Wonder Boys

ワンダー・ボーイズ  (2000年2月)

「L.A. コンフィデンシャル」の成功がまだ記憶に新しいカーティン・ハンソンが、95年発表のマイケル・チャボンの同名の原作を映像化。主人公が肥満気味の大学教授兼作家で、たった1作のベストセラーを発表した後は何も書けないでいるという設定に、「L.A. コンフィデンシャル」による成功の後、何を監督しようか迷っているハンソン自身がダブり、思わずにやりとする。さてハンソンがどうなのか、じっくり見せてもらおうか。


この主人公グレイディ・トリップに扮するのがマイケル・ダグラス。金/アクション/セックス/パワー・ゲームの絡まない、いわゆるハリウッドハリウッドした作品でないダグラスなんて見るのは私はもしかしたらこれが初めてではないだろうか。しかも肥満気味の主人公という設定にあわせて体重を増やしたと聞く。体重の増減を図る役者根性というよりも、私なんかそんなに簡単に体重が増減する体質の方が不思議である。私も近年ビールの飲み過ぎか以前に較べれば少し体重が増えたが、それでもこの20年間でせいぜい5キロくらいである。何もダイエットをしようとしているわけでなく、好きなだけ食ってこれだから、役のために太ろうとか痩せようとかどうあがいたって無理だ。しかしこの映画ではダグラスは、「あまり太り過ぎて観客が違和感が持たないくらいの程度で体重を増やした」のだそうだ。なんてこったい。


しかしそのダグラスを完全に食っているのが共演のトビー・マグワイヤ。芸達者のはずの共演のフランシス・マクドーマンドやロバート・ダウニーJr.が霞む。アカデミー賞にノミネートされた「サイダー・ハウス・ルールス」でも好演しているようだが(私は見てない。ジョン・アーヴィングは私のタイプではないです)、さもありなんと思う。マグワイヤ扮するジェイムスは金持ちの家の息子なのだが、自殺願望があるのか家を出てバス・ステーションで寝泊まりしている。大学でライティングを教えるトリップのクラスにいるが、廻りからは結構才能ない奴と思われている。それがたまたま週末をトリップと共に過ごす羽目になったことから、二人の間に奇妙な友情が芽生え、そしてその機を境に二人の将来が大きく変わることになる。


とにかく見終わった後に非常によい気分になれるフィール・グッド・ムーヴィーである。ポール・ニューマンが主演した「ノーバディーズ・フール」と見終わった後の印象がそっくり。主人公がブルー・カラーとホワイト・カラーという違いはあるが、どちらも雪の降る小さな町での話であり、主人公と周囲のやり取りを通して話が進み、最後には人生を肯定する前向きな小さなハッピー・エンドで終わる。また、「ワンダー・ボーイズ」では人生の師匠たるトリップがジェイムスを始終連れて回り、酒や煙草も含め結果的にあれこれと人生教育するのだが、こういうところはジャック・ニコルソンが主演した「さらば冬のかもめ」を思い出した。そういえばあれも冬の話だったな。


ハンソンがこの映画を「L.A.コンフィデンシャル」の次に選んだのはは非常にいい選択だったと思う。大型ヒット作品の次に小品ながら監督や役者の力量が問われる作品を選び、しかも手堅くまとめている。激賞はされないかも知れないが、この作品に文句を付ける批評家はいまい。しかし、いずれにしてもこの映画はハンソンの映画としてでもダグラスの映画としてでもなく、マグワイヤの映画として記憶されることだろう。「アメリカン・ビューティ」を見た時、ウェス・ベントリーに感心したものだが、よくもこう演技派の若い役者が後から後から出てこれるものだ。彼が注目されるきっかけとなった「アイス・ストーム」を見ていないのが悔やまれる。


シンガーのジュエルと共演した「ライド・ウィズ・デヴィル」は、TVで近日公開の宣伝してるなと思ったらもう終わっていた。この映画を見た者は私の知る限り一人もいないから、南北戦争時代が舞台ということ以外、何もわからない。マグワイヤはいったいどういう演技をしていたんだろう。そういえば「アイス・ストーム」も「ライド・ウィズ・デヴィル」もアン・リーの監督だな。気に入られたようだ。マグワイヤはレオナルド・ディカプリオの親友だそうだが、たとえ今ディカプリオが1作出て20億円とるスーパースターだとしても、マグワイヤの方がキャリアとしては順調だという気がする。気になる役者がまた一人増えた。


私はこの映画のオープニングとエンディングにボブ・ディランが使われていることなどまるで知らなかったのだが、実はこの映画を見に行く前、たまたまディランの「タイム・アウト・オブ・マインド」をずっと聞いていた。「ワンダー・ボーイズ」に気分がしっくり合って大層気に入ったのは、そういうこともあったかも知れない。






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