Shéhérazade


シェヘラザード  (2020年11月)

大統領選は終わったはずなのに、それでも敗北を認めずに権力にしがみつこうとするルーザーは、恥も外聞もなく惨めたらしく焼け石に水の数撃ちゃ当たる式の泥縄案を乱発して、社会に混乱を招いている。それだけならまだしも、新型コロナウイルスの第2波はいよいよ勢いを増して、今や全米49州、ハワイ以外はすべて記録更新して感染拡大を続けている。その上、感謝祭で全米国民の多くが帰省のため大移動し、誰もそれを妨げられないとすれば、さらなる拡大感染は避けられない。 

  

今ですら一日の新規感染者は20万人に達しようとする勢いで、累計感染者1,200万人、死者25万人というのに、感謝祭後の来週は、この数字はさらに増えるのは間違いないと、関係者は口を揃えて言う。しかし、国立感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長までもが、移動を止めるものではない、自分自身で最善の行動をとるようにと呼びかけるだけというのが、クリスマスに次いで大きなイヴェントである感謝祭の、アメリカにおける位置づけを物語っている。基本独立独歩の精神を重んじるアメリカで、こういう行動に対し政府は自粛を要請はできても規制できない。よくも悪くもアメリカなのだ。 

  

さて「シェヘラザード」だが、実はこの映画、さて次何見ようと調べていて、どこかで誰かが、「シェヘラザード」はマルセイユが舞台の「シティ・オブ・ゴッド (City of God)」だと言っているのを見て、ではとこれに決めたのだが、実際の話、「シェヘラザード」は「シティ・オブ・ゴッド」的ギャング・ドラマとは違う。マルセイユの貧民層と犯罪が舞台設定になっているのは確かだが、どちらかと言うと「シェヘラザード」は、ティーンエイジャーの純愛ドラマだ。 

  

とはいえ、ティーンエイジャーといっても、主人公のザックとシェヘラザードは、方や年少帰り、方や娼婦と、通常のティーンエイジャーとは生きている世界が違う。確かに描かれる舞台となるマルセイユはリオのファヴェラのような危ない世界に近く、その意味では確かに「シティ・オブ・ゴッド」の世界と似てなくもない。そういう世界で純愛を育むのは、容易なことではないだろう。 

  

流しの娼婦であるシェヘラザードは、街頭で客を捕まえる。どこで事をいたすかというと、近くのビルの、空きビルかそれとも鍵がかかってないだけかのビルに入り込み、廊下で何人も続けて事を済ます。 

  

これが通常の情勢なら、商売とはいえ、身体を酷使して大変だな、ちゃんと避妊はしているのか、というのが見ていて覚える感想だと思うが、現在このシーンを見ると、まず100%コロナ感染だな、という感想の方が先に立つ。今でも同じ方法で客をとっているのだろうか、それともマスクを付けたまましてと要求するのだろうか。だいたいにおいて、社会に何か問題があると、真っ先にしわ寄せを受けるのが社会の下部層にいる人間だ。流しの娼婦なんて、商売上がったりになる筆頭だろう。 

  

また、ヒモとして相手を愛すというのも、正直言って私にはよくわからない。単純に、好きな相手に他の男と寝てもらいたくはない。ザックも、自分の気持ちに何らかのジレンマがあるようなのが見てとれる。あるいは、近年、日本のポルノでは、自分の妻を他人に抱かせる「ネトラレ」というジャンルが確立しているらしい。案外、恋人を他人に抱かせることで愛を再確認するという世界が、意外に既に市民権を得ているのかもしれない。 

 

いずれにしても、常にヴァイオレンスとも隣り合わせで、だったらヒモよりは真っ当に働いた方がより安全で稼ぎもよく安定していいと思う。教育を受けてないから仕事を選べないというにはあるかもしれないが、まだ若いのだ。その気になればまだまだ可能性はあるだろう。 

  

とはいえ、こないだ見た「アトランティックス (Atlantics)」では、職もなく将来の見えない青年が、マルセイユから地中海を挟んだ向こう側のアフリカからヨーロッパを目指して船に乗り、嵐に遭って沈没、死亡するという挿話があったから、やはりあの辺の教育を受けていない者は、希望が持てないのかもしれない。ザックもシェヘラザードも純粋な白人ではなく多少血が混じっているようだったから、親かその親の世代にアフリカか中近東辺りから移動してきたのだろう。しかし、十代からヒモか。 

 

マルセイユは港町であり、風光明媚な避寒地観光地というイメージがあったのだが、映画のオープニングで描かれる一昔前のマルセイユは、移民の町、スラムという感じだ。昨年の「未来を乗り換えた男 (Transit)」でも、時代は多少違うかもしれないが、ヨーロッパから海外への脱出口という、犯罪者や難民が集まる町という印象だった。そして今また「シェヘラザード」だ。たぶん「アトランティクス」で描かれていたアフリカからの難民は、マルセイユ経由でヨーロッパ入りする者も多いのだろうと思われる。 

 

マルセイユに限らず、なんか、最近見たフランスを舞台とする映画って、出口なしというか、移民、貧困、難民、差別、テロ、辺りがキー・ワードの作品が多い。アカデミー賞にもノミネートされていた「レ・ミゼラブル (Les Misérables)」もそうだったし。それにしても、人がイメージとして持っているフランスやパリに最も近いのは、近年ではオリヴィエ・アサヤスの「冬時間のパリ (Non-Fiction)」、および日本人の是枝裕和が撮った「真実  (The Truth)」くらいしか思いつかない。フランスのイメージも変わりつつある。   











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フランス、マルセイユ。少年院を出所してきたばかりのザック (ディラン・ロベール) は、同じ歳頃で既に娼婦として働き始めているシェヘラザード (ケンザ・フォルタス) を見初める。最初はザックをカモとしてしか見ていなかったシェヘラザードだが、ザックに根負けして二人は付き合い始める。ザックはシェヘラザードのヒモとして、彼女が危険な目に遭わずに客がとれるようにして一緒に働き始める。ザックの仲間の一人はシェヘラザードを娼婦としてしか見てなく、抱きたいと思っていたが、ザックはその気がないシェヘラザードを彼に抱かせる気はなかった‥‥ 


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