The Gray Man


グレイマン  (2022年7月)

聞くところによると、「グレイマン」はNetflix作品史上最も金のかかった映画なのだそうだ。発表されている予算2億ドルというのは、たしかにハリウッド映画の水準から見ても少なからぬ金額だ。ほんの数年前には、スタートアップしたばかりの新参ストリーマーでしかなかったNetflixが、今ではある意味ハリウッド・ステュディオを凌いでいる。   

  

とはいえNetflixの経営が順風満帆とばかりも言えないのも確かなようで、今年、ついに加入者が減少に転じたそうだ。単純に市場が飽和状態になったんだろう。かくいう私んちも、これ以上新しく加入するストリーミング・サーヴィスを増やす気になんか到底なれない。   

  

今秋にはNetflixは、コマーシャルを挿入して視聴料を安く設定した新プランを発表するみたいだ。最近、アメリカではすべての物価が異様に上昇して、消費者はアップアップしている。どんな形態でも、安くなるものがあるならそれにこしたことはないというのが、現在の偽らざる消費者心理だと思う。  

 

というわけで、今後Netflix発の大型のアクション作品は減少することが必至だ。金がうなっている今のうちに、大型アクションをできるだけ作っておいてもらいたい。   

  

さて、「グレイマン」は、CIAのスパイ活動に従事するエージェント、グレイマンを描くスパイ・アクションだ。グレイマンとは、黒でも白でもなく、灰色で人目につかずミッションを実行するエージェントのことだ。  

 

ここで、演じるのがライアン・ゴズリングということで、彼がグレイマンか、それはないだろうと既に突っ込みどころを提供している。ゴズリングがその辺に立っていたら、それだけでかなりオーラを発して人目を惹きそうだ。いつでもどこでも誰かが彼を見ているので、とても隠密裏に仕事を遂行できそうもない。  

  

一方、近年のこの手のスパイ/暗殺者ものでは、主人公を育て上げ、指令・助言したりする立場のハンドラーが存在する。一昔前なら007に指令を下すのはMしかいなかったが、より組織化された現在では、指令を徹底するために、末端のエージェントの上に中間管理職的なハンドラーが存在するのが常道だ。そして近年の作品では、ハンドラーのキャスティングが大いに作品のカラーに影響してくる。  

  

「エヴァ (Ava)」のジェシカ・チャステインを育てたジョン・マルコヴィッチ、「ガンパウダー・ミルクシェイク (Gunpowder Milkshake)」でカレン・ギランを仲介するポール・ジアマッティ、そして今回のビリー・ボブ・ソーントン等、女性スパイを育てようが男性スパイを育てようが、エージェントにも増してその膂力を試されるのがハンドラーだ。皆、曲者具合いが半端じゃない。おつむてんてんの「キリング・イヴ (Killing Eve)」の殺し屋ヴィラネルにも、当然ハンドラーがついていた。


一方、非合法組織に在籍していた場合、ハンドラーのいないエージェントは間に立って緩衝する人物がいないため、時に逆に組織から狙われやすい。「ポーラー (Polar)」とか「ジョン・ウィック (John Wick)」とか、まさにその例だ。「ポーラー」のリチャード・ドレイファスとか、味方につけておくと心強かっただろうにと思ってしまう。ただし今回のソーントンに関する限りでは、彼は丸くなり過ぎている。脇が甘い。だから姪っ子を人質にとられてしまう。もうちょっととんがっててもバチは当たるまいに。 

  

しかし今回、本当に楽しんだのは、ちょうどパンデミックが起こる前年に女房と旅行したウィーンとプラハが舞台の一部で、特にプラハでトラムが絡む市街地アクションが炸裂し、お、なんかこんな風景見覚えがある、とかなり楽しんだ。こないだ公共放送のPBSでも、毎夏恒例のウィーン・フィルのシェーンブルン宮殿における屋外コンサートを放送していたのだが、ここにも足を運んでおり、画面に映ったあそこに立って写真撮った、と音楽も聴かずに二人ではしゃぐ。 

  

これが映画やTVドラマでニューヨークのタイムズ・スクエアが映ると、勝手知ったる場所ということでなんの感興も湧かないのだが、旅行でたった一度しか足を運んだことがない場所をTVや映画で目にすると、いかにもお上りさん的に盛り上がってしまうのだった。世界を股にかけるスパイものは、旅行案内としても結構楽しめる。 


 










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CIAエージェントのシエラ6 (ライアン・ゴズリング) は、バンコクでターゲットを始末する仕事を命じられ、なんとか任務を遂行する。しかしターゲットは死ぬ寸前に自分も同じ組織に属するシエラ4であることを明かし、シエラ6にUSBドライヴを渡す。実はCIAのカーマイケル (レゲ-ジャン・ペイジ) は裏で私腹を肥やしており、その秘密を握った4の抹殺を図ったのだ。6はかつて自分をこの道に引き入れた元ハンドラーのフィツロイ (ビリー・ボブ・ソーントン) に連絡をとり、カーマイケルは今度は6を亡き者にしようと、あまりにもサディスティックなためにCIAを追われたハンセン (クリス・エヴァンス) を雇う‥‥  


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