Deadpool


デッドプール  (2016年2月)

コーエン兄弟の「ヘイル ・シーザー (Hail Caesar)」を見にいかなくちゃと思うのだが、どうもその気になれない。ジョージ・クルーニーを筆頭に錚々たる面々が出演、そのクルーニーと「フィクサー (Michael Clayton)」で共演したティルダ・スウィントンが今度はコメディで再共演か、など、なかなかそそるはずのものを持っている、はずなのだが、なぜだかあまり惹かれない。


黄金時代のハリウッドが舞台か、それなら既に「バートン・フィンク (Burton Fink)」があるな、しかもそれより「ヘイル・シーザー」の方が面白そうには到底見えない、と、どうも乗り気がしない。一方でコメディなら、近年飽和状態を迎えつつあるスーパーヒーローが戯悪化した「デッドプール」の方が、面白そうに見えるのだった。


「デッドプール」は実際、はしゃぎ過ぎというくらいおちゃらけている。とはいえ近年スーパーヒーローは供給過剰気味で、飽和状態に近いという感が強いので、遅かれ早かれこのようなアンチヒーローが登場してくるのは時間の問題だったと言える。


実を言うと、現在デッドプールが最も喚起する人物は、共和党の大統領候補のドナルド・トランプだ。暴言王と呼ばれ、歯に衣着せぬ物言いにも限度があるだろう、第三次世界大戦を本気で起こすつもりかという困ったちゃんがなぜだかとても人気があるということが、「デッドプール」の興行成績の好調さとダブる。こういうアンチヒーローを人は求めていたのだ。


とはいえ、思ったことをずけずけ言ってすかっとした気分にさせるとはいっても、フィクションと現実では自ずから違いがある。「デッドプール」では笑って喝采を送ることができるが、もしトランプが本当に大統領になるようなことがあれば、世界はどうなるんだと本気で不安にさせる。こういう存在はフィクションの世界だけで充分と思わせてくれるのだった。


本題に戻って「デッドプール」だが、DCコミックスの映像化であり、作品中では「X-メン (X Men)」擬きのキャラクターも登場して、スーパーパワーを手に入れたウェイドをリクルートしようとするが、超人化しても正義の味方になんかなるつもりは毛頭ないウェイドは、そんな誘いは徹底して茶化すだけだった。


ウェイドにとっては大事なものは自分自身と恋人のヴァネッサだけであり、それ以外のものは、どうなろうと関係ないし興味もない。スーパーパワーは人生の途中でついてきたおまけのようなものであり、利用できる時は利用するが、それを使って人様の役に立とうなんて殊勝な心構えはまったく持ってない。


ある意味普通の人間がスーパーパワーを持ってしまったらという仮定を実現させてしまったのが、「デッドプール」だ。ウェイドは徹頭徹尾利己主義で、自分さえよければ後はなんでもいい。いや、恋人のヴァネッサだけは別で、彼女を助けるためだけならなんでもする。要するに自分の好きな人、もの、仲間といった自分の世界を守るためなら労力を厭わない。別に利己主義でもなんでもなく、普通の人間や国のものの考え方に過ぎないかという気もしないでもない。要するに皆心の奥底では思っていることを実行に移すかどうかの違いだけに過ぎないか。とはいえ、思っただけと実際にそれを口にして実行するかの間には、天と地ほどの開きがある。それを実際に行動で示したウェイドに、人々が喝采を送るのもわからないではない。世の中、鬱屈しているのだ。


ウェイドは人体実験の結果、人より身体能力に優れた不死身の身体になる。たとえ手足が切り落とされても、しばらくするとまたそこから新しい手足が生えてくるのだ。まだぶにょぶにょの小さな手が切り口から生えてくるのを見るのは、正直言って気持ち悪い。お前はトカゲか。


「ファンタスティック・フォー (Fantastic Four)」のリーダー、リードのスーパーパワーも、身体が自由自在に伸縮するというなんともけったいなもので、視覚的にはほとんどスーパーヒーローとは言い難かった。一反木綿を妖怪とは呼んでも、人類を助けるスーパーヒーローとは到底思えないようなものだ、デッドプールのにょきにょき新しい手足も、同様にあまり見場のいいものではない。要するに、リードもデッドプールも、視覚的には正統のスーパーヒーローとは言い難い。デッドプールは最初から自分は正義の味方ではないと明言しているわけだし。


不死の者を倒すには、たぶん頭を胴体から切り離すか、心臓そのものの活動を止める、つまり銀の弾丸でもいいから撃ち込むか、杭を突き刺す、などが有効と思えるが、それで死ぬならそもそも不死という宿命を与えられているとも思えない。どうなんだろう。果たしてデッドプールが死ぬことはあるのか。頭と胴体を切り離しても、どちらからか、頭から胴が、あるいは胴から頭が生えてくる、なんてことはあるのか。とまあ、こういう連想をしてしまうデッドプールは、やはりアンチヒーローだなあと思ってしまう。


ところで不死身という点で思い出すのは、同様に不死という宿命を与えられたX-メンの一人、ウルヴァリン (Wolverine) だ。が、ウルヴァリンは大傷を負ったことはあっても、手足をもがれたというようなことはこれまでなかった。ウルヴァリンもまた、新しい手足が生えてくるのだろうか。そうなるとウルヴァリンもまたこれまで持っていたイメージから変わってくるな。たぶんウルヴァリンは手足が生えてくるなんてことはないと思うが、どうだろうか。










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傭兵上がりのウェイド (ライアン・レイノルズ) は口の立つ軽薄を絵に描いたような男だったが、それでもある時、ヴァネッサ (モリーナ・バッカリン) と劇的な恋に落ち、仲睦まじく暮らしていた。しかしその蜜月も長くは続かず、ウェイドがガンに侵され、余命幾ばくもないことが知れる。そんな時ウェイドは知人のウィーゼル (T. J. ミラー) の経営するバーで、得体の知れない男と出会う。その男はウェイドに、ガンを克服する超人的な身体にしてあげることができると告げる。最初は半信半疑だったが、結局藁をもつかむ思いのウェイドは、そのオファーを受ける。実際ウェイドはほぼ不死身の超人的な身体を手に入れるが、一方顔は焼き爛れた二た目と見られないものになってしまう。ウェイドは遠くからヴァネッサを見守りながら、自分をこんな目に遭わせた男たちを追い始める‥‥


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