放送局: WB

プレミア放送日: 3/29/2006 (Wed) 21:00-22:00

製作: HBOインディペンデント・プロダクションズ、レヴィンソン/フォンタナ・カンパニー、ワーナー・ブラザースTVプロダクション

製作総指揮: バリー・レヴィンソン、トム・フォンタナ、ジム・フィナーティ、ジュリー・マーティン

クリエイター/脚本: ジュリー・マーティン、トム・フォンタナ

監督: アダム・バーンスタイン (パイロット)

撮影: テリー・ステイシー

美術: クリストファー・ノワク

編集: ケン・エルート

音楽: ケヴィン・カイナー

出演: マシュウ・モディン (ジエイク・マックリン)、ペン・バドグリー (オーウェン・グレゴリー)、ティファニー・デュポン (サラ・グレゴリー)、ヴィクトリア・カータジーナ (ゾーイ・ロペス)、コリ・イングリッシュ (ナタリー・ダイクストラ)、ミロ・ヴェンティミグリア (リチャード・ソーン)、アーネスト・ウォデル (リー・ヘミングウェイ)、オードラ・マクドナルド (カーラ・ボナテリ)


物語: ニューヨークのベッドフォード大学でマックリン教授は、人間のセックスを対象に性科学とでもいうべき講座を持っていた。今季そのクラスに入ってきたのは、ベンとティファニーのグレゴリー姉弟、アル中から回復中のリチャード、自殺未遂の経験を持つナタリー、背伸びしたがりのゾーイらで、彼らは自分の経験を元にヴィデオ・ダイアリーを紡いでいくのだった‥‥


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バリー・レヴィンソン、トム・フォンタナのプロデューサー・コンビのアメリカTV界への貢献は、決して小さくないものがある。「ホミサイド」、「Oz」に代表される、あたかも今現在起きている出来事をとらえているかのようなドキュメンタリー・タッチの硬派ドラマは、例えば、それまでの硬派ドラマの代表と言えた、スティーヴン・ボチコが製作していた「NYPDブルー」のような番組を霞ませるほどだった。


フォンタナとレヴィンソン、そして「NYPDブルー」派のボチコとデイヴィッド・ミルチ、そして「ホミサイド」と「NYPDブルー」の両方に関係していたデイヴィッド・ミルズ等のこの辺の横の繋がりのある一握りのプロデューサーによって、アメリカの硬派ドラマは持っていると言える。因みに現在放送中のアメリカで最も硬派なドラマといえば、ミルチがHBOで製作している西部劇「デッドウッド (Deadwood)」だろう。


もっともレヴィンソン/フォンタナのコンビも、いつでも硬派の番組ばかりを製作しているわけではない。特にレヴィンソンは、初期の頃はどちらかといえばハート・ウォーミング系の演出家という印象が強かった。わりと最近でも「バンディッツ」とかを見ると、この人一人だけだと、たぶん硬派ドラマには手を出すまいと思える。このコンビの硬派の部分は、主としてフォンタナの方が担っているんじゃないだろうか。


さて、そのレヴィンソン/フォンタナ・コンビが「ホミサイド」、「Oz」以降製作してきたドラマは、しかし、成功したとは言えなかった。UPNで製作した「ザ・ビート」は、その時まだ無名に近かったマーク・ラファロ、ポピー・モンゴメリらを起用し、斬新なスタイルなど見るべきところも多かったが、視聴率的にはほぼ惨敗した。一昨年のFOXでの「ザ・ジューリー」も、いかにもこのコンビらしい視点や切り口だったが、これまた視聴者を獲得するには至らなかった。


とまあ、最近商業的に成功しているとは言えないレヴィンソン/フォンタナによる最新のドラマが、この「ザ・ベッドフォード・ダイアリーズ」であるわけだ。そのことはともかく、その内容を一瞥して、これ、本当にレヴィンソン/フォンタナ番組であるわけ? と不安になる。ニューヨークの大学でセックスを研究する若者たち‥‥なんだ、いったい、これ。コメディにも見えんが。レヴィンソン/フォンタナもついに受けを狙い始めたか。だいたい、マシュー・モディンや、よりにもよってオードラ・マクドナルドがなんでこんな番組に出てんだ? 実はそれなりに力の入っている番組なのか?


まあ、しかし、最近の打率を考えると、これまでとは異なった種類の番組に手を出したくなるだろうというのはわかるし、実際、それもいいかもしれない。案外、いかにもこのコンビらしいあっと言わせるような番組になっている可能性もなきにしもあらず、と思って見始めたのだが、やはりどうも今イチ乗らない。


「ベッドフォード・ダイアリーズ」は、大学でたぶん社会学の一端として、セックスを通じて人間の行動を研究するという名目の講座を受講する若者たちを追う。彼らは教授 (モディン) からヴィデオ・カメラを手渡され、普通なら他人には見せないはずの自分のプライヴェイトな部分をカメラに向かって告白することで人間の本質に迫る‥‥ま、実際「キンゼイ」はそういうことをしていたわけだし、あり得ない話じゃないだろう。要はその学生たちの話が面白ければいいわけだ。


とはいうものの、それがこちらの興味を持続させるほど面白いかというと、首を傾げざるを得ない。主人公格はオーウェンとサラのグレゴリー姉弟で、サラは大学の学生による自治体の要職に就いており、学内では既になかなかの顔だ。そのサラの、特に仲がいいわけでもない弟がよりにもよって同じ学校に入学し、しかもオープンに自分のセックスについて話し合う授業で一緒になってしまう。いくらアメリカとはいえ、セックスのことを綿密に話し合う兄弟姉妹がそうそういるとも思えないし、これではお互い腐りたくもなる。


サラは一時期、教授と寝ていたことがあり、そのせいかは知らないがその教授は現在妻と別居中だ。そのことを感知した学内新聞を発行しているリチャードは、記事にしようとアプローチする。一方、グレゴリーが親しくなったナタリーはかつて学校の屋上から飛び降りて助かったという自殺未遂の経験があり、そのナタリーがジャンプする前日に一緒に寝ていたのがリチャードだった。リチャードはそのため女性と寝ることが一種の恐怖になってしまい、現在アル中からのリハビリ中だ。


その他、幼い頃からの白人のガール・フレンドがいる黒人のリーは、彼に興味を持った遊び人風のゾーイから誘われるが、実は彼女こそヴァージンだった。等々、現代学生気質が描かれるわけだが、それでも、で、だから何? と思う以上のものになっているかというと、実は心もとない。モディンやマクドナルドも、刺身のツマ以上のものではなく、なんで彼らがこういう番組に出ているのかよくわからない。特にマクドナルドはなあ、もったいないよなあ。誰か彼女のためになんか歌って踊れる番組を作ってやるやつはいないのか。


結局、レヴィンソン/フォンタナが目先を変えてみようと製作したと思われる「ベッドフォード・ダイアリーズ」だが、それが成功しているようにはほとんど思えない。若者向け番組主体のWBで放送される番組ということで、その辺を充分意識して製作したのはわかるが、しかし若者の生活を描く学園ドラマとしてだったら、同じWBドラマでもまだ「フェリシティの青春」や「バッフィ」の方がよくできていたと言わざるを得ないし、レヴィンソン/フォンタナ製作のドラマとしての面白さという点でも、「ビート」や「ジューリー」に一歩譲る。「フェリシティ」や「バッフィ」の場合、若者という枠を超えてアピールすることで人気番組となったわけだが、「ベッドフォード」の場合、登場人物と同年代の一部の視聴者以外にこの番組を見る者がいるとは到底思えない。少なくとも私はまったく興味を失ってしまった。


個人的には、サラ役のティファニー・デュポンは、一昔前のジェニファー・コネリーとリヴ・タイラーを足して割ったような美形で悪くないと思うし、また、題材でも、学校の校舎から連続して飛び降りる自殺者が出たという設定は、実際に数年前にマンハッタンのNYUで、同様に連続して自殺者が出たという事実を踏まえているのは明らかだ。そういう裏事情を知っているとまたそれなりに面白味があることも確かではあるが、そういう現実に起こった出来事をうまく話の中に取り込むという技では、これはもうNBCの「ロウ&オーダー」の方が一枚も二枚も上手だ。番組の製作にはHBOが一枚噛んでいるところを見ると、当初はたぶん論議を醸すような題材の選択といい、HBO用として企画された番組だと思うが、これではダメだと他に回されたんだろう。要するにやはり「ベッドフォード」はいま一つだ。今秋、「ベッドフォード」が新しく発足する新生ネットワークのCWのレギュラー番組の一つとして生き残る可能性は、残念ながらないだろう。   





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The Bedford Diaries


ザ・ベッドフォード・ダイアリーズ   ★★

 
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