Searching


search/サーチ  (2018年9月)

巷では、「クレイジー・リッチ! (Crazy Rich Asians)」なる摩訶不思議で面妖な映画が公開されて、結構人が入っている。近年アメリカで頭角を現してきた、エイジアン、というよりも端的に大金持ちの中国人を描くコメディらしい。チャイナ・マネーがアメリカを席巻しているのは知っているが、しかし地道に毎日の仕事をこなしている私にとってはまったく関係のない話というしかなく、感情移入する要素がなくてまるで興味が持てない。 

 

むしろ意図的に同時期公開されたか、これまでほとんど例のなかったアジア人が主人公かつ主要キャラクターを占めるという点に関して、今、たぶんアジア系俳優としては知名度に関してはかなり上位にいると思われるジョン・チョー主演のサスペンス「Search/サーチ」に関しては、こちらは、逆にかなり興味を惹かれるのだった。 

 

チョーは、アメリカではたぶん「スター・トレック (Star Trek)」のスールー乗組員役で最も知られている。それ以前は「ハロルド&クマー (Harold & Kumar)」シリーズでコメディアンという印象が強かったのだが、近年はどちらかというとシリアスな役者という印象の方が定着している。「ハロルド&クマー」で一方のクマー役だったキャル・ペンが、やはりいつの間にかシリアスなドラマ役者になっているのと一緒だ。 

 

チョーはさらに、FOXの「ジ・エクソシスト (The Exorcist)」の第2シーズンで、悪魔憑きになってしまう主人公を好演、意外な側面を見せた。今年、エミー賞でアジア系女優として史上初めてサンドラ・オーが、BBCアメリカの「キリング・イヴ (Killing Eve)」でドラマの主演女優賞にノミネートされて話題になったが、まだ少数ではあるが、アジア系が主人公として登場し始めている。いつの間にやらチョーはアジア系俳優のフロント・ランナーの一人だ。 

 

実際の話、「サーチ」は主人公がアジア系であることを必要としない。というか、むしろ行方不明となった娘を血眼になって探す父親を描くというこの設定では、白人家庭の方がしっくりくるような気がする。一方で、だからこそ白人以外のマイノリティの人種を主人公にすることは、効果的であることも考えられる。実際、トランプ政権下において国境で密入国しようとして捕らえられ、親子が引き離されて今子供がどこにいるかわからないと嘆く親がニューズになったりしている。むしろマイノリティだと、マイノリティだからこそ経験する意外な展開を盛り込めそうという気もしないでもない。 

 

脚本演出のアニーシュ・チャガティは、名前からいって当然彼自身もたぶんインドかアラブ系のマイノリティだろう。ならばインド・アラブ系が主人公でもという気もするが、そこら辺で多いイスラム教系が主人公だと、今度はテロリズム的な、必要ではない余分な要素が入り込んできそうだ。この際、マイノリティという点こそが重要だったと思われる。 

 

「サーチ」は実際、スクリーン上でチョー演じる主人公のデイヴィッドが、行方不明になった娘のマーゴのラップトップを使って、様々なサーチをかけて手がかりを追う様を描く。最近、ミハエル・ハネケの「ハッピー・エンド (Happy End)」で、出演者の何人かがテキストやメイルを送ったりスマートフォンでヴィデオを撮ってたりして、画面上にそのスクリーンが長い間映ったままというシーンが何度もあった。観客にとってはむしろ不親切に見えるそういう演出が、ハネケの手にかかると自虐的に心地よかったりした。 

 

しかしそれにも増して「サーチ」の場合、主人公が最後の手がかりとして何度も娘のラップトップでサーチをかける。おかげでかなりの時間、スクリーン上に映るのはそのラップトップの画面だけだったりする。面白いのは、では登場人物の動きがなくて退屈かというと、そんなことはないことだ。どんな手がかりでも必死につかもうとサーチをかけるデイヴィッドの気持ちにシンクロして、デイヴィッドの表情はまったく見えないのに、なかなかサスペンスフルだ。焦る気持ちがびんびん伝わってくる。 ハネケといいチャガティといい、常識ではやっちゃダメだと言われそうな演出を逆手にとって、逆に効果を挙げている。

 

それにしてもデイヴィッドのサーチは速い。あの速さでググれると、多くの物事を手際よく進められそうだ。誰でも自分が登録したサイトでユーザーネイムやパスワードを忘れて困ったことがあるだろうが、そんな時どうやってそれらのパスワード等を回収するかを、デイヴィッドが猛烈な速さで実践している。 

 

消息を絶った娘の捜索の陣頭指揮に当たる女性刑事に、デブラ・メッシングが扮している。現在NBCで「ウィル&グレイス (Will & Grace)」のリメイクに主演中だ。こうやって改めて見ると、初代グレイスの時よりかなりウエイトがついて恰幅がよくなった。だからこそ刑事役でも違和感なくこなせるというのはある。 

 

ところで「Search/サーチ」というのは、英語と日本語両方合わせて一つのタイトルなんだろうか。なんで「Search」もしくは「サーチ」単体ではダメなんだろうか。インターネットが普及している現在、「Search」という単語は誰でも知っているはずだが、完全を期すために「サーチ」も加えたというところだろうか。「サーチング」だと、今度は長い、もしくは「サーチ」ほどしっくり来ないということだろうか。時々、邦題をつける者のセンスというのは、本当に不思議だ。 











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デイヴィッド (ジョン・チョー) は妻のパメラ亡き後、一人娘のマーゴ (ミシェル・ラー) を高校生になるまで大事に育ててきた。母がいなくてもマーゴのことなら何でも理解している父のつもりでいた。そのマーゴが、ある日グループ学習で友人の家に行くと家を出たまま、消息を絶つ。知人のすべてに連絡をしても、誰もマーゴの居所を知っている者はいなかった。マーゴのノートブックを調べ、心当たりあるすべての者に連絡した結果、わかったことはデイヴィッドはマーゴのことを何も理解していなかったということだった。警察に失踪届を出した後、デイヴィッドにできることはほとんど何も残っていなかった。警察から派遣されてきたヴィック刑事 (デブラ・メッシング) は、自分も高校生の息子の親ということもあり、親身になってデイヴィッドの力になろうとするが、マーゴの消息は杳として知れなかった‥‥ 


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