Elysium


エリジウム  (2013年8月)

「ディストリクト9 (District 9)」のニール・ブロムカンプが、マット・デイモン、ジョディ・フォスターといったハリウッド・スターを迎えて撮った未来SFが、「エリジウム」だ。 

  

最初ポスターを見た時は、主人公に扮するマット・デイモンが背中や頭の上に何やらパイプのようなギプスを取りつけて、サイボーグ化したスーパーヒーローものかと一瞬思ったが、「ディストリクト9」という曲者SFを撮ったブロムカンプのこととて、そんなまともなヒーローものを撮るはずもない。 

  

このギプスは仕事中の事故で全身に放射能を浴び、あと数日間しか生きられないマックスが、エリジウムに生きて到達し、医療措置を受けるまでのサポートなのだった。それにしても「ディストリクト9」のエビ型エイリアンといい、今回のサイボーグ・デイモンといい、よくよく甲殻類を思わせるヴィジュアルに惹かれるやつだ。 

  

タイトルでもある「エリジウム」はいわゆるユートピアで、人類の一部の限られた富裕層が住むスペース・コロニーだ。そこでは人々は病気や疫病の蔓延といった恐怖に怯えることなく平和で享楽的な生活を満喫している。一方、汚染された地上に住む貧民は、日々の生活に汲々として、地面を這いつくばるように生きるこ とを余儀なくされている。 

 

未来が富む者と貧しい者に二極化されるという構造は、未来SFではほとんどお約束の舞台設定だ。近年の作品だけでも、「ハンガー・ゲーム (The Hunger Games)」「トータル・リコール (Total Recall)」「タイム (In Time)」等、すぐその種の作品が思い浮かぶ。地上のことが描かれない宇宙ものか、未来が文明が滅亡してすべての者が原始人的な生活を強いられているか、あるいはゾンビに支配されているのでもない限り、人はその大半は一部の者のみが富を支配し、残りのほとんどの者は貧窮に喘いでいる。 

 

特に「エリジウム」がかなり「タイム」を連想させるのは、富裕層が貧民から搾取した金と力を用いて不死的な命と権力を得ているという点にある。「タイム」では実際に富裕層は不死になり、永遠に死なない力を手に入れる。寿命は金で買えるのだ。「エリジウム」の場合は、各家庭に一台? 身体の悪い部分を治療して完全な健康体を維持する医療装置がある。これにかかれば重い病気もスキャン一発で治せる。 

 

とはいえ、もし私が為政家の一人なら、こんな機械をエリジウムで一人占めすることなく、人類の数がある一定数以上にならないようにモニタしながら、地上でも使うだろう。労働力を常に確保できるその方が搾取する方にとっては都合がいいに決まっている。こんな簡単なことに気づかないから、デラコートにこいつらは生ぬるいと軽視され、クーデターを企ませることになる。 

 

デラコートといえば、「ディストリクト9」を見た時、エイリアンが母星語をしゃべると字幕が出たのを見て、自分で言葉を発明した「ネル (Nell)」のジョディ・フォスターを思い出したが、そのフォスターがデラコートに扮している。「ネル」では自己完結し、こちらではクーデターを企てるやはり自己中だ。 

 

そのフォスターが力を持つ女性を代表する存在だとしたら、一方の母性を代表するのが、フレイに扮するアリス・ブラガだ。実際ブラガというと、「アイ・アム・レジェンド (I Am Legend)」といい「レポゼッション・メン (Repo Men)」といい、常に幼い子供を守っているという印象がある。 

 

「ディストリクト9」で気弱な主人公を演じていたシャールト・コプリーが、ここでは非情な暗殺者を演じている。確か演技経験のない新人だったはずだが、既にかなりの役幅だ。IT業者のカーライルを演じるウィリアム・フィクトナーは、最近「ローン・レンジャー (The Lone Ranger)」、NBCの「クロッシング・ラインズ (Crossing Lines)」等、目にする機会が多い。 

 

いずれにしても「タイム」も「エリジウム」も、将来に関しては悲観的と言わざるを得ない。どこかでデイモンが言っていたことを読んだが、ブロムカンプは人類の将来に関しては筋金入りの悲観主義者で、面白いやつなんだが、話していると自殺したくなると言っていた。なんとなくわかる。 

 

生きているからには、むろん負け組よりは勝ち組に入りたい。金はないよりはある方がいいに決まっている。しかしこういうSFで描写される富裕層があまり魅力的には見えず、惹かれないのは、結局こういう設定で作品を撮っている者は基本的にペシミスティックで、そういう考え方が投影されるためか。また、感情移入している主人公がまず100%下層階級出身で、その色メガネを通して富裕層を見ていることも、理由の一つに挙げられそうだ。 

 

しかし、だとしたらよけいに羨ましい気持ちになりそうなもんだが、なぜだかそうはならない。毎日パーティを開いてシャンパンを開けて享楽に耽る金持ちを見ても羨ましく思わないのは、充足している者はそれで安定してエナジー・レヴェルが低下というか落ち着いているため、貧民が上へ上へと喘ぐ上昇志向エナジーの方が吸引力があるからかもしれない。だからといってではお前は貧民でいいのかと訊かれたら、そりゃ嫌だと答えるけれども。 










< previous                                      HOME

西暦2154年、 汚染された地球は人が住む環境としては適さなくなり、富裕層は上空に人工の空中楼閣エリジウムを構築して住んでいた。すべてのことが隅々まで管理されたエ リジウムでは貧困も疫病も存在せず、人々は地上の労働者が働いた収益を吸い上げ、優雅に暮らしていた。エリジウムを統括するセキュリティ責任者のデラコー ト (ジョディ・フォスター) は、しかし生ぬるい政府高官に憤っており、エリジウムのITを管轄するカーライル (ウィリアム・フィクトナー) を抱き込んでクーデターを企てる。地上で働く貧困層の一人であるマックス (マット・デイモン) は、仕事中に事故で大量の放射能を浴びる。生き延びるためには、エリジウムの医療機器に頼る必要があった。かつて一緒に幼い時を過ごしたフレイ (アリス・ブラガ) の娘もまた難病を抱えており、マックスは地上の裏の世界を仕切るスパイダー (ワグネル・モウラ) の力を借りてエリジウムに到達しようとする‥‥


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system