Bridesmaids


ブライズメイズ  (2011年5月)

幼馴染みのリリアン (マヤ・ルドルフ) が結婚することになり、アニー (クリスティン・ウィーグ) がブライズメイドを仕切るメイド・オブ・オナーに任命される。私生活では仕事にも男にも恵まれず、冴えないアニーだったが、今回ばかりは長年の親友リリアンのために一肌脱ごうと張り切る。しかし、リリアンのもう一方の友人ヘレン (ローズ・バーン) がしゃしゃり出てきてあれこれと口を出す。しかも金持ちで趣味のいいヘレンの打ち出す案の方が他の者に受けがよく、アニーは段々どツボにはまっていく‥‥


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結婚を目前に控えた親友のために、一緒に独身時代の最後のはめを外すバチェラー/バチェロレット・パーティを開いてつき合ってやったり、あるいは結婚式を一生忘れられない記憶に残るイヴェントとして演出してやろうと、仲間たちが集う‥‥。


むろんこのシチュエイションで思い出すのは、一昨年のスリーパー・ヒットとなった「ハングオーバー (The Hangover)」に他ならない。「ハングオーバー」が男性のための映画だったとしたら、今度はその女性版を作ったらどうかということで製作されたのが「ブライズメイズ」だということは、ほぼ間違いないだろう。


とはいえその設定は微妙に異なる。どちらも結婚を目前に控えた親友のために一肌脱ごう、あるいは一緒に乱痴気騒ぎに興じようという基本的な舞台設定は一緒だが、全員が主人公でもあり、脇とも言える「ハングオーバー」に対し、「ブライズメイズ」の方にはれっきとした主人公がいる。


むろん結婚を間近に控えたリリアンではない。彼女ではなく、彼女のために一肌脱いでやろうと決心するが、しかし一方こちらは最近男運仕事運すべてに見放され、どツボにはまっているアニーが主人公だ。


アニーは新婦の付き添いをするブライズメイドたちを仕切る、メイド・オブ・オナーとして指名されるが、しかし彼女にはその心意気はあっても、リリアンの結婚式を特別なものにする伝手もコネも金もなかった。だんだん他のブライズメイドたちも、金を持っていてソフィスティケイトされているヘレンの出す企画の方に傾いていく。親友の結婚式だというのに、アニーの肩身はどんどん狭くなる一方だった‥‥


正直言うと、「ハングオーバー」は非常に楽しんだとはいえ、だからといって「ブライズメイズ」にも惹かれるかというと、まったくそんなことはなかった。私は現在のコメディ女優の中ではNBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (Saturday Night Live (SNL))」のクリスティン・ウィーグを最も買ってはいるのだが、いくら彼女が主演していようとも、二番煎じにしか見えない作品をわざわざ見に行こうとまでは思っていなかった。


それをわざわざ見に行った理由は二つある。一つは、他に特に見たいと思う作品がなかったことと、二つ目は、これが最大の理由だが、TVでのコマーシャルで、ウェディング・ドレスを着た主人公のリリアンが道路を走っていて躓いて、頭からつっころんで行くというシーンに痛く感銘を受けたからだ。ドレス着たまま、アスファルトの上を、バンザイして、突っ込むのだ。その後ろを、プロのドライヴァーが運転しているだろうとはいえ、クルマがあわやというところで急ブレーキをかける。


リリアンに扮するマヤ・ルドルフも「SNL」出身で、「SNL」に出るやつって、歌えて踊れて身体張るよなとはいつも思っていはいたが、ドレス突っ込みのこのシーンは下手すると大怪我になりかねず、一瞬のシーンだからスタントを使った可能性もなくはないとはいえ、しかし、それでも充分感心させてくれ、では本編はどうなのかというこちらの好奇心を痛く刺激したのだった。


本編は、ウィーグ扮する主人公アニーが、ボーイフレンド、というか、単なる性欲のはけ口としてしかアニーのことを考えないテッドとセックスをしているというシーンから始まる。事が終わるとアニーは構ってもらえず、翌朝、開けてもらえない鉄扉の上をよじ登って外に出なければならない。どこから見ても泥棒ネコだ。


いずれにしてもいきなり、未成年者向けじゃないR (Restricted) 指定の出だしで、要するに「ハングオーバー」も成長した観客相手の作品だからと、堂々と作品中におっぱい出してR指定で公開された。普通R指定だと潜在的観客の数を劇的に減らすから、製作者はどんなにぎりぎりでもぽっくんまでは見せずに一段階下のPG-13 (13歳以下父兄同伴) 指定で公開したがる。当然だろう。


一方そういう子供向けコメディに飽き飽きしていた大人の観客は、だからこそ挙って「ハングオーバー」を見に行った。ガキだけが映画見ているわけじゃないのだ。「ブライズメイズ」も冒頭からこれは子供向けじゃ作品じゃないと高らかに宣言しているわけだが、しかし、だったらウィーグのヌードも見せてくれたらと、その辺がやや不満。


テッドに扮しているのはAMCの「マッド・メン (Mad Men)」のジョン・ハムで、とにかくドン・ドレイパーみたいな気障野郎のイメージが定着するのを嫌っての出演というのは間違いないだろう。セックスのことしか考えていない嫌味な野郎を演じているが、しかし、胸毛もわき毛もどこもかしこも濃い奴だ。


アニーは結婚が決まったリリアンのために、他のブライズメイドたちと一緒に様々な企画を練る。そのブライズメイドたちに扮するのが、ヘレン、ミーガン、リタ、ベッカの4人で、特に上流金持ちおしとやかというヘレンはアニーと対極的な位置におり、当然二人は相性が悪い。ヘレンに扮するのがローズ・バーンで、こないだ見たホラーの「インシジャス (Insidious)」とは、またかなり趣の異なる一面を見せる。


メリッサ・マッカーシー扮するミーガンはちょっと太めのコミック・リリーフで、要するに「ハングオーバー」でザック・ガリフィアナキスが演じたアランと同じ、つまり最も儲け役と言える。今シーズン、シットコムとしては最も成績のよかった太っちょカップルを主人公とするCBSの「マイク&モリー (Mike & Molly)」にも主演している。「マイク&モリー」のモリー役は、ネットワーク番組ということもあっておかしくはあってもまったく下品ではないのだが、「ブライズメイズ」では思い切りはめをはずして楽しんでいるという印象を受ける。最初スクリーンに出てきた時は、これがあのモリーとは気づかなかった。


コメディ・セントラルの「レノ911 (Reno 911)」出身のウェンディ・マクレンドン-コヴェイ扮するリタは3人 (だったと思う) の子持ちで、既に結婚生活にはなんの希望も憧れも持っていない現実派。逆にエリー・ケンパー扮するベッカはかまととぶりが板についているなど、定石通りながらベタなキャラクターもきっちり抑えている。アニーの新しい恋人候補のネイサンにはクリス・オダウド、アニーの母としてジル・クレイバーグも出ている。


ところで、私がこの映画を見ようと決心した最大の理由であるルドルフのウェディング・ドレス路上突撃ヘッド・スライディング・シーンであるが、実はこのシーン、本編にはない。このシーンがあるべきはずのシーンでまったく別の絵が映った時、え、まさか、と思ったのだが、ないまま終わった。


このシーンは、ヘレンの知り合いのいるウェディング・ガウン・ショップで衣装合わせをしていた面々の腹具合がいきなりおかしくなるというシチュエイションで、アニーが紹介した店で食った料理が悪かったようで、全員いきなり腹がごろごろ言い始める。ほとんどパニック状態で、トイレどころか洗面台でも盛大に解き放つというアメリカ・コメディお得意の下ネタ・シーンだ。


そこでパニクったリリアンは、一人路上に飛び出して車道の真ん中に座り込んでしまい、借り物のウェディング・ガウンを着たままおもらししてしまうという強烈スカトロ・ネタになっている。この時、たぶん道路に走り出したルドルフが勢いあまって本当に転んでNGになったシーンを、予告編では使っているのだろう。


話としては、最後力尽きたリリアンが、よろよろとドレスのまま車道でしゃがみこむという展開になる。そのため、流れから言ってヘッド・スライディングは強烈過ぎて使えないが、しかしこのショットのインパクトは強烈で、監督やプロデューサーも、これを眠らせておくのは惜しいと思ったに違いない。せめて予告編に使おうと思ったのだろう。


とはいっても、しかしこのシーンが作品でどう使われているのかを見たくてわざわざ劇場まで足を運んだ者としては、騙されたという気分はいかんともしがたい。「ブライズメイズ」のできが水準以上という巷の評価に異議を差し挟むものではまったくないが、それでもなんだか釈然としない。演出はTVのNBCの「ジ・オフィス (The Office)」やショウタイムの「ナース・ジャッキー (Nurse Jackie)」等を撮っているポール・フェイグ。








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