Star Trek Beyond


スター・トレック BEYOND  (2016年8月)

新「スター・トレック」シリーズの第3弾「BEYOND」は、宇宙を舞台としたいかにも宇宙活劇大作然とした前回「イントゥ・ダークネス (Into Darkness)」と較べると、今回は地表で地を足につけたアクションが多い。宇宙SFという点では多少小粒という印象を受けるが、それでもツボを外さないのはさすが。


今回のクライマックスは宇宙空間ではなく、ほとんど惑星と見間違えるような巨大な宇宙基地上で、引力が制御されているようで、上下左右にてんでの方向を向いて人やビルが建っている。「エリジウム (Elysium)」の人口都市を発展させたような感じだ。その縦横に伸びた建築物の突端の小ドームから隣り合った建築物、ダクトに空間を飛んで移動しながらのアクションはなかなか見もので、このアクションを考えた者、並びにプロダクション・デザインやCG担当はなかなかすごい。


それなのに現代的テクノロジーのオートバイに乗っての地上のアクションは、いきなりCG然となってしまい、なんでただバイクに跨って走るのをCGで撮らなければならんのか、しかもなんかヘタ、と不思議。「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT  (The Fast and the Furious: Tokyo Drift)」で山間のワインディング・ロードのバトルのCGがこんな感じだったなと思い出す。しかしあれは夜の山間のシーンをロングで撮ってたからな、CGに頼るのはわからんではない。しかし今回くらいの、たとえ荒れた地表といえども昼間バイクで走るだけのシーンが、なぜ無闇と作り物めいたCGになる。謎だ。


と思っていたら、エンディングのクレジットで今回の演出がJ. J.・エイブラムスではなく、実際に「ワイルド・スピード」のジャスティン・リンであることを知って疑問が氷解する。考えたらエイブラムスは年頭の「スター・ウォーズ/フォースの覚醒 (Star Wars: The Force Awakens)」を撮っていた。あれから半年でまたこんな大きな映画を撮れるわけないか。リンに任したんだな、と気がついた。


近年のこの種のハリウッドSFアクションは、だいたい3部作となるのが通例だ。とはいえ前「スター・トレック」映画シリーズは、オリジナル・キャストの作品だけでも都合6本作られているから、今「スター・トレック」がどうなるかはまだわからない。たぶん「スター・トレック」は今後も続いていくものだとなんとはなしに思っていたが、実は「BEYOND」は、ストーリーそのものや映画を取り巻く状況から、終わりを感じさせるものとなった。


まず第一に、物語が始まった早々、カーク船長がエンタープライズから降りることを考えている。いつの間にかカークは父が死んだ歳を追い越し、自分自身の来し方行く末を考える歳になっている。エンタープライズの後任はスポックを考えているが、そのスポック自身、先代スポックが死んだとの知らせを受け、船を降りて学究の道を極めたいと思っている。なぜだか勝手にスポックって不老不死みたいな印象を持っていたが、命あるものはいつかは死ぬ。


そんなこんなで出動したエンタープライズは、クロールの攻めを受けて大破、カークを含め乗組員は全員船を捨てて脱出する。前回あれほどの傷を受けても持ち堪えた巨船が、なす術もなく轟沈する。未来の話とはいえ、やはりこういう大きな船の船長は、タイタニックの船長みたいに運命を共にしてもらいたかったと思うのは感傷に過ぎるのは重々承知しているが、しかしそれにしてもあまりにも簡単にやられてしまう。それだからこそ簡単に船を見限る気にもなれるのだろうが。


先代スポックの死は、現実にかつてスポックを演じたレナード・ニモイの死が関係している。そして春先には、チェコフを演じたアントン・イェルチンが、不慮の交通事故死で他界している。イェルチンは、自宅の敷地内の坂になっている場所に停めていたジープのSUVが、パーキング・ブレーキが外れて動き、クルマと門扉に挟まれて死んだ。


この、パーキング・ポジションに入れたブレーキが外れる問題は以前から報告されていたそうだが、ハリウッド俳優が関係して俄かに問題視されるようになった。いずれにしても多少の怪我ならいざ知らず、なんでそれでまた死んじゃわないといけないわけ? とつい思ってしまう。ニューズで見るとクルマはせいぜい数m動いただけで、よほど打ちどころが悪かったのだろう。もう本当に運が悪かったとしか言いようがない。


おかげで映画はエンド・クレジットにそれまでのレナード・ニモイの貢献を讃えるだけではなく、イェルチンの追悼まで挿入せざるを得なかった。ほぼ天寿をまっとうして死んだニモイの場合、天に召されてもむしろおめでたいような感触があるが、イェルチンの場合、早過ぎるという印象を禁じ得ない。


カークは船を降りようとしているし前スポックは死んじゃうしチェコフもいなくなってしまうしエンタープライズはあっけなく破壊されてしまう。おかげで「BEYOND」は転換期の風雲急を感じさせるというよりも、かなりマイナス指向を感じさせる作品となってしまった。ついでに言うと、正統派ヒーローというよりも常に負のヒーローという印象を感じさせるイドリス・エルバが今回の悪役クロールを演じていることが、さらに負の印象を強調している。


この種のハリウッド・ヒーローものは、マーヴェルのアベンジャーズ関連を除いて近年三部作となるのが通例ということを考えると、「BEYOND」はその節目を意識して、エンタープライズは倒れても再建するみたいなイメージを念頭に、その後のことも考えて作品作りをこころがけたものだと思う。最後には皆収まるべきところに収まって大団円みたいな終わり方をする。それが現実も絡めたいくつかの出来事のおかげで、その先の未来を予感させるよりも、本当に最終回みたいな感じで終わってしまった。


一方、実は今NBCで、不良老人たちがアジアを旅するという企画番組の「ベター・レイト・ザン・ネヴァー (Better Late Than Never)」で、ウィリアム・シャトナーがその一員として東京でカプセル・ホテルに泊まったり居酒屋でクダ巻いてたりしている。元祖カーク船長は、実のところとんと元気で不良老人振りを発揮している。あんたは「スター・トレック」で死んだ親父の2倍、いや3倍の年齢に達している。「スター・トレック」の今後も、案外と案ずるより産むが易しという気もしないでもない。









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宇宙基地ヨークタウンに寄港していたエンタープライズは、宇宙を漂流して救助を求めていたカララ (リディア・ウィルソン) の求めに応じ彼女の船の救助に赴くが、待ち伏せしていたクロール (イドリス・エルバ) の軍勢により船を破壊され、カーク船長 (クリス・パイン) 以下船を見捨てて脱出せざるを得なくなる。クロールはバイオウェポンを作るために、カークが所有していたアブロナスを必要としていたのだ。エンタープライズの乗組員は惑星で散り散りとなる。クロールに捕らわれた者も多かったが、スコッティ (サイモン・ペッグ) はジェイラ (ソフィア・ブテラ) に助けられて難を逃れる。ジェイラが本拠地にしていたのは、行方不明となっていた旧型の宇宙船フランクリンであり、クロールはフランクリンの元船長だった。スコッティは再会したカークらと共に、フランクリンを起動させようとする‥‥


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