The Hangover


ザ・ハングオーヴァー  (2009年6月)

フィル (ブラッドリー・クーパー)、ステュー (エド・ヘルムス)、アラン (ザック・ガリフィアナキス)、ダグ (ジャスティン・バーサ) の4人は、ダグの結婚式を直前に控えたバチェラー・パーティで最後の一夜を大いに羽目を外そうと、ラスヴェガスに向かう。翌朝ホテルの部屋で目を覚ました彼らは、新郎になるはずのダグが行方不明になっているのを発見する。必死に前夜何があったかを思い出そうとする3人だったが、あまりの痛飲乱痴気騒ぎだっため、誰も何があったかを覚えていないのだった‥‥


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今年最初のスリーパー・ヒットとして、既にミリオン・ダラーを稼ぎ出し、今なお留まるところを知らない勢いでヒット街道ばく進中の「ザ・ハングオーヴァー」、私は通常、コメディ作品にはほとんど惹かれないのだが、この作品だけは予告編を見た時から面白そうだなと思っていた。


それで公開初週に、今週は「ハングオーヴァー」を見るつもりだと女房に宣言すると、私よりもアメリカ製コメディに不信感を持っている女房は本気かという目で私を見ると、だったら一人で見に行ってとつれなくパス宣言を出した。ま、内容が結婚前のバチェラー・パーティで羽目を外す男どもという野郎ムーヴィだから、女性にはアピールしないのは当然かもしれない。


話は結婚式を翌日に控えたダグに、旧友の教師のフィル、歯科医のステュー、そして新婦の兄アランが加わった4人が、シングル最後の夜を楽しむためにラスヴェガスに出かけるというシチュエイションで始まる。新婦の父 (ジェフリー・タンバー) は豪儀に年代もんのメルセデスを貸してくれ、4人は勢い込んでヴェガスに乗り込み、奮発してスイート・ルームを借りる。ホテルの屋上で今宵一夜を特別なものにする乾杯をし、今夜の算段を立て、そして‥‥翌朝、無理してとったスイートの部屋で目を覚ました一同は、誰も何も覚えていなかった。


小便に立ったアランはそこに虎を発見、ステューは前歯が一本欠けているし、フィルの腕には病院のタグが巻かれている。さらに誰のか知らない赤ん坊までいるし、それよりもなによりも、新郎のダグがいない。電話をかけても部屋の中のダグの携帯が空しく鳴り響くだけだった。ただ何もしないで待っているわけにも行かず、一同はアランにガキを抱かせると、ダグを探しに出かける。


パーキングで車を持ってこさせると、それはなぜだかいつの間にかメルセデスではなくポリス・カーになっている。どうやら昨晩ポリスの車を盗んできたらしい。フィルの病院タグを頼りに病院に寄ると、医者は彼らが昨晩結婚したらしいと話す。ラスヴェガスでは誰でもその場で結婚できる専用のチャペルがある。そこでどうやらステューは覚えてもいない誰かと結婚したようなのだ。


その女性、フッカーのジェイド (ヘザー・グレアム) の住所を突き止めた3人は、子供が彼女の子であることを知る。朝、ホテルで一緒に一夜を明かした彼女がちょっと外に出た隙に、目を覚ました3人が勝手に子供を連れて出て行ってしまったのだ。そこまでの事態がわかったところでジェイドの部屋に警官が乱入、3人はポリス・カーを盗んだ罪で逮捕される。メルセデスがどこにあるかも教えてもらうが、しかしやはりダグは見つからない。刻一刻と結婚式の時間は迫っている。3人はティーザー・ガンの実験台になることで罪をチャラにすることで手を打つが‥‥


と、ここまでで種を明かし過ぎだと思わないで欲しい。話はまだまだこれから二転三転するのだ。だいたい、まだ虎の種明かしがあるし、これから初めて出てくるキャラクターもいる。コマーシャルを見たことがある者なら、で、マイク・タイソンはいったいどうやって話に絡んでくるんだと思うだろう。それよりもなによりも、最も重大な話、新郎のダグはいったいどこへ行ってしまったのか。既に結婚式までは秒読みだ。彼らは無事ダグを探し出してロスまで時間内にたどり着けるのだろうか。


要するに「ハングオーヴァー」は、記憶をなくした男どもが昨晩の記憶としでかしたことの証拠を求めて右往左往する話だ。少しずつ手がかりを繋ぎ合わせ、だんだん自分たちの置かれた状況を把握していく様は、倒叙法のミステリを読んでいるみたいで飽きさせないし、なによりも笑える。この作品が今年最大の意外なヒットとなっているのも頷ける。


第一、乗りがいいしそれを体現する役者がこれまた皆はまっている。最初、出だしは当然主人公は明日結婚する新郎のダグなんだろうなと思っていたら、そのダグが行方不明になる。つまり主人公はダグではなく、その友人ら3人だ。フィルは教師なのだが、生徒にフィールド・トリップに行くからと金を持ってこさせ、ちゃっかりその金をヴェガス行きの費用に充てる。要するに悪徳教師だが、なぜだかあまりにもはまっているため憎めない。これだけでこのキャスティングは成功と言える。演じるのは「エイリアス (Alias)」のブラッドリー・クーパーで、こんなハンサムな教師が自分の子の先生だとしたら、お母さん連中がほっておくまい。


歯医者のステューは現在つき合っている女性がいるが、まだ独身。彼がヴェガスで酔った勢いでフッカーと結婚しちゃうのは、いつも彼女の尻に敷かれているせいもあるだろう。ホテルで目覚めたステューは前歯が一本抜けているのに気づくが、それはオレは歯医者だから歯が欠けたくらい自分で治せると自慢して、自分でペンチで歯を抜いたせいというのがあとでわかる。本当にバカだ。しかも勢いで結婚したジェイドの薬指には、ステューの祖母の形見のホロコーストの指輪がはまっていた。ステューを演じるのは、深夜トークの「ザ・デイリー・ショウ (The Daily Show)」のコレスポンデントとしてつとに知られるエド・ヘルムス。


友達のいない人生を送ってきたアランを演じているのは、「トゥルー・コーリング (Tru Calling)」のザック・ガリフィアナキス。実はいくら羽目を外して痛飲したといっても、全員揃って記憶をなくすなんて事態になるわけがない。それは初めて友達ができたことが嬉しかったアランが、忘れられない一夜にしようと皆にドラッグを一服盛ったせいだった。実は裏主人公でしかなかった新郎ダグを演じるのは「ナショナル・トレジャー (National Treasure)」のジャスティン・バーサ。今回はほとんど出番がないため、「ナショナル・トレジャー」でのような飄々とした味は出せずじまいに終わっているが、まあしょうがあるまい。


ところでマイク・タイソンだが、つい先日、タイソンの4歳になる娘が家のトレッドミルのワイヤーに誤って首を引っかけて死亡するという痛ましい事故があった。その事故のニューズと映画の公開がまったく同じ時に起こってしまい、タイソンに注目が集まった。映画の中でタイソンは彼自身として登場するために、あの家の中で事故が起こったのかとどうしても考えてしまう。タイソンってなぜだかいつでもネガティヴなニューズ・ネタになってしまうのは、持って生まれた星のせいだろうか。映画の中ではタイソンって結構いいやつじゃないかと言われているんだが。


演出は「ロード・トリップ (Road Trip)」、「オールド・スクール (Old School)」、「スタスキー&ハッチ (Starsky & Hutch)」のトッド・フィリップスで、これまでコメディ一辺倒でそれなりにそつなくこなしているが、ここへ来て大当たりを手にした。会心の一作だろう。よく見ると、どの映画もいかにもアメリカ的どたばたコメディの印象がありながら、どことなくノスタルジックな香りを醸し出しているところが共通している。


「ハングオーヴァー」がヒットしたのは、とりもなおさず大人向けコメディとして、大人の映画ファンにアピールしたからに他ならない。ついでに言うと映画は、徹底して女性をないがしろにする、というか無視することで、潜在的に女性から虐げられている男性が大いに溜飲を下げた。なんせ結婚式を迎える女性がすることは、ただ新郎が時間に遅れずに現れるかをただ待つだけなのだ。そして一方、男性のみならず、意外なことに一部の女性にもアピールしている。私の女房みたいに特に興味を惹かれない者もいるが、男性的なものの考え方をする女性も多いのだ。


「ハングオーヴァー」は公開後2週連続で興行成績1位、最初の週はディズニー/ピクサーの「カールじいさんの空飛ぶ家 (Up)」とウィル・フェレル主演の大型コメディ「ランド・オブ・ザ・ロスト (Land of the Lost)」を押さえ、2週目は今度はデンゼル・ワシントン/ジョン・トラヴォルタの「サブウェイ123 (Taking of Pelham 123)」に楽勝で勝った。


この成功を受けて既に続編の製作が企画されているそうだ。今度は誰が結婚するのか。フィルは既に妻帯者で息子もいるが、ステューとアランはまだ独身だから、またバチェラー・パーティをやっても不思議はない。いざとなれば特に誰かの結婚にこだわることもあるまい。フィルの離婚決定バチェラー逆戻りパーティをやってもまったく不思議はない。あるいはまったく今回と同じようにやはりダグを離婚させることにして、徹底してダグを永遠に刺身のつまにし続けることも考えられる。舞台は今度はメキシコのカンクンなんてどうだ。いい線行っていると思うのだが。


いずれにしても、これは続編が作られたらまた見るなと思うのだった。私のように安易な続編やリメイクには簡単には食指を動かさない癖のあるファンにも続編が製作されたらまた見ようと思わせる「ハングオーヴァー」は、近年で最も成功したコメディと言って差し支えないだろう。








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