Driven

ドリヴン  (2001年4月)

今年の例年に較べて長かった冬も終わり、ニューヨークもやっと暖かくなってきた。それと共にこちらも何か、すかっとするアクションが見たくてうずうずしてしょうがない。というわけで、最もアクションらしいアクションの、シルヴェスタ・スタローンが製作/脚本/出演と3役をこなすカー・レース・アクションの「ドリヴン」を見てきた。


レース界のチャンピオン、ボー・ブランデンバーグ (ティル・シュワイガー) は、シーズン途中まで新星ジミー・ブライ (キップ・パーデュー) に追い上げられるという展開が続いていた。しかし婚約者との仲を解消してまでレースに打ち込むブランデンバーグは、次第に昔の速さを取り戻し、またブライを引き離しにかかる。ブライのチームのオーナー、カール (バート・レイノルズ) は、ブランデンバーグへの噛ませ犬として、引退したドライヴァーのジョー・タント (スタローン) をまた雇い、ブライ復活を企てる。彼ら以外にも、チームには虎視眈々とトップの座を狙うメモ (クリスチャン・デ・ラ・フエンテ) がいた。そしてシーズンも終盤にさしかかり、優勝争いは白熱してくる‥‥


F1で最も有名なレースは、何といってもモナコの市街地を走るモナコ・グランプリだろう。サーキットでない市街地をF1マシンが走るというのは、文句なしに絵になるし興奮させる。当然「ドリヴン」の製作者もそれを知っているから、同様にシカゴの夜の市街地をレーシング・カーで走らせたりする。それはいいんですけどね。その理由が、女に振られた腹いせにパーティ会場に展示されているマシンを盗み出して走らせるというのだと、おいおいちょっと‥‥と思ってしまう。本当のことを言うと理由なんてどうでもよく、市街地をレーシング・カーで走らせるということに対しては何の文句もないし、こっちだって本当はそれこそが見たくて劇場に足を運んでいるようなものなのだが、せめてもうちょっとうまく理由をつけてくれよ。スタローンがパーデューの後を追ってマシンに乗り込む時なんて、周りの人間は最初それをただ見ているだけで、エンジンが動き出してから慌てて止めようとするという感じで、もうちょっと撮りようがあるだろうにと思ってしまう。


しかし「ドリヴン」は実際に世界中のサーキットに足を運んで撮影しており、これは金がかかっているなと思わせる。日本のツインリンクもてぎも出てくる。けれどもまさかその全部のレースでエキストラを雇って毎回毎回スタンドを埋めているわけではあるまい。3分の1は映画用に実際に撮影しているとしても、3分の1は映画とは関係ない実際のレースを撮影したもの、残りの3分の1はCGで合成したものだと思われる。いくらなんでも世界各地でこれだけ人件費使ってたら、どれだけ映画がヒットしようともペイしないに違いない。


基本的にレニー・ハーリン演出のレース走行の描写自体にはほとんど文句はない。特にドイツのレースでのクラッシュ・シーンは、そうそうこういうのが見たかったんだという感じで、手に汗を握る。最後のレースのシーンなんて、昔懐かしの「サーキットの狼」の最終回を見ているみたいだった。レース・シーン自体に関しては割合満足して帰ってきたのだが、実はその夜、クラシック映画ばかりをやっているケーブル・チャンネルのAMCで、スティーヴ・マックイーン主演の傑作カー・アクション「ブリット」をやっていたので、ついでにそれもまたまた見てしまった。


多くの人が史上ベストのカー・アクションと考える「ブリット」は、30年以上も前の映画であり、CGもなければ何の衒いもない、オール実写のリアリズムに徹した正攻法カー・アクションである。しかし、何度見てもやはり「ブリット」は傑作だ。あのカー・チェイスはこれまでに何度見てるかわからないくらい見てるんだが、まったく色褪せない。しかし、劇場のスクリーンで見た「ドリヴン」より、家のたかだか32インチのTVの画面で見た「ブリット」の方が何倍も興奮させてくれるというのは‥‥なんだかなあ。


ブライに扮するパーデューはところどころいい表情を見せてくれ、将来が楽しみ。ブランデンバーグに扮するシュワイガーは、これはもう、ミハエル・シューマッハをイメージしたのがありありで、そっくりの感じを出している。しかしその二人から求愛されるソフィアに扮するエステラ・ウォレンは、はっきり言ってまるで感心しない。元シンクロナイズド・スイマーのウォレンは、ちゃんと東京でシンクロナイズド・スイミングを披露するシーンがあり、そのためだけにキャスティングされたんだろう。ティム・バートンの「猿の惑星」にも出ているが、そちらの方も多分スタイルで起用されているような気がする。


スタローンと絡むスポーツ・ライター役のステイシー・エドワーズも、思わせぶりたっぷりに出てきたわりには、途中まるで忘れ去られて、最後に思い出したように出てくるだけだ。ブライの兄であり、マネージャーのデミルに扮するロバート・ショーン・レナードも、もっと書き込めればよかったんだが、これも中途半端。その他、ライヴァル・レーサーのデ・ラ・フエンテも、スタローンの元ガールフレンドのに扮するジーナ・ガーションも、すべて消化しきれていない。色んなものを詰め込み過ぎだ。


それでもほっとしたのが、脚本/製作/主演と3足の草鞋は履いていても、基本的に今回は縁の下の力持ち的な役として設定されているスタローンの出番が、それほどないことである。一人で暴れ回った挙げ句、作品をぶち壊しにした「デイライト」みたいなものになっていたらどうしようというのが作品を見る前の最大の不安材料だったから、少なくとも主演ではなく、出番が限られる今回は一応我慢できる範囲内で、ほっとした (それでもちゃんと自分用においしいところは随所にとってあり、やはり我慢できないという人も結構いるだろう)。しかし共演のバート・レイノルズとスタローンは、共にスポーツ映画だというのになぜだかドーラン厚塗りなのは勘弁してよとしか言い様がない。


スタローンと監督のハーリンは、最近はヒットに恵まれない。この二人が組んだ93年の「クリフハンガー」以来、二人ともはっきり言ってヒット作はないと言ってもいい。スタローンは「スペシャリスト」、「ジャッジ・ドレッド」はお世辞にも成功作とは言えなかったし、「デイライト」も規模のわりにはそんなに稼いだという感じはしなかった。最新作「追撃者」もポシャってしまったし。ハーリンは当時の女房ジーナ・デイヴィスを起用して撮った「カットスロート・アイランド」が、恋人同士で映画を撮るとろくなことにならないという代表みたいな映画になってしまい、95年最大の失敗作の烙印を捺されている。「ロング・キス・グッドナイト」は別に悪くなかったけど、「ディープ・ブルー」はほとんど話題にもならなかった。いずれにしてもこの二人がまた組んだのは、成功作を一緒に作ったという、 お互いの最後の甘美な体験が根っ子にあるのは間違いない。


ところでこの映画のタイトルの「ドリヴン」だが、これは実は日産のアメリカでの販売のキャッチ・フレーズでもあるのだ。日産のTVコマーシャルには、最後に必ず「Driven」というフレーズが現れる。ハーリンやスタローンがこのことを知らなかったはずはないと思うのだが、期せずしてこのタイトルは日産の宣伝映画のようにもなってしまった。日産の関係者は笑いが止まらないんじゃないだろうか。


実はこの映画を見た日の最も印象的な出来事は、映画自体ではなく、この映画を見に来ていた若い父と子の二人連れであった。7-8歳くらいの息子をハーレーの後ろに乗せてタンデムで映画を見にきて、見終わった後、息子にヘルメットとサングラスをかけさせ、颯爽とハーレーにまたがって去っていたあの親子が、実はスタローンよりも何倍も格好よかった。映画よりよほど惚れ惚れしてしまいました。







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