Bandits

バンディッツ  (2001年10月)

今年、久方ぶりにMGMが頑張っている。近年、MGMといえばメイジャー・スタジオというのは名ばかりで、はっきり言って一昨年の「ワールド・イズ・ナット・イナッフ」以来ヒットらしいヒットもない。昨年なんて、マーケット・シェアがたったの1%という、メイジャーというにはあまりにも寂しい成績に甘んじていた。最近ではMGMが話題になるのは、配給する映画のことではなくて、身売り話が持ち上がる時だけだったりした。


それが今年、「ハンニバル」を皮切りに、サプライズ・ヒットの「リーガリー・ブロンド (Legally Blonde)」等のおかげで、現時点で既に昨年の3倍の興行成績を上げている。そして、製作費8,000万ドルという青息吐息のスタジオにしては大博打を打った「バンディッツ」が、いよいよ公開だ。本当なら年末に、今度こそ本当にスタジオの命運を賭けたとも言うべき、ジョン・ウー監督、ニコラス・ケイジ主演、製作費1億1,000万ドルの大作戦争ドラマ「ウィンドトーカース (Windtalkers)」が公開予定だったのだが、9月11日のテロリスト・アタックの後、この種の映画の公開に敏感となったスタジオの判断により、来夏まで公開延期となった。


別にMGMに義理があったりするわけではないので、観客の立場から言わせてもらえば、作品が面白そうなら見る、面白くなさそうなら見に行かないだけのことであるが、ふと気づくと、あの、ライオンががおーっというオープニングのスタジオのロゴを最近見てないなと思うのは、やはりなんとなく寂しい。


それでも、実は本当なら「バンディッツ」じゃなく、デイヴィッド・リンチの「マルホランド・ドライブ」を見に行くつもりだったのだ。そしたら女房も見たいというが、風邪気味で外出したくない、今週は別のを見に行ってくれという。というわけで、一人で第2候補だった「バンディッツ」を見に行くことになったのだ。関係ないが、風邪気味と言えば、今アメリカ中に恐慌を巻き起こしている炭疽菌の初期症状も、ほとんど風邪と同じ症状だそうで、普通に生活してて炭疽菌にかかる確率は落雷に当たる確率より小さいそうなのだが、やはり気になる。とにかく映画一つ見るにも、テロリスト・アタックの影響から無関係でいられない。ふう。


さて、「バンディッツ」であるが、バリー・レヴィンソン監督、ブルース・ウィリス、ビリー・ボブ・ソーントン、ケイト・ブランシェット共演である。まず、レヴィンソンは、最近「ワグ・ザ・ドッグ」見たいなきりっと締まったシャープなブラック・コメディを撮るかと思えば、何をしたいのかよくわからない「スフィア」見たいなSFを撮り、場所をTVに移して、やはり実験が過ぎるUPNの「ザ・ビート」を撮って、最近ちょっと失速気味である。しかし、この人のセンチメンタリズムって肌が合うのか、私は結構好きだったりする。


ジョー (ウィリス) とテリー (ソーントン) は、アメリカ史上例のない、連続銀行強盗を成功させたペアとして、アメリカ中に知られるようになる。映画は冒頭、その二人がついに足がつき、銀行を襲ったのはよいが、襲撃の最中に仲間割れ、周囲を警官に囲まれ、これで一巻の終わりかというシーンから始まり、そもそもの、彼らが知り合った刑務所でのなれ初めに遡って回想していく。それから彼らがどのように刑務所を脱走し、どのように連続して銀行強盗を成功させ、そして、どのように紅一点のケイト (ブランシェット) が仲間に加わったかが語られていく。


実は「バンディッツ」にそれほど惹かれなかった最大の理由は、ウィリスが出ているから、ということに尽きる。彼はよくも悪くも主役タイプなので、こういうアンサンブル・キャストだと、バランスがとれるかどうかどうしても不安になってしまう。もちろん「ダイ・ハード」シリーズや、TVでの出世作となった「こちらブルームーン探偵社」を例にとるまでもなく、ウィリスは実際、結構コメディ色の強い作品もこなすのだが、今回のようにソーントンやブランシェットと並べると、彼だけがどうしてもハリウッド色が強く、違和感を感じてしまうのは否めない。「ダイ・ハード」や「シックス・センス」のような作品だと全然気にならないんだけど。なんでウィリスなんだろう。


と、まるで期待していなかったせいか、非常に楽しんでしまった。 男二人に紅一点、追われながらの銀行強盗といえば、これはもう、誰が考えても「明日に向かって撃て」の現代版である。それをコメディ色を強くしたところが今回の最大の特色だ。「明日に向かって撃て」は詩情豊かという感じだったが、「バンディッツ」もレヴィンソンらしいセンチメンタリズムが横溢しており、それはそれで悪くない。逃避的感情と言われようと、たまにそういう懐古趣味的な感情に浸るのもいい気分転換になる。


しかし何がはまったかといって、作品中に使われる80年代のヒット曲が、しっかりと私のツボにはまってしまった。特にタニタ・ティカラムの「Twist in My Sobriety」が流れてきた時なんて、いや、好みがまったく同じだとびっくりしてしまった。この曲、本当によく聴いたなあ。また、最近、ボブ・ディランが復活ブームになっており、昨年の「ワンダー・ボーイズ」でも使われていたが、「バンディッツ」でもそうだ。そういえば両作品の手触りは結構似ている。マイケル・カーティスとレヴィンソンって同年代か。


ウィリスは、不安だったわりにはうまくこなしているが、やはりソーントンとブランシェットの方が役に合っている。ウィルスではなくて、同様の傾向で今は落ち目のやつ--例えば、ミッキー・ロークあたりの方がしっくり来たと思うんだが。特に今回最も気になったのが、銀行強盗ロード・ムーヴィなのに、ウィルスはいつ見てもドーランで顔がてかてかなことで、こういう映画でちゃんとメイキャップさせてしまうセンスだけはいただけない。むしろ常時顔に泥を塗るくらいのことをしてもらいたかった。また、私はソーントンもよく言われるほどうまい役者だとは思わない。ただし、変に頭でっかちだったり貧乏臭い役だったりすると、文句なくはまる。ブランシェットは、もちろん美人は美人なのだが、時々アングルによってぶすく見えるところが逆にらしさを出している。こういうところが、金持ちでも庶民でも両方違和感なくこなせる理由になっているんだろう。


ま、悪くなかったんだが、この映画をぼろくそに言う批評家が多いのも頷ける。特にウィリス絡みで文句を言われると、私も同感なだけにあまり擁護をしようという気にならない。しかし、期待しないで見にいくと面白い。この映画に使われている懐かしのヒット音楽と同じで、こういう古いヒット音楽というものは、自分から率先してCDを買おうという気には決してならないが、ラジオと同じで予期しないのに耳に入ると、つい、あ、これ、よく聴いた、と思わず耳を傾けたりする。そういう意味での懐古趣味的な楽しさはたっぷり提供してくれる。できれば最初からこの映画を見るつもりで劇場に行くのではなく、時間が合うのはこれしかなかったから、とか、待ちぼうけを食わされたから、とか、本当に見たかった映画が切符が売り切れだったから、なんていう理由で、ちっと舌打ちをしながら、しょうがない、これでも見るか、なんて感じで見れれば、シチュエイションとしては申し分ない。特に30代以上にはお薦めである。







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