Swordfish

ソードフィッシュ  (2001年6月)

実は今週からアンジェリーナ・ジョリーがララ・クロフトに扮する「トゥームレイダー」が始まっている。昨年CBSの「サバイバー」で人気者となった、「アメリカの恋人」ことコリーン・ハスケルが初の大きな役で出演しているコメディ「アニマル」なんてのもあって、それはそれで結構気になっているのだが、見に行ったのは、最近はずれの方が多いジョン・トラヴォルタ主演の「ソードフィッシュ」。実はこれを見に行こうという気になったのも、これがまたまた結構批評家から叩かれていて、早く見ないとあっという間に劇場から消えそうだったので気が焦ったのだ。


不世出のハッカーと言われたスタンリー (ヒュー・ジャックマン) のもとにジンジャー (ハル・ベイリー) が現れ、仕事の依頼を持ちかける。昔別れた女房に一人娘の養育権をとられているスタンリーは、法廷で娘を取り返すために巨額の弁護士費用を必要としていたこともあり、半信半疑でジンジャーのボス、ゲイブリエル (ジョン・トラヴォルタ) と会う。ゲイブリエルはスタンリーの腕を見込んで仲間に誘うが、しかしゲイブリエルのしていることは、法の裏をかいて大金をせしめることだった。ゲイブリエルはスタンリーの力を借りて、銀行のスーパーコンピュータに忍び込んで自分の口座に大金を送金させようと仕組むが、しかし、FBIのロバーツ (ドン・チードル) が不穏な雰囲気を察知、それを阻止せんと立ちはだかる‥‥


監督のドミニク・セナは、昨年、ちょうど今頃「60セカンズ」を発表、そのカー・アクションを楽しんだので、今回もアクションの点では心配していなかった。冒頭の銀行襲撃の爆発シーンが、「マトリックス」タッチで特にいい。これは「マトリックス」を製作したジョエル・シルヴァーが本作もプロデュースしているので、そのせいもあるかも。クライマックスのバス吊り上げシーンは、実際に本編を見る前にTVの予告編で何度も見せられ過ぎたのが玉に瑕でちょっと覚めてたので、少しご都合主義に過ぎるかなと思いながら見ていた。それでもこれだけアクションを詰め込んで、「パール・ハーバー」の半分ちょいで終わる1時間40分という長さは素晴らしい。やはりドラマが得意じゃないことを自覚している人間は、アクションのみに絞って2時間弱できっちり終わってくれるのが観客サーヴィスというものだ。


主演のトラヴォルタは、昨年の史上最大の失敗作と烙印を捺された「バトルフィールド・アース」、「ラッキー・ナンバース」と、失敗作が続いた。ここらで起死回生のヒット作が欲しかったところだ。今回トラヴォルタが扮するのは、同情の余地のない完全な悪漢という役どころで、「フェイス/オフ」で演じたアンチ・ヒーローに近い役柄と言える。トラヴォルタの他に、昨年の「X-メン」にも出ていたヒュー・ジャックマンとハル・ベイリーがまた共演している。前回はウルヴァリンとストームという正義の味方同士だったが、今回は悪いことにも手を染める。トラヴォルタの下で働くベイリーの方が、ジャックマンよりも悪役っぽい設定になっている。


今回、驚いたことにベイリーは上半身をさらけ出すショットがあるのだが、そのためだけに製作者はウン万ドルのエキストラのギャラを支払ったそうだ。わーお。そりゃ現在黒人女優として美人度No. 1のベイリーの裸の胸を観賞できるのは素晴らしいことではあるが、しかし、座ったままじゃなくてさあ、ちょっと立って歩いてみるなりしておっぱいをぷるんぷるん揺らしてくれたりするならば、私としては言うことなかったんだが。ジャックマンは「X-メン」に引き続き、ワイルドな男臭い主人公という役どころなのだが、しかしオタクの代表とも言えるハッカー役にするには、ちと肉体派過ぎるかなという気がしないでもない。


スティーヴン・ソダーバーグの「トラフィック」でDEAエージェントに扮していたドン・チードルが、ここでもまた似たような政府エージェント役を演じている。チードルはこの手の役が完全にタイプキャストになってしまったが、しかし、よくわかる。それほど偉い地位にいるわけではない黒人の政府エージェントなんて役が作品の中にあったら、製作者の10人中9人はまず真っ先にチードルを思い浮かべるに違いない。彼が持っているそこはかとないユーモアと真面目さの絶妙なブレンドは、私は何度見ても飽きない。たとえどれほどまたこんな役かと言われても、チードルはこの手の役からこの先も逃れられまい。


1時間40分という短い時間にしては色々なプロットを詰め込み過ぎて、多少消化不良気味なのはしょうがないところか。どのキャラクターも性格を描き込んでいる時間なんかほとんどないから、ほとんど本人の持ち味がどれくらい役柄にフィットしているかが印象を決める。その点、やっぱり一番違和感なく役にはまっていたのはチードルだな。別にトラヴォルタ、ベイリー、ジャックマンも悪くない。そうそう、端役であるが、ゲイブリエルを裏で手引きしている政府高官として、サム・シェパードが出ている。シェパードにしてはなんとも下衆な感じのするどうでもいいような役で、彼ならもうちっと政府の陰謀的な重厚な感じを出せたはずなんだが、ほとんど捨てキャラで終わっている。やっぱりこういった部分の演出はセナは不得手なようだ。あと、トラヴォルタが絡むアクションって、どんどんリアリティとは無縁の、見栄と決めの世界になっていくなあ。特にジョン・ウーの「フェイス/オフ」以来、まるで決まり事になっちまったみたいだ。


面白かったんだけどね。見てる時は。見終わって劇場を出たらもう既に忘れていたという類いの映画である。でも、それでいいじゃないか。こんなもんかという印象が強かったスタローンの「ドリヴン」や、中味より宣伝に金かけてんじゃないのとしか思えなかった「パール・ハーバー」なんかよりは、私は断然「ソードフィッシュ」を推すぞ。そうそう、「パール・ハーバー」は公開2週目から興行成績ががくんと落ちて、今や誰もこの映画の話をしなくなった。みんなやっぱりつまらんと思ったようだ。マイケル・ベイもこれで心を入れ替えて2時間で終わるきりっと締まった作品を撮ってもらいたい。じゃないともう見に行かないぞ。







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