X-Men: Apocalypse


X-Men: アポカリプス  (2016年6月)

過去と未来を繋いだ前作の「フューチャー&パスト (Days of Future Past)」こそがいかにも世界の終わりを描くアポカリプスという印象があったのだが、今回のタイトルが「アポカリプス」だ。というと今回も過去と未来を行き来するのかというとそんなことはなく、遥か遠い昔のエジプト王国時代の話はあることはあるが、未来のアポカリプスを描くわけではない。実はアポカリプスというのは、今回のX-メンと対峙するミュータントの別名である由。なんでこんなまた話をこんぐらがらせるキャラクターの名前をつけるかねえと思う。


演出は「フューチャー&パスト」に続いて、無事ブライアン・シンガーがメガホンをとる。シンガーは「フューチャー&パスト」公開時に幼児にいたずらしたとかでスキャンダルになって、今回もまた演出させてもらえるか危なかったが、うまく揉み消しに成功したようだ。というか、人々はもうそんなこと忘れている。


テレキネシスもテレパシーもテレポーテイションもなんでもござれのX-メンの能力は、どういう演出にしたら最も見映えがするか、考えるのは演出家冥利に尽きると思うが、実は前回に引き続き、私が最も楽しんで視覚的に印象に残ったのは、エヴァン・ピーターズ演じるピーター・マキシモフことクイックシルバーだ。


「フューチャー&パスト」で、ジム・クロウチの「タイム・イン・ア・ボトル (Time in a Bottle)」に合わせて思う存分能力を発揮したシーンは、最も印象的なシーンの一つ、というか、絵としては私的にはベストのシーンだった。主人公のゼイヴィアとマグニトが、その持っている能力の高さ故、力を使う時は自身はほとんど身体を動かさないのに対し、ミスティーク、ウルヴァリン、ビーストらは、肉体的、物理的な運動で彼らをサポートする。


変身するミスティークが絵として面白いのは確かであるが、変身した後はロウレンスではなく、その人本人が演じるので、変身したロウレンスを見る楽しみはない。その点、一人別次元の速さで移動するクイックシルバーは、絵として非常に面白い。今回はほぼ一人で壊滅状態に陥る学園を救う獅子奮迅の働きを見せるのだが、これまた前回に続いて印象的だ。


クイックシルバーの能力は、考えようによってはかなりナイトクロウラーのテレポーテイションに似ている。共に次の瞬間には別の場所に移動できるわけだが、ナイトクロウラーは距離を無にして一瞬にして空間を飛び越えるのに対し、クイックシルバーはあくまでも超高速に物理的に移動する。そのためクイックシルバーは、その過程を映像としてとらえることができる。どちらが映画向きかは言うまでもない。


クイックシルバーは実は「X-メン」だけでなく、マーヴェル・コミックスの一方の雄である「アベンジャーズ (Avengers)」にも出ている。「アベンジャーズ」ではクイックシルバーにはワンダという姉がいるが、「X-メン」にはいない。「X-メン」においては、ジーンやマグニトというワンダの使うテレキネシスのもっと強力な使い手がいるために、出番がないからだろう。いずれにしてもクイックシルバーは「アベンジャーズ」においては完全にサブキャラ扱いで、ほとんど印象に残らない。演出次第でキャラは生かされも殺されもする。


「X-メン」においては、実はクイックシルバーは、マグニトの息子であることが判明する。それってかなり重要な血筋ではないか。もしかしたらクイックシルバーは、成長次第ではマグニトかジーンに匹敵する力を持つことも考えられる。


マーヴェル・コミックスの映像化は横の連結が強いのが特徴で、特に「アベンジャーズ」のスーパーヒーローにそれが顕著だ。それに較べると「X-メン」は比較的キャラ的には自立しているが、とはいえクイックシルバーの例もあるなど、「X-メン」が完全に独立しているわけでもない。しかしギャグの「デッドプール (Deadpool)」に登場したX-メンは、さすがに映画のX-メンに出演しているキャラクターをそのまま使って破綻を起こさせるわけにもいかず、一見X-メン、しかし新キャラというなかなか苦しい展開をしていた。「デッドプール」も第2弾製作が決まっているが、やはりX-メンは次回も同じ立ち位置なのだろうか。


ゼイヴィアとマグニトの若い頃を描く現「X-メン」はひとまずこれで打ち止めだろうと思っていたのだが、調べてみると、次の「X-メン」の舞台は1990年代で、やはり過去を描くらしい。一方、来年「ウルヴァリン (The Wolverine)」の新作公開が予定されている。ウルヴァリンは「アポカリプス」にもほんのちょっとだがちゃんと出ており、ちゃんと「フューチャー&パスト」にも繋がっていた。「アベンジャーズ」の新作も2018年公開予定だし、「キャプテン・アメリカ (Captain America)」も続編製作の可能性もなきにしもあらずという感じだそうだ。マーヴェルの囲い込み運動に我々は屈せずにいられるか。


ところで「X-メン」では、一応話が終わった後、エンド・クレジットが終わってから次回のつかみを流すのがお約束になっている。観客をもそれをわかっているから、エンド・クレジットが流れ始めても席を立たず、大人しく座ったまま最後のティーザーが始まるのを待っている。


とはいえ近年のCG利用の大作には多くの人が関係するため、エンド・クレジットが長い。終わるまで4、5分くらいは楽にかかる。私は、さすがにそこまで「X-メン」には入れ込めない、そこまでは待てないと思っているので、劇場内の大半は若い者たちが辛抱強く座ったままエンド・クレジットが終わるのを待っている間に、一人席を立ってロビーに出た。


トイレで用を足して、ふと気が向いてまた劇場に戻ってみると、まだクレジットが流れており、人々がまだスクリーンを見ながら待っていた。基本的にエンド・クレジットが流れ始めた途端ほとんどの者が席を立つアメリカの映画館において、何分間もただ延々と文字だけを観客が黙って見つめているという光景は、結構異様だ。「X-メン」ってホラーでもあったか。今回は紀元前からのエジプトの呪いもあったわけだし。









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古代エジプト。最初の強大な力を持つミュータント、エン・サバー・ヌー (オスカー・アイザック) がこの世に出現しようとしていたが、裏切り者によってピラミッドの奥深くにその力もろとも封印される。

時は変わって1980年代。記憶を改竄されたCIAのモイラ (ローズ・バーン) がヌーを調査していた。封印を解かれたヌーは、同じように力を持つ者を世界中からリクルートしながら、世界を支配しようと企んでいた。その中には、ゼイヴィア (ジェイムズ・マカヴォイ) と袂を分かったエリック (マイケル・ファスベンダー) もいた。エリックは力を隠し、鉄工所で働いて今では妻も娘もいたが、事故で怪我をしそうになった同僚を助けたことから力がばれ、妻子を失い、ヌーの傘下に入る。

一方、ゼイヴィアの元には、全国から刻々と力を持った者たちが集まってくる。その中にはテレキネシスを使えるジーン (ソフィ・ターナー)、目から光線を放つスコット (タイ・シェリダン) らがいた。

そしてミスティーク (ジェニファー・ロウレンス) は一人、距離を置いて彼らの動きを見守り、ストライカー (ジョシュ・ヘルマン) もまた、虎視眈々と機会を窺っていた‥‥


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