Take Shelter


テイク・シェルター  (2011年12月)

石油発掘現場で働くカーティス (マイケル・シャノン) は、愛する妻サム (ジェシカ・チャステイン)、娘のハナ (トヴァ・ステュワート) に囲まれ、裕福というわけではないが、幸せな家庭を築いていた。しかしカーティスは、何か悪いことが起こるという幻覚を見るようになる。それは幻覚というにはあまりにもリアルで、実際に痛みすら伴っていた。世界が滅びるという予感に怯え、カーティスはだんだん憑かれたように庭に埋め込み型のシェルターを設置することだけに取り組むようになる。家を抵当に入れ、会社の機材を勝手に使用してクビになり、それでもカーティスはシェルターの完成を目指すのだった‥‥


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先週、マーティン・スコセッシが監督する「ヒューゴの不思議な発明 (Hugo)」を見たが、「テイク・シェルター」主演のマイケル・シャノンは、そのスコセッシがHBOで製作している禁酒法時代ドラマ「ボードウォーク・エンパイア (Boardwalk Empire)」で、その他諸々の実力派俳優たちと一緒に番組に出演している。


シャノンが演じるのは連邦エージェントなのだが、独善主義で権威を傘にきて好き放題する、お世辞にも好感持てるタイプではない。それでも最初の頃は、職務に忠実なあまり独善的に事をすすめるという印象だったものが、今シーズンでは女性を言葉で虐待するみたいな感じになっており、主演のギャングの親分を演じるスティーヴ・ブシェミより、こちらの方が悪いやつという印象が濃厚だ。


「ボードウォーク・エンパイア」以前にシャノンというと思い出すのは、アカデミー賞にもノミネートされた「レボリューショナリー・ロード (Revolutionary Road)」その前では「その土曜日、7時58分 (Before the Devil Knows You're Dead)」「バグ (Bug)」と、とにかく一筋縄ではいかない、癖のある役ばかりだ。切れると何するかわからない危ない雰囲気を出させるとピカ一だ。


「テイク・シェルター」でシャノンが演じる主人公カーティスも、ある程度そういった役柄の延長線上にある。カーティスはつましいながらも仕合わせな家庭の長なのだが、時々幻覚や幻聴に悩まされるようになる。それは幻というよりも五感に訴えるもので、実際に触れることができ、時には痛みを感じ、傷痕さえ残る。しかしそれはカーティス以外誰も見てないし気づいてもないのだった。


カーティスの母サラ (キャシー・ベイカー) はかつて精神を病み、今でもそういう施設で暮らしている。これは遺伝かと脅え、カウンセラーの助力を頼むカーティスだったが、結局埒が明かず、しかも幻覚は日増しに強くなっていく。来たるべく破滅の予感に支配され、カーティスは憑かれたように、家の庭にシェルターを埋め込んで設置するという作業に没頭していく。会社の備品を勝手に使ってクビになり、家を抵当に入れて銀行から金を借り、妻のサマンサはほとんど家を出る寸前になっても、それでもカーティスはシェルターのことを一時たりとも考えずにはいられなかった‥‥


なにかがやって来るという予感、託宣に突き動かされて行動するという主人公のパターンで思い出すのは、ケヴィン・コスナーが主演した「フィールド・オブ・ドリームス (Field of Dreams)」だ。ただし「フィールド・オブ・ドリームス」では、主人公がすべてをほったらかして作るのはベイスボール・パークであり、やって来るのはかつての名ベイスボール・プレイヤーたちだ。


しかし「テイク・シェルター」では、カーティスが完成させようとするのは地下のシェルターであり、やって来るのは世界を滅ぼすかもしれない、なにかとてつもなく怖ろしいものだ。「フィールド・オブ・ドリームス」のようになにかを呼び寄せるためになにかを作るのではなく、やって来るとんでもないなにかから逃げ延びるためになにかを作って避難する。託宣というものはいいものだとは限らない。あるいは、最悪から逃れるために託宣を受けているわけだから、それはやはりいいものか。


本当に気がふれ始めているのか、それとも正しく預言者としてなにかが降臨したのかは知らないが、どんどん危なくなっていくカーティスを演じるシャノンがとにかくヤバい。内に秘めた狂気を演じさせると、ちょっとこの年代では他に右に出る者がないと思わせる。演出のジェフ・ニコルズは、デビュー作の「ショットガン・ストーリーズ (Shotgun Stories)」でもシャノンを起用している。この作品でもきっと危ない主人公だったんだろうと想像する。


「テイク・シェルター」は、ジャンルとしてはインディペンデントのSF作品ということになろうかと思うが、実際には、かなり家族の愛情ものでもある。夫がこうなってしまったら、妻は普通は子供を連れてとっとと家を出て行ってしまうものと思う。実際、妻のサマンサはほとんど家を出る寸前までいくが、思い留まってカーティスと一緒にいる。献身的に世話をするというよりも、やはりカーティスを愛しており、一緒にいたいからなんだろう。ジェシカ・チャステイン演じるサマンサが、そういう雰囲気をうまく出している。


それにしてもチャステイン、夏からの活躍は目覚ましく、「ツリー・オブ・ライフ (The Tree of Life)」、「ザ・デット (The Debt)」、「ヘルプ (The Help)」、そしてこの「テイク・シェルター」と、主演級作品が4本も続けて公開だ。と思っていたら、実は私のアンテナにはまったく引っかかって来なかったホラーの「キリング・フィールド 失踪地帯 (Texas Killing Fields)」も秋に公開されていたそうで、主演じゃないとはいえ、出演作がたった数か月の間に5本もある。ついでに言うと「キリング・フィールド」主演は上記の「ヒューゴの不思議な不思議な発明」のクロイ・グレイス・モリッツと、「デット」のサム・ワーシントンだ。


今春のナタリー・ポートマン、夏のローズ・バーンもすごく出てるなと思ったが、最後になってチャステインがさらっていったという感じだ。実際チャステインは「ヘルプ」でアカデミー賞助演女優賞のノミネートは確実と噂されている。私はその「ヘルプ」も、テレンス・マリックの「ツリー・オブ・ライフ」も見てないが、それでも、「デット」と「テイク・シェルター」だけでも、私なら合わせ技でオスカーを上げる。


2011年は、世界中で天変地異異常気象や暴動革命謀反反乱が勃発した年だった。さらにマヤの予言によると、2012年は世界が滅びるという。もしかしたら世界中の至るところでカーティスのような人間が出現し始めているかもしれない。「テイク・シェルター」は、おそろしく時宜を得ている作品なのかもしれないと思うのだった。世界が滅亡しようともそうでなくとも、数年後に「テイク・シェルター」がカルト化しているのはまず間違いないと、このくらいの予言なら私もしたって構わないだろう。








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