Another Round


アナザー・ラウンド  (2021年4月)

新作映画の公開がストリーミング主体となったおかげで、本来なら映画館でしか見られないはずの新作封切り映画が、遠出せずとも家にいながら見れる。映画館に出かけずに家でストリーミング視聴というのは、楽と言えば楽なのだが、毎週の小イヴェントとして郊外にドライヴがてら映画を見に行くというスタイルが身についていた者としては、多少寂しいのも事実ではある。 

 

一方で「アナザー・ラウンド」のように、夕食後にビール片手にカウチにふんぞり返って視聴するというスタイルがこんなにはまる映画というのもない。ほとんどのシーンで登場人物にアルコールが入っている。いつでもどこでも常にほろ酔い加減だ。私は通常なら映画をいったん見始めたら最後までノンストップで見るのだが、今回に限り途中でストリーミングをポーズにして、こちらも次のビールを取りに冷蔵庫に立つ。確かに、家見ってのもなかなか悪くない。 

 

若者の不行状というのは、世界どこも同じだ。特に今のようにコロナ禍で外で暴れることができないとなるとなおさらだ。自分が若い頃どんなに無茶していたかを考えると、今時の若者に多少は同情を禁じ得ない部分もあることはある。 

 

「アナザー・ラウンド」で描かれるデンマークの若者たちは、まだパンデミックの影響を受ける以前で、要するに、無茶苦茶だ。当然指導する側の教師も頭が痛いが、若者が教師の言うことをはいそうですかと素直に聞くわけがない。自分が教師として自信をなくし始めているからなおさらだ。そういう部分に若者は非常に敏感だ。 

 

私が高校生の時、生徒にまったく人気のない日本史の教師がいた。授業時間のほとんどを生徒に背中を見せて黒板に板書するタイプで、こういう教師が生徒から信頼を得られるわけがない。生徒が教師を無視しておしゃべりばかりするので、反省したのか、ある時いきなり今度は生徒の方を向いて、ほとんどなんの面白味もない単に事実の羅列を延々としゃべるだけという方針に転回した。 

 

これまた生徒の反感を得ただけで、やっぱり生徒は教師を無視して私語しゃべりまくり、さすがに教師の方が、じゃどうすればいいんだと逆切れして、さらに生徒の不評を買った。要するに、まったく教師という職業に向かない人物で、たぶん、公務員で安定しているから教師になったんだろうというのが見え見えの人間に、生徒としては同情する余地はまったくない。 

 

それを考えると、少なくとも「アナザー・ラウンド」に出てくる教師たちは、それぞれ私生活では悩みを抱えながらも、それでも生徒たち、教育には真摯だ。どうやったら生徒たちに学ぶことに興味を持ってもらえるかと、真面目に考えている。 

 

そういう時に、一人の教師が、人はアルコールの血中濃度が0.05%の時、すべてがうまく行くという仮説をどこからか持ち出してくる。失うものは何もないという気分のマーティンは、半信半疑ながらも隠れてアルコールを嗜んで教室に向かう。すると思いもかけないことにそれは実際に効果があった。マーティンの同僚も同様にアルコールを嗜んで学校に来るようになり、そして、その量が増え始めるのにそんなに時間はかからなかった‥‥ 

 

いかにも北欧男児という風情の主人公マーティンに扮するマッツ・ミケルセンは、ビールを飲むだけでなく、当然のようにキッチンにも立つ。そこで手慣れた様子で料理するのだが、それを見てNBCの「ハンニバル (Hannibal)」でミケルセンが扮したハンニバル・レクターを思い出した者も多いのではないか。 

 

それにしても人を人とも思わないハンニバル・レクターと、自分に自信をなくし始めている弱腰教師を共に説得力たっぷりに演じられるミケルセンはすごい。ミケルセンの出演作を見ると、そういうエゴ肥大のモンスターか、ヒューマンな人柄か、両極端なタイプのどちらかだったりする場合が多い。いずれにしても、現在の最大の希望は、再びハンニバル・レクターに扮したミケルセンが、CBSの「クラリス (Clarice)」に還ってくるのを見ることにある。是非とも実現してもらいたい。 


 














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マーティン (マッツ・ミケルセン) はコペンハーゲンの高校で歴史を教えている。かつては人気者だったマーティンも中年になり、妻と歳頃の二人の男の子の父となり、かつてのような魅力を維持しているとは言い難かった。学校では未成年のくせにアルコールで問題を起こす生徒たちに手を焼くマーティンたちだったが、ある日、やはり同じように中年の危機を迎えている学校の同僚教師が、人は血液中に0.05%アルコールが入っていると、仕事もプライヴェイトも最もうまく行くという情報を仕入れてくる。半信半疑ながらもそれを試してみたマーティンは、実際にこれまでの苦労が何だったのかと思えるほどすべてがうまく行き始める。それを見た同僚も常時アルコールを嗜み始めるが‥‥ 


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