Hannibal   ハンニバル

放送局: NBC

プレミア放送日: 4/4/2013 (Thu) 22:00-23:00

製作: ゴーモン・インターナショナルTV、ディノ・デ・ローレンティス・カンパニー、リヴィング・デッド・ガイ

製作総指揮: マーサ・デ・ローレンティス、ブライアン・フラー

出演: マッツ・ミケルセン (ハンニバル・レクター)、ヒュー・ダンシー (ウィル・グレアム)、ローレンス・フィッシュバーン (ジャック・クロウフォード)、キャロライン・ダヴァナス (アラナ・ブルーム)、ハティエンヌ・パーク (ビヴァリー・カッツ)、スコット・トンプソン (ジミー・プライス)、アーロン・エイブラムス (ブライアン・ゼラー)、ララ・ジーン・コロステッキ (フレディ・ラウンズ)


物語: プロファイラーとしてFBIの犯罪解決に協力している心理学者のウィルが、猟奇殺人事件の現場の調査に訪れる。殺人者が事件を起こした時の意識とシンクロして事件解明の手がかりを得るウィルのやり方は、効果は高かったが、ウィルの意識を飛ばすため、危険であることも事実だった。FBIのクロウフォードはウィルにその道では名高いレクター博士を紹介、二人は二人三脚で、徐々に事件を起こした者の意識の内部に迫っていく‥‥


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Hannibal


ハンニバル   ★★★

2012-13 年シーズンのアメリカTV界において、年明け後に編成されたドラマ新番組の特徴の一つに、やたらと生臭い、猟奇的かつヴァイオレントな番組が多かったとい うのがある。シネマックスの「バンシー (Banshee)」、NBCの「ドゥ・ノー・ハーム (Do No Harm)」、FOXの「ザ・フォロイング (The Following)」、A&Eの「ベイツ・モーテル (Bates Motel)」等、扇情的で血生臭い番組がいくつも編成された。


「ドゥ・ノー・ハーム」は現代版「ジキルとハイド」、「フォロイング」はカルトを扱い、「ベイツ・モーテル」は現代版「サイコ (Psycho)」であるなど、題材からしてそうだから、内容が猟奇的なものになるのは避けられない。しかし題材がヤバそうという点から言えば、NBCが編成した「ハンニバル」ほど危なさそうな番組はない。「ハンニバル」、トマス・ハリス原作の「羊たちの沈黙 (The Silence of the Lambs)」で世界中に名を知らしめた、あのハンニバルだ。


「羊たちの沈黙」で我々の前に姿を現したハンニバル・レクターが後世に与えた影響は、小さくないものがある。ハンニバル以前と以降では、人々が考える悪役とい うものは明らかに変わった。昔からインテリジェントで残忍な悪役というものはそれなりにあったが、徹底した残虐性という点において、そしてその非人間性を理詰めで説明し、納得させるという点において、ハンニバルの右に出る者はない。ハンニバルの前では常識が通用しないが、その常識が通用しないということをクールに見えさせさえする知性は、唯一無二のものだった。元々ハンニバル・レクターはドクターなのだ。


ハンニバルというキャラクターがどれだけ人々にインパクトを与えたかは、重要なサブ・キャラ、悪役ではあっても、主人公ではないハンニバルの方を人々が後々 までよく覚えていることからもわかる。「羊たちの沈黙」におけるクラリス・スターリング、「レッド・ドラゴン (Red Dragon)」におけるウィル・グレアムは、それぞれジョディ・フォスター、エドワード・ノートンという芸達者が演じていることもありもちろん印象には 残るが、しかしそれよりも強烈に記憶に留まっているのが、主人公たちよりも出番の上では圧倒的に少ないハンニバルの方だ。


これだけ印象が強烈なキャラクターを、ハリウッドがほっておくはずがない。というわけでハンニバルはサブ・キャラから主人公に昇格し、「ハンニバル (Hannibal)」および「ハンニバル・ライジング (Hannibal Rising)」が作られた。そして新たに製作されたTVシリーズが、今回のNBCの「ハンニバル」だ。


そのハンニバル、キャラクターは確かに強力ではあるが、それだけではなく、多くの作品においてハンニバルを演じた俳優、アンソニー・ホプキンスの力量にもその印象の多くを負っている。かつて1986年製作のTV映画「刑事グラハム/凍りついた欲望 (Manhunter)」でブライアン・コックスが、「ハンニバル・ライジング」ではギャスパー・ウリエル (これはちょっと若過ぎて比較には無理があるか) がハンニバルを演じているが、やはり人が覚えているのは、ホプキンス=ハンニバルだろう。今ではホプキンス以外の役者がハンニバルを演じることはほとんど想像もできないというくらい、ハンニバル像を定着させた。


今回新しいハンニバル像を構築するという難業に挑戦するのが、マッツ・ミケルセンだ。ミケルセンの「カジノ・ロワイヤル (Casino Royale)」におけるル・シッフルの造型は確かになかなか印象的であったし、一方で「アフター・ザ・ウェディング (After the Wedding)」のようなヒューマンな役柄もこなせる。さらに北欧出身のミケルセンは、「ハンニバル・ライジング」で明らかになったハンニバルの出身地リトアニア生まれといっても通用しそうだ。ハンニバルがヨーロッパ、北欧のアクセントのある英語を喋るというのも、ヴィジュアル以外の非常に重要なファク ターだ。これはもしかしたらなかなかいけるんじゃないか。


実際画面にミケルセンが登場すると、ホプキンスではないハンニバルに違和感を感じたのは最初だけで、すぐにミケルセン=ハンニバルに慣れる。あの、微妙な色使いのツイードのような生地のジャケットを着こなせるのは、ヨーロッパ育ちの人間だけだろう。エイジアンが着たら道化にしか見えない。


また、ウィル役のヒュー・ダンシーも、センシティヴそうな感じがよく出ていて、こちらも悪くない。さらに、CBSの「CSI」以来のTVシリーズとなるローレンス・フィッシュバーン、最近ではABCの「オフ・ザ・マップ (Off the Map)」に出ていたキャロライン・ダヴァナス等、脇も気になる俳優で固めている。因みに「レッド・ドラゴン」でフィッシュバーンが演じているFBIエージェントのクロウフォードを演じていたのはハーヴィ・カイテルで、今回は人種が変わった。


「ハンニバル」は、実は正直言うとこれはTVではかなり難しかろうと見るまではあまり期待していなかったのだが、意外にもかなりいい。特に雰囲気作りがうまく、最近ではこういうダークな感じは「フォロイング」が断トツにうまいと思っていたが、「ハンニバル」も悪くない。人喰いというテーマ上、描写に規制のかかるネットワークでは、「ハンニバル」は分が悪いと思っていたのだが、リドリー・スコットの「ハンニバル」のようにこれでもかというくらいの描写で迫ることこそできないが、ジョナサン・デミの「羊たちの沈黙」よりはむしろグロいくらいで、ところどころ強烈な描写を散りばめながら想像力にも訴える、なかなか印象的な番組に仕上がっている。


今回の「ハンニバル」は、時間軸的には「レッド・ドラゴン」の前になる。ハンニバル・レクターはまだ人々の前にその本性を現してはおらず、当然のことだが自由に往来を行き来し、ウィルに助言する立場だ。第1シーズンの途中ではハンニバルの本来の姿が明らかになり、ウィルとハンニバルの戦いになると思ったが、そうではなく、そろそろ第1シーズンが終わる第10話が終わった現時点でも、ハンニバルはまだウィルと行動を共にして調査している。


これはもしかしてハンニバルの正体が明らかになるのはシーズン・フィナーレか。あるいはもしかして、このままずっとハンニバルの正体を秘密にしたまま引きずっていくつもりか。やろうと思えばかなり引っ張って引っ張れないこともないだろう。しかしあまりやり過ぎると、それこそAMCの「ザ・キリング (The Killing)」の二の舞になることも考えられる。一方でショウタイムの「ホームランド (Homeland)」のように、うまいやり方を見つけられないこともない。どうするつもりだろう。










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