X-Men

X-メン  (2000年7月)

いやあ驚いた。土曜日に家から徒歩2分のところにある映画館に「X-メン」を見に行ったら、朝から雨が降りしきっているというのに劇場の前は長蛇の列で、これは売り切れにならなくてもこれから列に並んだら到底最初からは見れないなと判断、即座に諦めてアパートに帰った。一応うちのアパートはマンハッタンから外れたクイーンズにあるとはいえ、まだ繁華街なのでそういうこともあるかなと、翌日、今度は車で10分ほどのところにあるマルチプレックスまで出向いた。そしたら、そこも結構混んでいるのである。朝10時45分の回だというのに既に8分の入りで、この映画館にここまで人が入っているのはこれまで見たことがない。少なくとも「X-メン」より話題になったと思う「パーフェクト・ストーム」だって、半分くらいしか埋まってなかったのに。そんなに人気あるの、「X-メン」って。


「X-メン」はアメリカの最もメジャーなコミック作家、スタン・リー原作の、いわゆるアメコミを映像化したものである。近未来、様々な超能力を身につけたミュータントが善玉と悪玉の二手に別れ、壮絶な戦いを繰り広げるというのが大まかなストーリー。今回の映像化は、約40年近い連載で100人以上のキャラクターを輩出し、「スーパーマン」や「バットマン」よりも成功したコミックスと言われる「X-メン」から、選りすぐった数人をフィーチャーしている。監督はブライアン・シンガーで、善玉の首領チャールズ・ジャヴィアに扮するのがパトリック・スチュワート、悪の首領マグネトがイアン・マッケラン。因みに「X-メン」とは、ジャヴィア(Xavier) の頭文字から来ている。ジャヴィアが集めた正義の味方たちということ。


シンガーは前作の「ゴールデンボーイ」でもマッケランを起用しており、よほど思うところあったようだ。実際元ナチの役柄を怪演したマッケランは、私もすごく印象に残っている。今回も、次から次へと起こるアクションの合間に、マッケランだけは演技をしていたという印象を受けた。対するスチュワートは、「スター・トレック」というキャリアや原作のジャヴィアが禿げ頭ということもあり、誰が考えても彼以外には配役を思いつかないだろうというキャスティング。まるで本人のために考えられたような役を本人が演じているのを、私がどうこう言うこともないでしょう。スチュワート以外で考えられるのは、「オースティン・パワーズ」のマイク・マイヤーズくらいか。


「ユージュアル・サスペクツ」、「ゴールデンボーイ」と、見応えのある作品を連発しているシンガーは、ちょっと尖った印象で、私はデイヴィッド・フィンチャーとなぜだか対で覚えている。時代の少しだけ先を行っているような作風が何となく似ていると思うのだが。今回シンガーは、ともすれば荒唐無稽になりかねない題材をうまくまとめていると思う。ミュータントと聞いて、どこが荒唐無稽でないと感じてしまう御仁には受け入れられないかも知れないけど。特に、手を触れた相手から生命力や特殊能力を奪いとって自分のものにしてしまうという、よく考えるとほとんど自分勝手の極致とも言える能力を持つ少女ローグと、彼女を助けるウルヴァリンを対置させ、恋愛の絡みを入れたところが、定石とはいえうまい。おかげでアクションやSFXの羅列ばっかりになって逆に退屈になるのを免れている。


自分の能力に対し疑心暗鬼になり、何も頼るものがなくなって自分自身の存在に悩むミュータントというローグの設定は、やはり話を膨らませるのに外せない。演じるアナ・パクインは、一昨年主演したTV映画の「メンバー・オブ・ザ・ウェディング (The Member of the Wedding)」で一瞬ちらと見た時に既にもう成長して悩める少女といった役を演じており、シリアス路線まっしぐらという感じである。なんてったって「ピアノ・レッスン」のオスカー女優だし。ただし、悩める少女というには健康で肉付きがよすぎるんではという気もしないではない。「ビートルジュース」に出ていた時のウィノナ・ライダーなら完璧だったろうにと思うが、そんなこと今さら言っても詮ないか。


そのローグを助けるウルヴァリンに扮するヒュー・ジャックマンは、興奮すると拳からシャキーンと鋼鉄の爪が出てくるという、これまたなんともけったいな力を持つ、狼男的能力の持ち主。彼の顔がまた、普段からいかにも狼男って感じで、はまっている。ナイス・キャスティング。ところでこのウルヴァリンは、原作では74年から登場しているのだが、最愛の人を探して日本にも行ったことがあるのだそうだ。もちろん原作の最愛の人は、映画に出ているローグとは赤の他人。


テレパシー能力を持つジーン・グレイに扮するファンケ・ジャンセンは、変な衣装やメーキャップもつけず、綺麗なままで超能力を操るという点で結構儲け役。彼女に較べ、自然現象(天候)を操るという能力を持つストームに扮するハル・ベリーは、白髪で、能力を発揮する時に目ん玉まで真っ白になったりする。地の方が美人であり、ABCが製作したミニ・シリーズ「ビューティフル・ウェディング」やHBOのTV映画「イントロデューシング・ドロシー・ダンドリッジ (Introducing Dorothy Dandridge)」で黒人女優としては多分1、2の演技力を見せていただけに、もったいないという思いが先に立つ。ここでは、多分運動神経はよくないのだろう、ぎくしゃくしたアクションで、むしろマイナスである。彼女じゃなくてもよかった。


サイクロップスは目から破壊光線を発射するという能力を持つ。ウルトラセブンもそうだったが、目が武器になるという発想は東西共通のようだ。もしかしたらウルトラセブンを見たスタン・リーがパクったのかも知れない。しかしこのキャラクターは連載が始まった63年からいるそうで、この時はまだウルトラセブンはこの世に出ていない。とすると逆に円谷プロがパクったか。真面目に考えると、いくら超能力とはいえ、目から破壊光線というのはゴジラの熱戦放射よりも科学の裏付けのない、まったくの嘘八百にしか見えない。この武器を使う時は、焦点の定まらない光線に方向性を与えるため、特殊な眼鏡をかけるのだが、これをはずして光線を発射すると、どこにいくのかわからない光線が四方八方に飛び散って、辺りを手当たり次第に破壊してしまうというのが笑えた。演じるのはジェイムス・マースデン。


敵のミュータントは、変身能力を持つミスティークにNBCのシットコム「ジャスト・シュート・ミー (Just Shoot Me)」のレベッカ・ロミジン-ステイモス。ほとんど素面で出て来ないので、クレジットを見るまでは彼女だとは気づかなかった。カメレオンのような伸びる舌を自由自在に操るトッドに扮するのは、レイ・パーク。「スター・ウォーズ: ファントム・メナス」以来悪役づいているようだ。少なくとも今回の方が変なメイクがないので顔を覚えてもらえて得だろう。ほとんど考える頭のないケモノ面したセイバートゥースに扮するのは、WCWの現役レスラーのタイラー・メイン。


現在のCG描写は、本当に日進月歩で、そのリアリティには驚くばかり。先週見た「パーフェクト・ストーム」の方がいかにも難しそうな自然の描写を描いていて、特撮を前面に押し出していない分逆にうまいかなと思ったが、しかし「X-メン」も、人間が扁平になって溶け出し、水状になっていくシーンなんて、すごいなあと思う。充分楽しんで元はとったけど、しかし、ふと我に帰ると、登場人物の名前がストームとかマグネトとかサイクロップスとかミスティークなんていうのは、いくらなんでもちょっと恥ずかしい。コミックスではそうでもないのだろうが、実写で出てきた登場人物が、ストームだとかサイクロップスなんて互いに呼び合っているのを見ると、ケツのあたりがむずむずしてしまう。タイガー・ウッズをタイガーて呼ぶのくらいならまだ許せるんだが。


さて、この「X-メン」、ここまで並ぶくらいだからさぞ稼いだろうと思っていたら、なんと公開初週の週末の興行成績が5,750万ドル、これは「ジュラシック・パーク:ロスト・ワールド」(7,200万ドル)、昨年の「スター・ウォーズ:ファントム・メナス」(6,480万ドル)、そして今年の「M:I-2」(5,780万ドル) に次ぐ、史上4位の成績なんだそうである。7月公開に限れば堂々の史上1位。大したもんだ。観客の50%以上が25歳以下で、65%が男性というところからして、もろオタク系を中心にヒットしたようだ。この手のマニア系ははまると何回でも劇場に足を運ぶからな。もっと成績を伸ばすことも考えられる。「パーフェクト・ストーム」を抜くのは確実と見た。もしかしたら「M:I-2」も抜き去るかも。こりゃあ配給の20世紀FOXは笑いが止まらないだろう。


この好記録を受けて、この作品の製作総指揮を勤めているアヴィ・アラドは、いきなりパート2とパート3の製作を発表している。アラドは、原作の「X-メン」発行元のマーヴェル・コミックスが設立した、総合エンタテインメント会社のマーヴェル・エンタテインメントの幹部でもある。マーヴェルは現在「スパイダーマン」、「ハルク」、「ブレイド」続編、「ゴースト・ライダー」等の、マーヴェル・コミックスを続々と映画化準備中であるところからして、これは来年あたりマーヴェルのスーパーヒーローの当たり年になるかも。






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