The Double Hour (La Doppia Ora)


重なりあう時  (2011年5月)

トリノのホテルでメイドとして働くソニア (クセニア・ラポポート) は東欧からの移民で、天涯孤独の身だ。時々シングル・パーティに出席してボーイフレンドを見つけようとしていたが、これはと思う男性にはまだ巡り会わない。そしてある日、ソニアは謎めいたグイド (フィリポ・ティミ) に出会う。グイドは元刑事で、妻を亡くしてからは刑事を辞め、金持ちの家の警護として働いていた。その家の者が休暇で家を空けている時、ソニアはグイドに招かれ、一緒に過ごす。満ち足りた一時だったが、そこを強盗団が襲う。その家には大量の価値のあるアート作品があり、それが狙われたのだ。ソニアとグイドは拘束され、強盗の一人が美しいソニアにその気になったのを防ごうとグイドが跳びかかり、賊は銃を発砲する。次にソニアが目覚めたのは病院の一室で、撃たれたソニアは頭に大怪我を負っただけでなく、グイドは死亡したことを知る‥‥


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一昨年、誰もが意外の特大スリーパー・ヒットとなった「ハングオーバー (The Hangover)」の続編、「ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える (The Hangover Part II)」が公開されているのだが、今イチのらない。どちらかというと一発勝負的なこの手の作品は、続編がオリジナルを超えられないのはほとんど明らかだし、既に新味はない。


案の定作品評が出回り始めると、ほとんどの評価は別に面白くないわけではないがオリジナルほどではないね、というものばかりで、ほぼ100%判を押したような同じ意見が並ぶ。オリジナルの大ヒットのおかげで2作目は潤沢な予算がかけられるために製作規模がアップし、海外にも行けたが、だからといってそのことがより作品を面白くしているかというと、特にそんなこともない。元々が低予算映画だからそういう味付けこそポイントであり、それが金をかけたからといってその分面白くなるわけでもない。正直言って最初からそんなことわかりきっていた。


もちろんこちらに時間があって他に本当に見るものがなければ、劇場に足を運ぶのも吝かではないが、しかしこちらとしては、既に先々週、「ハングオーバー」のできのよいスピンオフと言える「ブライズメイズ (Bridesmaids)」を見たばかりで、おかげでさらに「パート2」を見る気になれない。ほとんど同じような舞台設定のコメディだ。1年に1本見れば充分だ。


それにしてもなぜ邦題がこんなに長ったらしく身のないものになったのかは不可解。いつも通りの「ハングオーバー・パート2」ではなぜいけなかったのか。あとあと人がこの映画の話をする時は、ねえねえ、「ハングオーバー・パート2」、見た? としか言わないのはわかりきっているのに。史上最悪の現地タイトルとなって国境を越えてしまった。


とまあこんなわけで、「ハングオーバー・パート2」に惹かれないわけでもなかったのだが、結局ほとんど反動で外国映画のアーティな「重なりあう時」を見に行く。「ハングオーバー・パート2」が1本でほとんどマルチプレックスの半分を使い切って上映されているために、もし「ハングオーバー」を見ないとなると、他の作品は既に見たか、さもなければ子供向けの作品ばかりで選択肢がほとんどない。


車で1時間以内で行ける劇場のラインナップを眼を皿のようにして探した挙げ句、やっと見つけたのが、この「重なりあう時」だった。むろんタイトル名を聞いたこともなければ、予告編なぞ見たこともない。だからこそ今の気分とマッチした。ちょちょっとIMDBを見てみると、イタリア製のロマンス系サスペンス・スリラーであるよし。なおさらいい。監督のジュゼッペ・カポトンディはこれが初監督作であるようだ。


主人公のソニアは東欧からの移民で、トリノのホテルでメイドとして働いている。わりと仲のいい同僚はいるがボーイフレンドはなく、寂しい思いは隠せない。ソニアはシングル・パーティで、謎めいた中年男のグイドと出会う。あまり自分のことを話したがらないグイドだが、おいおい元警官で、妻を亡くしてから職を辞し、今ではほとんど社交的な生活を送ることなく、大金持ちの家の警備をしている。趣味はバード・ウォッチング、というか、鳥の声を聴くバード・リスニングだ。


グイドに誘われ、金持ちの主人が休暇でいない時に郊外の邸宅に邪魔したソニアだったが、楽しい一時も束の間、賊が屋敷内に侵入し、抵抗したグイドは撃たれ死亡、ソニアも大怪我を負う。怪我の癒えたソニアは退院しまた元の職場に復帰するが、手術が危険なためにまだ頭の片隅に残っている銃弾の破片の影響か、死んだはずのグイドを幻視する。ある日ソニアは、グイドといた屋敷に侵入してきた賊の乗っていたのと同じトラックがホテルの外を通過するのを見る。とるものもとりあえず外に飛び出してトラックの後を追うソニアだったが‥‥


伏線、というよりはほとんど雰囲気作りの小道具が作品中にちりばめられた作品で、冒頭に登場するホテルの女性ゲストは、彼女が主人公かと思っていたらいきなりホテルの窓から飛び降りてそれっきりになってしまう。メインの謎は解明されるものの (解明されたと言えるのか?) 理路整然とは到底言えず、説明のつかない写真、幻視、夢オチ等、専ら雰囲気作りに貢献しているだけの道具立ても多い。


因みにタイトルの「重なりあう時」というのは、英題では「Double Hour」、つまり、11:11というような、同じ数字が並ぶ時間のことを意味する。ただし、思わせぶりなタイトルだがそれが特に中身に関係しているかというと、こちらもほとんど思わせぶりだけで、ダブル・アワーは中身とは関係ない。こんなとこまで雰囲気醸成重視なのだった。


しかし幸薄そうな美人ソニアと、これまた無口なグイドという取り合わせが、そういう雰囲気にぴったり合って効果を上げている。ソニアを演じるクセニア・ラポポートはモデルと見紛う肢体美の持ち主で、特に水着姿になった時のプロポーション、足の長さは驚異的。思わず見とれる。


一方のグイドに扮するフィリポ・ティミは野性味たっぷりのラテン系で、裸になった時にケツまで毛が生えていたのには驚いた。なんつーか、ブラジリアン・ワックスのやり甲斐がありそうな濃い奴だ。それよりのなによりも、こいつ、なんか見覚えがあるんですけど、と見ている間中思っていて、帰ってきてから調べると、この男、「愛の勝利を (Vincere)」でムッソリーニを演じたやつではないか。


アメリカ映画ではない外国映画なぞ年間で数えるほどしか見ないというのに、ティミはこの1年でたった2本しか見ていないイタリア映画の、両方で主演している。昨年、アルゼンチン映画の「瞳の奥の秘密 (The Secret in Their Eyes)」を見てたら、10年前に見たアルゼンチン映画の「ナイン・クイーンズ (Nine Queens)」で主演していたリカルド・ダリンがまたまた主演していて、10年間で2本しか見ていないアルゼンチン映画の両方で主演していたことに驚いたものだが、いったいどっちがすごいのか。もしかしたらイタリアとアルゼンチンには男優は30人ずつくらいしかいないのかもしれない。









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