The Recruit

ザ・リクルート  (2003年2月)

現在超売れっ子のコリン・ファレル主演のスパイ・スリラー。ファレルは本当なら昨年末に、狙撃犯の標的になるという「フォーン・ブース (Phone Booth)」が公開予定だったのが、ちょうどその時期にワシントンD.C.で何人もの死傷者を出した連続無差別狙撃事件が発生、世論の心証を考慮して公開が延期になった。それでも昨年から、「マイノリティ・リポート」、「ジャスティス (Hart's War)」、現在公開中の「デアデビル」と、出演作が途切れなく公開されている。私生活ではブリトニー・スピアーズとあつあつとかで、とにかく今最も旬の俳優の一人ということは間違いない。


MITでコンピュータを専攻しているジェイムス・クレイトン (ファレル) が、CIAのウォルター・バーク (アル・パチーノ) にスカウトされる。実はジェイムスの父は元CIAのエージェントで、ウォルターは彼のことを知っていた。ジェイムスは常に父のことが心にひっかかっていたこともあり、有利な就職の道を蹴ってCIAエージェントの養成機関、「ファーム」に入所する。そこでは目に見えるものがすべて真実とは限らなかった。既に教官も同僚も含め、周りの者を騙し、騙される虚々実々の駆け引きが裏で進行していた‥‥


この作品を見ると、ファレルが今売れっ子なのがよくわかる。いわゆる濃い系の顔で、超ハンサムというわけではないが、いかにも血が熱そうなアイリッシュという感じで、こういう作品にはうってつけだ。むしろハンサムすぎなくて本当にこういう人間がいそうという点で、ブラッド・ピットよりも広い役柄に使えそうだし、実際、これまで演じてきた役柄の幅を見ても、多芸ぶりを証明している。バカっぽい役も秀才の役もアクションもこなせれば、そりゃ重宝されるだろう。


主演のファレルにばかりスポットが当たるが、もう一方の主演のパチーノも相変わらずだ。ただし、どちらかというとこの作品ではパチーノよりもファレルと、彼のラヴ・インタレストとなるレイラに扮するブリジット・モナハンの印象が強い。モナハンは「トータル・フィアーズ」では出番もあまりなく、ほとんど印象に残らなかったが、今回はしっかりヒロインを務めている。


CIAを舞台とする騙し騙されのスリラー、ということで思い出すのは、一昨年のロバート・レッドフォードとブラッド・ピット主演の「スパイ・ゲーム」。教官のレッドフォードと教え子のピットという構図は、今回も教官パチーノ、教え子ファレルという構図でちゃんと踏襲されている。そしてその教官を筆頭に、いったい誰が誰を騙そうとし、騙す側、騙される側が錯綜するのは、これまた今回も同じ。というか、その点では「リクルート」は「スパイ・ゲーム」よりも「ナイン・クイーンズ」の方に近いと言える。その騙し騙されのコン・ゲームこそがこの種の映画の醍醐味だから、こちらも張り切って騙されに出かける。とはいっても、本当は今回は騙されるかと思って見ているのだが、やっぱり騙される。推理小説と同じで、うまくこちらを騙してくれる作品に出会うと、得した気分になる。


とはいえ、見る立場から言えば、こちらも結構年季が入っているから、クライマックスを待たずとも、誰が誰を引っかけようとしているかという点については予想がついたりする。それをどのように興を殺さずに見せてくれるかこそが演出家の腕の見せ所だ。その点、ロジャー・ドナルドソンの演出は隙がなく、きびきびと最後まで見せてくれる。「ダンテズ・ピーク」まではわりとムラのある演出をしているという印象があったが、一昨年の「13デイズ」で一気に開眼したようで、今回も話をタイトにまとめるコツをつかんだ者の演出という感じが濃厚だ。


でも逆にこうなってしまうと、ここまでしゃきしゃきと目まぐるしい話運びだけに留意することなく、どこかでちょっとテンポを落として遊ぶ部分があってもよかったと思ってしまうのは、贅沢な話である。「ナイン・クイーンズ」では話の本筋とは直接関係ないところで気を抜けたから緩急の盛り上がりがあったが、「リクルート」は最初から最後まで盛り上がりっぱなしなのだ。いつどこで誰が騙されるかわからないという、要するに隙のない非常によくできた脚本を、腕のある監督が演出しているために、最初から最後まで熱中して、気がついてみると終わっている。よくできたハリウッド・アクションの見本みたいな作品なのだ。要するに「ダイ・ハード」なんだな。もちろんそれはそれで全然構わないと思うんだが、なんか、気の抜きどころがないと、なんかもったいないと思ってしまうのであった。貧乏性である。







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