The Truth


真実  (2020年10月)

是枝裕和の新作「真実」は、今年コロナウイルスの影響を受けた作品の一つだ。アメリカでは昨年秋冬頃から映画祭サーキットで上映されていて、今年やっと拡大公開されようとしたところで、コロナの影響で映画館が封鎖され、一般客が映画館で見る道が途絶えた。 

 

結局夏にストリーミング公開されたものの、今度はTV画面かコンピュータ上で視聴する作品に20ドル近く払う気がしなかった。そろそろ値下がりしている頃かなと思って調べてみると、案の定amazonで99セントになっている。 

 

不思議だがamazonって、時々ここだけ安くで提供してることがよくある。こないだのダルデンヌ兄弟の「その手に触れるまで (Young Ahmed)」もそうだった。それでその後またもう一度あのシーンだけ見てみたいと思って再度アクセスすると、3ドル99セントとかに値上がりしてたりする。この辺の価格設定って、いったいどういう理由でそうなっているのか、誰が決めているのか、よくわからない。 

 

安くで見れることに対してはなんの文句もないが、ある程度金を払わないと、今度は業界が機能しないということにもなりかねないので、適正な価格を支払うということに対しては吝かではない。しかし本当の希望は、やはり映画館でゆったりと浸って見たい。家見は楽ちんということに対しては異はないが、本当にリラックスして見れるかというと、実はそうでもない。 

 

カウチで楽ちんと思いながら見ているのは最初だけで、まずほとんどの場合途中で、横になるくらいならメシくれるか遊んでよとネコがちょっかい出してくるし、必ずと言っていいほど、なぜだか見ている途中で雑事を思い出す。面白く見ているのに。要するに家にいるので、脳が完全に外出モードになってないせいだろう。なんにも誰にも邪魔されない夜中だと眠くなる。というわけで、いったいいつコロナ以前の状態に戻れるのだろう。それともそういう状態にはもう二度と戻れないのか。 

 

話が逸れたが「真実」は、以前から知己のあった是枝と今回出演もしているビノシュが、いつかは一緒にやりたいねと言っていた話が実現したものらしい。是枝が脚本も書いて、それを仏訳している。 

 

そのビノシュが扮しているのは、フランスを代表する大御所女優ファビエンヌの娘という設定で、ファビエンヌを演じているのはカトリーヌ・ドヌーヴだ。ファビエンヌは名女優と謳われているが、歳をとって我は強くなる一方、もの覚えは悪くなりこそすれよくなることはない。それなのに新しい若い才能はどんどん出てきて嫉妬を抑えきれない。若いライヴァルのアンナに扮するのはリュディヴィーヌ・サニエで、実際の話、現実として見てもかなり説得力のある設定だ。 

 

ビノシュは5年以上も前に「アクトレス (Clouds of Sils Maria)」で、実は自分こそ下から突き上げを食らうヴェテラン女優という役どころを演じて、かなり高い評価を得ていた。今回は、世界の映画史上のどこから見ても名女優という看板に嘘がない女優を相手に回しての演技になる。 

 

一方これが初共演となるビノシュとドヌーヴとは別に、ドヌーヴとサニエは、既に2002年にフランソワ・オゾンの「8人の女たち (8 Women)」等で共演済みだ。確かドヌーヴはそこでもサニエに対してライヴァル意識を持っていたような記憶がある。その関係のまま20年近く変わらないというのも、すごいと言えばすごい。 

 

個人的にはドヌーヴを見るのは「8人の女たち」以来になるので、最初「真実」で久しぶりにドヌーヴを見た時に感じた印象は、貫禄ついたなあというものだった。「ヴァンドーム広場 (Place Vendome)」や「ダンサー・イン・ザ・ダーク (Dancer in the Dark)」、「8人の女たち」辺りまではまだ色気が勝ってて、すげえなあと思わせられたが、今回はさすがに色気というわけには行かない。1943年生まれだから、もうすぐ80歳だ。今でもまだ色気あったら、むしろ化けもんと言えるかもしれない。 

 

このドヌーヴ、ビノシュ、サニエの共演は見てて楽しく、舞台がほぼドヌーヴ演じるファビエンヌの家と撮影ステュディオ以外あまり動かないこともあって、ヴェテランたちの舞台劇を見ているような気分にさせられる。映画の中では劇中劇で別の映画を撮っており、それもまた舞台劇を見ているような気分になる理由の一つだ。さらにファビエンヌの回顧録では、真実なんて退屈なものよと断じるファビエンヌによって、真実、もしくは事実は歪曲か捏造されており、女優であるファビエンヌの言動は、どうやら多くが演技でしかない。 

 

もはや目に見えるものすら真実なのか疑わしく、現実と真実は異なるもので、目に見えるものを信じられない時、人は何を信じてどう行動するべきか。それでもファビエンヌはほとんど一人だけ自信たっぷりに行動しているように見える。考えたらビノシュは昔から結構悩める役が多かった。サニエもドヌーヴ相手に負けてないし、ホウクもアメリカの2流のTV俳優って役がはまっているよなあ、などと、悩みながら楽しめる舞台劇という感じの一編。 











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フランスを代表する女優のファビエンヌ (カトリーヌ・ドヌーヴ) が半生を回顧して自伝を出版することになり、アメリカで脚本家として暮らしている娘のリュミール (ジュリエット・ビノシュ) は、TV俳優をしている夫のハンク (イーサン・ホウク)、娘のシャルロットと共に、久方ぶりに帰省する。実はリュミールは事前に自伝の内容を知らされてなく、自分がどう書かれているかを確認するという意味もあった。果たしてその中身は事実とはまったく異なることだらけで、事実とは退屈なものと嘯くファビエンヌに、リュミールは憤りを禁じ得ない。自分勝手な振る舞いを通すファビエンヌに対し、ついに長年の執事も堪忍袋の緒を切らして辞めていき、現在撮影中の新作でも、ファビエンヌは若い才能に嫉妬を感じてしまう‥‥ 


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