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スプリット  (2017年2月)

何やらM・ナイト・シャマランが復活の気配を見せている。「ヴィジット (The Visit)」ではブラックな笑いとホラーをうまくブレンドさせ、新たなシャマランを見せてくれたが、「スプリット」は、今度は多重人格者による監禁ものだ。現在「X-メン (X-Men)」で若き頃のゼイヴィアを演じているジェイムズ・マカヴォイが、24の人格を持つ男を演じる。 

 

多重人格というと、古典的な「ジキル博士とハイド氏」を筆頭にいくつか思い浮かぶが、「スプリット」の場合、24の人格を持つという設定から、ダニエル・キイスの「24人のビリー・ミリガン (The Minds of Billy Milligan)」を連想する者は多いのではないか。そして私の場合、こちらは16の人格を持つとされた、CBSのTV映画の「シビル (Sybil)」を思い出す。 

 

映像媒体としては、こういう作品の興味は、多重人格を一人の役者が演じる場合の演じ分けにあるのは言うまでもない。10も20も人格があると、見ているこちらはもう誰だ誰だか追えなくなるが、それでも明らかに別人に見える何人かは演じ分けられないと、話にならない。そして「シビル」のタミー・ブランチャードも感心したが、今回のマカヴォイもなかなか悪くない。気の弱そうな男から、癖のある詐欺師タイプ、女性等々、結構やるなと思わせる。 

 

個人的にはマカヴォイと同等かそれ以上に、ヒロイン役のケイシーに扮するアーニャ・テイラー-ジョイも気にかかる。昨年、こちらは時代ものだがやはりホラーの「ザ・ウィッチ (The Witch)」で強い印象を残したかと思えば、その数か月後には「モーガン (Morgan)」でいきなり成長して思春期を迎えた少女に成長して‥‥とは言えないかもしれない。なぜなら彼女は人工的に作られた生命体だったからだ。 

 

魔女、人工生命体と来て、一年も経たないうちに出演する作品、それもシャマラン作品で、彼女が単なる引っ込み思案の女の子で終わるわけがない。こいつも実はマカヴォイ同様せめて数種類の人格を隠し持っている可能性はすこぶる高い。当然クライマックスはマカヴォイとテイラー-ジョイによる超人間対決を期待する。 

 

実は「スプリット」は、単純に多重人格ホラーというわけではない。マカヴォイが幾つもの人格を経てたどり着く最後の人格ザ・ビーストは、超越者みたいな、人格だけでなく体格、身体能力まで完全に別人になる。いつもは体力的にできないことができるようになるのだ。まったく別の人間、というか別の種に変身する。 

 

そのため当然その人格ビーストは他の人格から怖れられている。もしかしたら最終的にはビーストが他のすべての人格を抑え込み、君臨して常時表に出ているようになるのかもしれない。他の人格としては、それは嫌だ。一つの人格は一人の人間なのだ。しかしビーストはだんだん表に出てくる頻度を高めていた‥‥ 

 

こちらは単純に多重人格ホラーだとばかり思っていたので、ビーストが出てくる意外な展開には驚かされた。人格ばかりではなく体格まで変えてくるか。そしてこれは話が終わった後の付録みたいなものだから、別にネタばれにはならないだろうと思うから言ってしまうが、最後の最後にダイナーの客として、ブルース・ウィリスが登場する。 

 

なんでこんなところにウィリスが出てくる、「スプリット」って実はなんかの続編かスピンオフか。彼はダイナーの他の客と喋っている。ということはこれは「シックス・センス (The Sixth Sense)」とは関係ないな。とすると、これは、そうか、「アンブレイカブル (Unbreakable)」だ。そうだ、それに違いない。ウィリスは単に運が強いだけでなくて超人的なパワーも持っていた。そうか、ウィリスもマカヴォイも実は同種の超人か、すると次作は二人が登場する超人編か。まさか「スプリット」が「アンブレイカブル」続編だったなんて、まったく考えもしなかった。 

 

一方、こういう続編外伝スピンオフ等のちょい見せは、オリジナルを見ていたり元ネタを知っているならいいが、知らなければ単にスルーするだけか、あるいは混乱したり、場合によっては不愉快になることもあるだろう。実際の話、ウィリスを見てすぐに「アンブレイカブル」に結びつけることができる者は、それほど多くはないんじゃないかと思う。 

 

そんなことを考えたのも、たまたま森博嗣の「レタス・フライ」の中の一編、「刀之津診療所の怪」を読んでいて、さっぱりそのオチの意味がわからず、ネット検索して、それが森の他の作品、「ぶるぶる人形にうってつけの夜」を下敷きにしていて、読んでないと意味が通じないということを知ったからだ。そんな、読み切りのミステリ短編で、他の作品と連携交錯しているというだけならともかく、読んでないとまったく意味が通らないという話を書くな。しかし本当に頭に来たのは、そのことよりも、実は「ぶるぶる人形にうってつけの夜」、読んでるのだ、私は。だいぶ前だが。それなのにまったく気づかなかったというそのことに、自分自身に腹が立った。どんなに腹立っても、思い出せんものは思い出せん。 

 

いずれにしてもそんなわけで、「スプリット」の最後のウィルスの顔見世は、「アベンジャーズ (The Avengers)」シリーズならともかく、シャマランの、しかも到底メイジャーとは言えないキャラクターを使ったのは、果たしてよかったのかどうかと思ったのだった。私みたいにシャマランの全作品を見ている者ならいいが、世の中にはそうじゃない者の方が多いだろう。しかもかれこれ20年近くも前に公開され、酷評されて興行的にも失敗した作品のキャラクターなんて、覚えている覚えていない以前に、最初から知らない者の方が多いに違いない。 

 

私は既に近年はファンタジーの方向に行ってしまった森作品からは遠ざかっていたのだが、「レタス・フライ」を読んで、これでもう今後森作品を読むことはないなと思った。同様に、「スプリット」を見て、マジかよと思ってもう今後シャマラン、パスと思う者がいてもおかしくはないだろう。本人はファン・サーヴィスのつもりだったのかもしれず、実際私はそうとったが、逆効果になる場合も多そうだ。シャマランには、内輪受けに走らず、外に向かって邁進してもらいたい。ツボにはまった時のあんたの演出は、やはり今でも図抜けていると思う。 

 

 









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ケイシー (アーニャ・テイラー-ジョイ) は特に友だちの多いタイプではなかったが、クラスメイトのクレア (ヘイリー・ルー・リチャードソン) とマルシア (ジェシカ・スーラ) から誘われ、パーティに参加する。クルマの中でクレアの父を待っていると、運転席に乗り込んできたのは、クレアの父ではない、別の男(ジェイムズ・マカヴォイ) だった。男は不審に思って誰何する後部席のクレアたちに向かってスプレーを噴射、ケイシーにも逃げる機会を与えずスプレーをかけて気を失わせる。次に3人が目を覚ましたのは、鍵をかけられた地下室のような部屋の中だった。男は彼女らに危害を加える必要のない素振りを見せ、外から部屋に鍵をかける。やがて外から話し声が聞こえ、ここぞとばかりに助けを求めた彼女らの前にドアを開けて現れたのは、女装した先ほどの男だった‥‥


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