誘合戦を繰り広げる。


一方、まったく逆に、どんなに声がよくても、姿形を見るとスターにはなれないだろうなというのもいる。甘いファルセットで歌うじじむさい男や、軽やかな歌声を聴かせる坊主頭のゲイの女性なんてのが登場すると、ボタンを押して振り返ってシンガーを見るコーチは、声と見かけのあまりの乖離に一瞬唖然とすることになる。この時のコーチの反応が面白い。


第1シーズンではブラインド・オーディションには敗者復活戦があったが、第2シーズンではそれがなくなった。一度落とされた者にもう一度歌うチャンスを与えるのだが、一度落ちた者がもう一度歌っても、コーチが求めるものと違っていれば、やはりアピールしない。結局、最初ダメだったら二度やってもやはりダメな可能性が高い。そうやって二度歌って二度とも落とされると参加者のダメージはかなり大きく、結構立ち直れないと思う。


また、2回目に歌って今度は見た目も考慮の対象にするというのでは、ブラインド・オーディションをする意味がない。第2シーズンで敗者復活がなくなったのは、そのことに番組プロデューサーも気づいたからだろう。むろん単純にコーチが考え直すということもあり得なくはなく、昨年のFOXの「ジ・Xファクター (The X Factor)」のように、ジャッジのサイモン・コーウェルが考え直して、一度は落としたメラニーが優勝したという例もある。ただし、その可能性を最初から排除することで機能している「ヴォイス」では、やはりこの時点で敗者復活をさせるわけにはいくまい。


その後、ステージはでき上がった4ティームによる「バトル・ラウンド」に移る。一つのティームから二人ずつボクシングのリングを模した特設ステージに上がり、実際にバトルよろしく一緒に同じ曲を歌うのだ。同じ曲を歌っても、歌う人間が違うと声質や曲の解釈で、時によってはかなり印象が異なる。しかも同じ曲を歌って落とされると、自分が劣るということがはっきりと形に見えてしまうので、どの参加者も精一杯、というか、必死、というか、本当にバトルしているように歌う。そしてどちらが残るかは、コーチの選択に託される。コーチという個人の嗜好によって勝者が決まるので、この時点での勝者の決定は、少なくとも第1シーズンを見る限り、かなり私の選択とは食い違った。特にコーチとしては、今後この参加者がどうやって伸びていくかという視点が大きくものを言うと思う。


バトル・ラウンドが終わると、今度はやっと視聴者投票によって毎週参加者が一人ずつ落とされていく。とはいえ、下位の者から最終的に誰を落とすかは、コーチが決める。第1シーズンでは、バトル・ラウンドが終わると1ティーム二人ずつ計8人が残っており、準々決勝と称していた。しかし第2シーズンではブラインド・オーディションで前回の3倍の1ティーム12人が残っており、バトル・ラウンドでさらに半分落としたとしてもまだ1ティーム6人、計24人残っている換算だ。そこから毎週投票で一人ずつ落としていったら、さらに半年かかってしまう。たぶんバトル・ラウンドでもっと落とすか、勝ち抜き投票で一回で複数人落としたりするに違いない。


「アイドル」以降、いくつも編成されながらもこれまで成功した番組がなかった勝ち抜きのシンギング・コンペティションにおいて、やっと「ヴォイス」が「アイドル」並みの成功を収めたのは、こういう勝ち抜きリアリティにいくつものギミックを持ち込み、勝負としてのシンギングや展開を活性化させたからに他ならないが、もう一つ言えるのが、コーチの人選の妙だ。


ラヴィーンはマルーン5のヴォーカルとしてはつとに知られていたが、どうしてもクールなイメージが先行して、これまでとっつき難いという印象を与えていた。それが口を開かせるとなかなか軽妙なジョークを言う。グリーンも、これまではナールズ・バークリーのヴォーカル、あるいはソロ・シンガーとして知っていただけで、こちらもほとんど人柄なぞ知らなかった。しかし昨年のグラミーで、孔雀ばりの金ぴか奇抜衣装でグウィネス・パルトロウと共にステージに現れ、全視聴者をあっと言わせたのは記憶に新しい。その直後に「ヴォイス」放送が始まったから、一気に顔と名がお茶の間に定着した。


アギレラも結構紅一点として頑張っている。最近は新曲を聞かないし、離婚やらなんやらでネガティヴなニューズの方が多かったから、本人としても番組に出てプラスになっているだろう。カントリー・シンガーのシェルトンは、個人的には正直言うと名前すら知らなかったのだが、実は、一番評価が高いのが彼だ。最も的確な批評をするから説得力があるし、なによりもこいつがうまいのは、誉め方だ。とても上手に参加者を誉める。誉め方にも上手下手があるんだなというのが、彼を見ているとよくわかる。きっと彼は教え上手でもあり、彼に教えられるシンガーは伸びると思う。


そして彼らの全員が現役一線バリバリのシンガーであり、「ヴォイス」が「アイドル」と絶対的に一線を画するのが、ここだ。つまり、最終段階に入ると、彼らは、自分がコーチした参加者と共に、一緒にステージに上って歌う。自分の歌だったりもするし、他人のヒット曲だったりもする。いずれにしても、これがなかなか魅せる。金とって見せる芸の域に達しているステージングなのだ。「アイドル」では、ジェニファー・ロペスは歌って踊れるしスティーヴン・タイラーもいけるし、ランディ・ジャクソンもベースを弾くが、しかしサイモン・コーウェルは人に文句をつけるのがうまくても、彼自身は歌えまい。要するに、「アイドル」では彼らはあくまでもジャッジであり、コーチではない。「Xファクター」でコーウェルはコーチではあるが、やはり参加者と一緒には歌えない。つまり、「ヴォイス」では参加者とコーチの結びつきがより密接で、そのことが実際に番組を面白くしている。


コーチはティームとして選んだ者たちに対して個人的にレッスンするのだが、第2シーズンではさらに多様なアドヴァイザを招いて、レッスンに彩りを添えている。なかでもあっと思ったのが、シェルトンがアドヴァイザとして呼んだケリー・クラークソンで、シェルトンがクラークソンを知っていること自体はなんの驚きもないが、しかし、「アメリカン・アイドル」の初代優勝者であるクラークソンが、ライヴァル・ネットワークのNBCの同様の勝ち抜きシンギング・コンペティションに出てコーチしてもいいのかと思った。それにしても、クラークソンって、デビューしてから10年も経つというのに、これだけ人前で歌って、あれだけヒット曲を出して、いまだに垢抜けない。これだけ変わらないっていうのも珍しくないかと思うが、ケリーはそれがいいんだよというのは、私の女房の弁。


さて、これまでの段階で第2シーズンの優勝者を予想しようとしたのだが、正直言って、誰が勝つかよくわからない。「アイドル」もそうだったが、こういうコンペティション・リアリティは知名度が上がる第2シーズン以降になると、いきなり参加者のレヴェルが上がって接戦になるので、予想をつけにくい。うーん、単純に本当にヴォイスだけを聴くと、最も気に入っているのはティーム・アダムのマーサイや、ティーム・ブレイクのアリクス辺りだったりするんだが、勝負として予想すると、わからないとしか言いようがない‥‥



追記: (2012年5月)

さて、「ヴォイス」シーズン・フィナーレ、勝ったのは意外も意外、アリシア・キーズのバック・シンガーのジャーマイン・ポールだった。私は最後に残った4人の中では最も弱いと思ったのだが、判官びいきや、唯一の黒人ということで黒人票も多く入ったに違いない。ここ数回かなりよく、優勝最右翼と思えたジュリエット・シムズが最後の最後のパフォーマンスで今一つだったのも、票が流れた理由じゃないかと思える。いずれにしてもここまで来ての優勝は運も実力も兼ね備えていることの証明だ。あの激戦を勝ち残ったのは大したものだと卒直に思う。









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