そろそろ今度こそ映画館通い再開か、と思い始めると、コロナウイルスの変異種が現れて感染率がまたぞろ上昇し始める。ブースターを射っていても感染する、しかも中高齢者は重症化する確率が高い、なんて話を聞くと、やはり二の足を踏む。 

 

ウイルスは寄生主が死んでしまっては共倒れになるから、1、2年経つと自ら力を抑えるようになり、事態は自ずから沈静化する方向に向かうらしい。実際、100年前のスペイン風邪の時は、ワクチンもないのにそうやって感染は収まっていった。それなのに今回はワクチンに対抗するためにウイルスも変異を繰り返したり、あるいはワクチンがあっても射たなかったりする輩もそこそこいるためか、事態が収束しそうでなかなかしない。 

 

人々は中途半端に行動を規制されるためか、鬱憤や閉塞感は募り、アメリカでは銃乱射事件が跡を絶たない。おまけに温暖化の影響で世界各地で自然災害は頻発、戦争も勃発、一瞬先が読めない情勢が続く。今年こそ映画館通い再開の第一弾は「トップ・ガン: マーヴェリック (Top Gun: Maverick)」と思っていたのに、そうはうまく問屋が卸してくれない。 

 

さて、そうやって代わりにストリーミングで選んだアクション作品の「ポーラー」は、マッツ・ミケルセンの、最新主演作ではない。「アナザー・ラウンド (Another Round)」、「ライダース・オブ・ジャスティス (Riders of Justice)」と、ヒューマンな役柄、マッチョ・タイプと、まったく異なる人間を演じて共に評価が高かった2020年の2作品の前年、2019年に撮られた、こちらはもろマッチョ系の、引退間際の暗殺者を描くアクションで、ヴィクター・サントスの同名グラフィック・ノヴェルの映像化だ。  

 

元々ミケルセンの役幅の広いのは承知していたが、近年は特にマッチョ系でそれが顕著で、とりわけ人食いハンニバルを演じたNBCの「ハンニバル (Hannibal)」以降、切れ方に磨きがかかってきた感じがする。マーヴェルのスーパーヒーローものへの客演を挟みながら、「悪党に粛清を (The Salvation)」、「残された者 -北の極地- (Arctic)」等、その中にあってヒューマンな「アナザー・ラウンド」が異質に思えるくらい、極限に追い詰められる役が増えた。あるいは「アナザー・ラウンド」も、ある意味極限追い詰められものと言えるかもしれない。いずれにしても元々ヒューマンな役柄が合うからこそ、弱さや脆さ、美学や負の感情を内包した怖い人を演じさせると映える。  

 

「ポーラー」でミケルセンが演じるのは、引退間際の凄腕暗殺者ダンカンだ。 彼への莫大な退職金やらを払うのが嫌さに、雇用主のブラットはダンカンの抹殺を企む。もちろんダンカンがみすみす黙って殺られるわけはなく、血で血を洗う一大抗争が幕を開ける。 

 

元々ヴァイオレンス描写で人気のあったグラフィック・ノヴェルの映像化で、マッチョ・ミケルセンの活躍は言わずもがなだが、実は「ポーラー」では、彼以外の出演者もなかなか気になる。冒頭に登場する組織から狙われるダンカンの元同僚に扮しているのはジョニー・ノックスヴィルで、最近プロレスのWWEに客演していることが多いからか、MTVの「ジャックアス (Jackass)」時代からだいぶやさぐれて、確かにギャング面に見える。 

 

ヒロイン役のカミールに扮するヴァネッサ・ハジェンズは、ついこないだMTVの「ムーヴィ・アンド・TV・アウォーズ (Movie & TV Awards)」でホストをしていた。きゃぴきゃぴ系でちょっとはしゃぎ過ぎという印象で、「ポーラー」とはまるで印象が違う。そのため、最初彼女がハジェンズとは気づかなかった。てっきりメアリ・エリザベス・ウィンステッドだとばかり思っていた。 

 

暗殺者組織ダモクレスの首領ミスター・ブラットに扮するマット・ルーカスは、実は今、私の女房が最もはまっている英国製勝ち抜きクッキング・リアリティの「ザ・グレイト・ブリティッシュ・ベイク・オフ (The Great British Bake Off)」で、共同プレゼンターを担当している。パンやデザートのクッキング・ショウだからか、この手の番組にありがちの裏切りや画策がなく、コンペティション番組ながら、女房は見ていて幸せな気持ちになれる唯一の番組と言っている。ルーカスはそういう番組で腹の出たコメディアンとして登場するため、あんなにユニークな顔と体型なのに、「ポーラー」ではこれまた最初、彼がルーカスだとは気づかなかった。 

 

さらにはダンカンを裏切るおっさんは、これまた一瞬遅れて、リチャード・ドレイファスだよな、こいつ、またやたらと胡散臭くなりやがってと気がついた。ダンカンの現同僚ヴィヴィアンに扮するのは、現在ABCの「ビッグ・スカイ (Big Sky)」主演中のキャサリン・ウィニック。これまた髪型やキャラクターが違うせいで、最初は気づかない。しかし皆さん、悪役だと楽しそうに演じているように見えるのは気のせいか。 

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暗殺組織ダモクレスの腕利きの暗殺者ダンカン (マッツ・ミケルセン) は、引退間近で、足を洗った後はアメリカの片田舎で誰にも煩わされることなくひっそりと暮らそうと考えていた。しかしダモクレスのトップ、ブラット (マット・ルーカス) は、ダンカンを亡き者にすることで支払うはずの金を節約しようと、ダンカンに刺客を差し向ける。彼らはダンカンの隣りのキャビンに住むカミール (ヴァネッサ・ハジェンズ) を人質にとり、ダンカンを誘き出す‥‥  

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