World Is Not Enough

007ワールド・イズ・ナット・イナッフ  (1999年11月)

ピアース・ブロスナンが三度ジェイムス・ボンドを演じる、恒例となった007シリーズの新作。今回は悪役に「フル・モンティ」や「トレインスポッティング」でお馴染みのロバート・カーライル、ボンドに絡む美女にソフィー・マルソーとデニス・リチャーズを配し、海を越えた007の活躍が益々冴え渡る。


もう、別に言うことはありません。やはりアクション・シーンは悪くないよ、と弁解する余地もないほど一部からは完全に無視されているが (私の女房もその口です)、どんなに馬鹿の一つ覚えと言われようとも、007は私の「Guilty Pleasure」として定着している。こんなに能天気に楽しめるシリーズを、やはり定期的に見たいと思うのだ。今回の悪役、レナードに扮するカーライルは、頭に残った銃弾のせいで痛みも熱さもすべての感覚が麻痺してしまった無感覚男という設定で、もうこの設定からしてまともに付き合うわけには行くまい。やはり出演者も余技といった感じで気軽に演じてくれる方がこちらも嬉しい。


その点、カーライルとマルソーは今回ちょっと真面目に入れ込み過ぎだと思う。おかげでマルソーはこれまでのボンド・ガールと較べ、ちょっと浮いているような気がする。何度もセミ・ヌードになる意気込みは買うが。そのため、ボンド・ガールなんてはなっから馬鹿にしているのがありありのリチャーズの方が、実はボンド・ガールとしてはまっているという事態になってしまった。やはりジュディ・デンチを見習わなくては。Mを演じるデンチは同業者からも尊敬されている偉大な女優なのだが、007で見る彼女はただのおばさんの域からほとんど出ていない。こんなのがMI6のボスなんて絶対有り得ないと思うのだ。まず彼女は役作りなんてやってないね。それよりもむしろ製作者側がそのままでいいから気楽にやってくれなんて頼んでるんじゃないかと思う。でも、それでいいじゃないかと思わせてくれるのが007シリーズのいいところであり、長寿の秘訣なんだと私は解釈している。


監督のマイケル・アプテッドは007シリーズを監督するのはこれが初めてだが、ニューヨークでは、一方で007と平行してアプテッド製作のドキュメンタリー「42 Up」が公開されている。これは1963年以来、7年ごとにあるグループの成長の記録を綴った作品なのだが、「7 Up」として始まったこのシリーズが、「14 Up」、「21 Up」、「28 Up」、「35 Up」と来て、ついにこのほど「42 Up」が公開された。英国ではほとんどカルト化するほど人気のあるシリーズらしいのだが、嘘偽りない人間の本当の成長記なんてほとんど見る機会はないだろうからそれも納得である。36年もの間、同じ人物を撮り続けた記録なんてそうはあるまい。


このシリーズに影響され、アメリカでも「7 Up America」、「14 Up America」という作品が作られたくらいである。果たしてこの作品が英国と同様順調にシリーズ化するかは誰もわからない。7年後を待つしかない。因みにアプテッドはこの作品では製作総指揮を務め、実際の製作にはタッチしていない。日本では、フィクショナルなドラマだが「北の国から」に頑張ってもらいたい。「Up」シリーズ以外では、「アガサ・愛の失踪事件 (79)」、「歌え!ロレッタ愛のために (80)」、「愛は霧のかなたに (88)」、「ネル (94)」等、重厚なドラマを得意とするアプテッドが果たして今回007をうまくやってのけたのか。アクションは悪くない、ドラマ部分がアプテッド監督の他の作品に較べては落ちるのはしょうがない (一体誰が007に重厚なドラマなど期待するのだ?) というのが私の意見である。






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