Les Misérables


レ・ミゼラブル  (2020年1月)

それにしてもよくこのタイトルで勝負しようと考えたなとは思った。ミュージカルの「レ・ミゼラブル」が公開されて話題になったのは、そう遠い昔の話ではない。このタイトルでは、誰もがユーゴー原作の「レ・ミゼラブル」関連のドラマかミュージカルがまた製作されたんだなと考えるだろう。 

 

もちろん私もそう考えた。アカデミー賞のインターナショナル部門にノミネートされており、フランス代表であるところを考えると、パリを舞台としているくせになぜだかいつも英語を喋る俳優を起用して製作されることに業を煮やしたフランスが、オレたちの底力を見せてやると奮起して製作したのが、今回の「レ・ミゼラブル」だとばかり、最初は思っていた。 

 

一方でこの作品、ポスターを見るといかにも今風で、どうも19世紀のパリっぽくない。どうやら舞台設定を現代に移してツイストを効かせた、現代版「レ・ミゼ」なのだろうと解釈する。そうでもなければ、そう何度も同じ作品を映像化してばかりもいられまい。きっとそうに違いない。 

 

という予想は、実際に上映が始まると、いかも簡単に覆される。実はこの「レ・ミゼラブル」は、ユーゴーの「レ・ミゼラブル」ではまったくない。小説同様モンフェルメイユを舞台にしてはいるが、共通点はほとんどそこまでだ。一方で確かに「ミゼラブル」というのが苦しむ人々を意味しているのなら、タイトルに誤りがあるわけではない。ユーゴー版「レ・ミゼラブル」では貧富、階級の差における持てる者と持たざる者の確執を描いたものが、今回はプラス人種間の軋轢を描くドラマとなって現れたものとも言える。 

 

ミハエル・ハネケの諸作を見るまでもなく、花の都パリが実は結構人種の坩堝で、差別が激しいことは今では広く知られている。多かれ少なかれ歴史のある都市は、それがロンドンだろうと東京だろうと、やはり区別差別はあるだろう。しかし、英国や日本のような島国ではなく、ヨーロッパで早くから開けた都市であるパリには、パリっ子が好むと好まざるとにかかわらず、東欧、中央アジア、アフリカから、多くの難民が流入してきた。 

 

彼らの多くはいまだに貧困に喘ぎ、彼らが住む部分の多くがスラム化している。そして当然犯罪発生率も高い。そういう場所を管轄する刑事警官は、ほぼ間違いなくマッチョ化する。力で制圧しないと舐められるからだ。時に甘い汁を吸わせてガス抜きしながら、上から締めつける。これが功を奏している時はいいが、当然押さえつけられている者はいい気がしない。いつか見ていろよ、この野郎、と内心では皆思っている。 

 

そんな時、ハメを外したガキを押さえつけようとして、よりにもよって黒人のエージェントの一人がフラッシュ・ボール・ガンを発砲してガキに大怪我を負わせる。しかも悪いことにその一部始終をドローンで撮影しているガキもいた。このことが公になると、大問題になりかねない。エージェントたちは録画メモリが外部に漏れる前に回収しようと、あの手この手を尽くして駆けずり回る‥‥ 

 

という話が、今回の「レ・ミゼラブル」だ。見ていると、貧困に喘ぐ者たちにも、アフリカ系アラブ系東欧系等、色々いるのがわかる。そういう者たちがそれぞれに徒党を組んで、自分らの縄張り、利権を争っている。 

 

これは確かに取り締まる者も大変だろうなとは思う。こういう者たちを押さえつけるのは簡単ではあるまい。やはり力には力というのが最も単純かつ効果的だろうとは思う。しかし、それは綱渡りのようなもので、一歩間違えると取り締まる者たちが犯罪に加担したとして大問題になりかねない。 

 

さらにその取り締まる側も、どうやらそこそこ自分も悪いことをしているようなリーダーのクリス、取り締まる側にいることで逆に自分自身の立場も常に考えなければいけない黒人のグワダ、新しく配属され、とっとと仕事の流れを吸収しなければならない上に、自分も家庭に事情があるステファンと、それぞれがやはり何かプライヴェイトで問題を抱えている。 

 

町の平和はそういう危うい微妙なバランスの上にほとんど蜃気楼のように成り立っており、その拮抗が崩れた一瞬を描くドラマが、「レ・ミゼラブル」だ。その時それぞれが抱えてたものが、不満が、憤りが、怒りが噴出する。究極のエゴとエゴのぶつかり合いに、果たして落とし所はあるのか。これが初監督作となるラジ・リは、彼自身モンフェルメイユ出身の黒人で、彼の経験が多く反映されているのは間違いなかろう。 











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パリ郊外モンフェルメイユ。治安の悪いこの町を取り締まるクリス (アレクシ・マナンティ) をチーフとする対犯罪ユニットに、新しく赴任してきたステファン (ダミアン・ボナール) が配属される。町同様、エージェントもお世辞にも柄がいいとは言えず、有色人種が多く犯罪の頻発する場所柄、力には力を的な取り締まりで治安維持に当たっていた。ある時、この町で興行しているサーカスから、ライオンの子が盗まれるという事件が起きる。クリスらは地元のガキ大将的なイッサに目星をつけるが、イッサを助けようとする他の子供たちに囲まれ、小競り合いの中、グワダ (ジブリル・ゾンガ) がフラッシュ・ボール・ガンを発砲してしまい、イッサに大怪我を負わせる。その一部始終が、ドローンで撮影されていた。これが公になった場合、大事になりかねず、クリスたちは録画メモリを回収しようと奔走する‥‥ 


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