放送局: ABC

プレミア放送日: 9/1993 (Tue) 22:00-23:00

最終回放送日: 3/1/2005 (Tue) 22:00-23:00

製作: スティーヴン・ボチコ・プロダクションズ、20世紀FOXTV

製作総指揮: スティーヴン・ボチコ、デイヴィッド・ミルチ

製作: グレゴリー・ホビット

音楽: マイク・ポスト

出演: デニス・フランツ (アンディ・シポウィッツ)、マーク-ポール・ゴセラー (ジョン・クラークJr.)、ゴードン・クラップ (グレッグ・メダヴォイ)、ビル・ブロクトラップ (ジョン・アーヴィン)、デイヴィッド・カルーソ (ジョン・ケリー)、ゲイル・オグレイディ (ドナ・アバンダンド)、ニコラス・タトゥーロ (ジェイムズ・マルチネス)、ジェイムズ・マクダニエル (アーサー・ファンシー)、キム・ディレイニー (ダイアン・ラッセル)、シャロン・ローレンス (シルヴィア・コスタス)、エイミー・ブレネマン (ジャニス・リカルジ)、シェリー・ストリングフィールド (ローラ・マイケルズ・ケリー)、ジミー・スミッツ (ボビー・シモーン)、ジャスティン・ミセリ (エイドリアン・レスニアク)、アンドレア・トンプソン (ジル・カーケンドール)、リック・シュローダー (デニー・ソレンソン)、イーサイ・モラレス (トニー・ロドリゲス)、シャーロット・ロス (コニー・マクドウェル)


内容: 12シーズン続いた、NYPD (ニューヨーク警察) を舞台とするABCのヒット刑事ドラマの最終回。


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「NYPDブルー」クリエイターのスティーヴン・ボチコは、80年代に「ヒル・ストリート・ブルーズ (Hill Street Blues)」、「L.A.ロウ (L.A. Law)」、「天才少年ドギー・ハウザー (Doggie Houser, M.D.)」等、立て続けにヒット番組を製作したヒットメイカーである。そのボチコが93年にABCで製作した「NYPDブルー」は、当時、常識を超えた型破りの新番組として大きな話題となった。


ボチコが製作する番組は、リアリティを重視した群像ドラマが多いことが特色だ。もちろん中にはコメディ・ドラマと言える「ドギー・ハウザー」や、刑事ミュージカル・ドラマ「コップ・ロック (Cop Rock)」なんて、たぶんアメリカTV界すべてを見渡しても意外性という点では抜群の珍無類の番組も製作しているが、やはりその本質は、複数の警官、刑事や弁護士を主人公とした、硬派系の群像ドラマにある。


そして「NYPDブルー」は、「ヒル・ストリート・ブルーズ」や「L.A. ロウ」すら超える、ボチコの最大のヒット番組となった。「ブルー」は、系統としては「ブルーズ」や「ロウ」と同じのリアリティ重視の番組だが、さらにそれを一歩進め、差別用語や侮辱用語、ヌード描写等の、それまではアメリカTV界のネットワークではご法度とされてきた数々のタブーに敢然と挑戦したところに最大の特色があった。いまだにボチコの最高傑作というと、「ブルーズ」を挙げる者が多いのだが、こういった刺激度や話題性、そして人気の点で、ボチコ番組で「ブルー」を超える番組はあるまい。


一応解禁国であり、成人であれば誰でもハード・コアのポルノを簡単に手に入れることができ、ペイTVではさらに一段階上を行くヴァイオレンス描写ですら平気でまかり通るアメリカにおいて、今さら乳首が見えるか見えないかのヌード描写や、いくら登場人物が汚い言葉を吐くといっても、それでも面と向かってFxxkとかSxxtとかはまず言わない程度で、タブーに挑戦もなにもなかろうにという気もしないではない。


しかし、金を払わないと見ることのできないペイTVのHBOやプレイボーイ・チャンネルとは異なり、周波数帯を国から貸与してもらい、その電波に乗せて番組を放送するネットワークというアメリカを代表するチャンネルにおいては、FCC (連邦通信委員会) がその内容を常にチェックしている。公序良俗に反する描写のタブーというのは厳然として存在しており、こういった描写をエスカレートさせると、FCCが罰金や放送免許取り消しというお札を振りかざして迫ってくるアメリカ・ネットワーク界においては、これまでは裸を見ることなぞ到底かなわなかったのだ。


「NYPDブルー」が、まずそういう描写に挑戦したという点で真っ先に注目されたというのは、誰も否定できないだろう。とにかく93年に番組が始まった時は、そういった話題性が明らかに先行しており、内容はその次という印象の方が強かった。ところがいざ放送が始まると、そういう話題性はさておき、番組はその質の点において評価されることとなった。リアリティを重視するボチコ番組の特色が現実色の濃いセリフ回しやネットワークにしては過激な描写等とマッチし、これまでのアメリカ・ネットワーク界では見られなかった斬新な番組を提供したのだ。


実際、今思い返してもシーズン1の「ブルー」の面白さは別格だった。デイヴィッド・カルーソ演じる正義派刑事のジョン・ケリーと、デニス・フランツ演じる人種的偏見に満ちた元アル中刑事アンディ・シポウィッツのペアが人種の坩堝ニューヨークで相対する事件とその解決という構図には、これまでのどの刑事ドラマにも見られなかったダイナミズムがあった。特にカルーソは、それまでの無名俳優からこの番組で一躍セックス・シンボルとして全アメリカ女性の憧れの対象になった。弱者の味方であり、捜査の邪魔をしようとする権力に対してはあくまでも敢然と立ち向かうケリー刑事の活躍を見て、人々は溜飲を下げたのだった。実際、取調室で、忠実な犬類を連想させる容貌のケリー刑事が、あくまでも声音は優しく容疑者に諭すような感じで話しかけてくると、全然自分とは関係のない事件でも、思わずすみませんでしたと言ってしまいそうになる雰囲気が濃厚にあった。つまり、ケリー刑事はカルーソの一世一代のはまり役だったと言っていい。


その他にも現在、TVどころか映画界でもアクション系列の作品では主流となっている、手持ちカメラによる揺れるぶれ画面を定着させたことでも、「ブルー」は記憶されるに値する。今では誰でも当然のように思い、アクション・シーンだけではなく、エモーショナルなシーンでも当たり前のように使用されるようになった、手持ち撮影、揺れる画面、派手になり過ぎない程度の一瞬のズーミング・イン/アウトという手法は、映画ではなく、まずTVで、「ブルー」が嚆矢となって広めたものだ。今では誰もなんとも思わないだろうが、93年、それまでの固定画面の概念を打ち破って、最初から最後までほとんどすべてを手持ち撮影でとらえた「ブルー」の斬新な画面構成は、それだけでもあっと息をのんだものだ。今の視聴者は、当初「ブルー」を見てあまり画面が揺れるので気持ち悪くなったという当時の視聴者のショックなぞ想像もできないだろう。


その絶妙に面白かった「ブルー」は、しかし、1シーズンもしないうちに瓦解する。猫も杓子もカルーソ、カルーソと、特に女性から圧倒的な人気を勝ち得たカルーソが、よりにもよって天狗になってしまったのだ。共演仲間を見下すようになり、完全に製作陣から浮いてしまったカルーソは、結果として1シーズン限りで番組を去らざるを得なくなる。しかし、もちろんカルーソの人気は、「ブルー」のキャラクターと完璧にマッチしていたからこその人気であり、番組を辞めたカルーソが、ではとトライした映画界で活躍できたかというと、そうは簡単に問屋が卸すはずもなかった。


その後「ジェイド」や「死の接吻」等、数本の映画に出て失敗したカルーソは、しっぽを巻いてTV界に帰ってきたが、それでも鳴かず飛ばずの時期が続いた。本人も一時は俳優稼業は廃業だと観念した時期もあるそうだ。やっとカルーソが低迷の痛手から立ち直ったのは、2002年、CBSのヒット番組「CSI」の最新スピンオフ「CSI: マイアミ」の主演に抜擢されてからである。さすがに「ブルー」の失敗で懲りて、自分の人気で番組が持っているなんて錯覚は現在ではなくなったようだが、しかし、最初からそういう謙虚な姿勢を持っていれば、問題を起こした上に干されるなんてことにもならずに済んだのに。それよりも何よりも、「ブルー」のケリー刑事がもっと見れたのに、と残念がっても始まらない。


一方、ハゲ、デブ、差別主義の三拍子揃ったフランツ演じるアンディ・シポウィッツ刑事は、それだからこそまた、逆にドラマを提供してくれた。第1シーズンこそほとんどの話題をカルーソに奪われた感があったが、第2シーズン以降、カルーソの代わりに登場したジミー・スミッツ演じるボビー・シモーンをパートナーとして番組を盛り立てた。特に実の息子が暴漢に襲われて殺されてしまい、それをきっかけに坂道を転がるようにまたもや酒びたりの生活に転落していったあたりの昨劇術とフランツの演技は実に見事だった。元々それほどヒューマンな人柄として設定されているわけではなかったアンディが、初めて人の親としての情けを見せてほろりとさせた後の翌週のエピソードの冒頭で、アンディJr.が殺されたことを知る。意外性満点で、私の女房なんか、このエピソードを見てぼろぼろ泣いていたくらいだ。


その後、アンディはアル中になってドツボにはまるのだが、その迫真のアル中演技で、連続エミー賞主演男優賞受賞も当然と思わせた。もうこれ以上落ちようもないところまで行って、匙を投げる寸前まで来たボビーに「あんたは本当に助けてもらいたいのか」と詰問されたアンディが、「頼む、助けてくれ」と弱々しく答えるシーンは、番組の長い歴史の中でも白眉の一つだったと言えよう。そしてそのボビーもまた病魔に蝕まれ、第5シーズンで命を落とすのだが、ボビーが死ぬ時のエピソードというのも涙なしでは見られなかった。


スミッツが去って代わりにリック・シュローダー演じるデニー・ソレンソン刑事が登場した第6-第8シーズンは、残念ながら「ブルー」としては最も低迷した時期にあたる。それでもそれまでの面白さを知っている忠実な視聴者がチャンネルを合わせていたが、あのくらいでは満足しない視聴者も多かったろう。私もその一人である。カルーソ、スミッツ、シュローダー、マーク-ポール・ゴセラーと4代続いたアンディのパートナーの中で、いきなり行方不明になって殺されて死体となって発見された刑事は後にも先にもソレンソン刑事ただ一人だったというのが、その辺の人気度の具合を如実に反映していると言える。


その後、第9シーズンからアンディの最後のパートナーとなったゴセラーも、段々不良刑事になっていったりするなどいろいろ見せ場を作るべく考えてはいたんだが、カルーソ=スミッツ時代の面白さまでには達していなかったのは明白だろう。やはり「ブルー」もそろそろ潮時だったのかもしれない。


一方、アンディとそのパートナーだけでなく、「ブルー」はその他にも色々な俳優のスプリング・ボードとしての役も果たしている。第1シーズンにカルーソの妻として登場し、翌年から「ER」に登場、その「ER」も体がきついからと辞め、最近になってまた復帰してきたシェリー・スプリングフィールドを筆頭に、デイヴィッド・シュウィマーはやはり第1シーズンで、カルーソを兄貴分として慕う冴えない弁護士役として登場、結局犯罪のとばっちりを受けて殺されてしまう。彼が「フレンズ」で大ブレイクするのはその翌シーズンのことだ。


「ブルー」でも冴えない刑事の筆頭のくせに、なぜだかグラマーから持てたゴードン・クラップ演じるメダヴォイ刑事を取り合う姉妹を演じたのは、ゲイル・オグレイディと、これまた「ウィル&グレイス」が始まる前のデブラ・メッシングである。キム・ディレイニー演じるダイアンの昔の危なさそうな恋人として登場したのは、その後「ロウ&オーダー: スペシャル・ヴィクティムス・ユニット」で主演の一人を務めるクリストファー・メローニだった。その他エイミー・ブレネマン、シャロン・ローレンス、アンドレア・トンプソン、ジェイムズ・マクダニエル等、アメリカTV界ではお馴染みの名前が「ブルー」を叩き台として次の段階に進んでいった。


アンディ自身も差別主義の偏見刑事というステレオタイプから、段々成長してきた。長い「ブルー」の歴史を見ても、最初から最後まで勤め上げたのはアンディとメダヴォイの二人きりであり、期せずして番組は、どちらかと言うと副主人公的存在だったアンディの、中年からの人間としての成長物語としても見ることができる。それにしてもアンディって、あんな顔と図体して、結構色々な女性ともててつき合ったりしている。特にシャロン・ローレンス演じるシルヴィアとの組み合わせなんて、まったく美女と野獣だった。


その二人が一緒にシャワーを浴びるシーンで、アンディの大事なところに手を伸ばそうとしたシルヴィアが、そこは自分で洗うからいいと戸惑うアンディから止められるシーンは、明らかにネットワーク番組としては、これ以上は映せないぎりぎりのところだったに違いない。昨年のスーパーボウルでのジャネットのおっぱいぽろり事件以来、自主規制の厳しくなったネットワークでは、当分はこんなシーンは撮らせてもらえないだろう。


「ブルー」の最終シーズンは、そういう一線の刑事だったアンディが、段々後進の指導を気にかけるようになり、ついに昇進して刑事から巡査部長になるまでが描かれる。それまでは大部屋で同僚からアンディ、アンディとファースト・ネイムで呼ばれていたアンディが、サージ (Sergeant: 巡査部長のこと) と肩書きで呼ばれ、個室を持つようになる。叩き上げの生っ粋のデカであり、自ら現場に赴き、上の者に食ってかかることはあっても人に命令する立場にはなかったアンディが、人の気持ちを慮って後進の育成に当たるようになる。10年前には想像もできなかった進歩だ。


しかし私はこれまでの展開からいって、アンディが昇進したとたんに、またボチコはアンディを殺す気じゃなかろうなと、それが気がかりでしょうがなかった。最終回は、大丈夫かな、アンディはほんとに無事昇進してやっていけるかなとそればかり気にしていた。そして番組は、昇進してすぐ、上からも下からも板ばさみになりながらも自分の仕事を完遂しようとするアンディが、一人自分の部屋で残った仕事を片づけているところで終わる。カメラが引いていき、暗転。ジ・エンド。どうやら死なずに済んだようだ。何も起こらずほっとしたという気分でもあり、肩透かしを食ったような気分でもある。しかし、まあ、これでいいんだろう。製作者の皆さん、お疲れ様でした。






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NYPD Blue   NYPDブルー
第1シーズン
   ★★★★
第2-5シーズン   ★★★1/2
第6-8シーズン   ★★1/2
第9-12シーズン   ★★★

 
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