ナイトリー・ニューズ・ウィズ・レスター・ホルト   Nightly News with Lester Holt

放送局: NBC

新ホスト・プレミア放送日: 6/22/2015 (Mon) 18:30-19:00

製作: NBC

ホスト: レスター・ホルト


内容: 新ホストとなったNBCのワールド・ニューズ。


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Nightly News with Lester Holt


ナイトリー・ニューズ・ウィズ・レスター・ホルト  ★★1/2

三大ネットワークのABC、CBS、NBCは、それぞれ平日午後6時半からワールド・ニューズの報道番組を持っている。各ネットワークを代表するアンカーが務める、ネットワークの顔とも言える重要な番組だ。


そのワールド・ニューズにおいて、ブライアン・ウィリアムズが2004年暮れからホストを務めているNBCの「ナイトリー・ニューズ」は、CBSの「イヴニング・ニューズ (Evening News)」(現ホスト: スコット・ペリー)、ABCの「ワールド・ニューズ・トゥナイト (World News Tonight)」(現ホスト: デイヴィッド・ミュアー) より常に多くの視聴率を獲得していた。


ウィリアムズ人気はほぼ鉄板という印象があり、その人気を見越してNBCはウィリアムズを起用してプライムタイムにまで報道番組の「ロック・センター・ウィズ・ブライアン・ウィリアムズ (Rock Center with Brian Williams)」を編成するほどだった。ただし、NBCは既にプライムタイムにヴェテラン報道番組の「デイトライン (Dateline)」を持っており、さすがにいかにウィリアムズといえどもそれ以上この分野に参入できる余地はなく、「ロック・センター」は今ではキャンセルされている。


ウィリアムズが実力のあるアンカーということに異議を唱えるつもりはまったくないが、それでも、私の意見では、ウィリアムズはちょっと遊びが強過ぎるというか、露悪的な傾向が強いという印象があった。「ナイトリー・ニューズ」と「ロック・センター」の激務で忙しいはずなのに、その上よく深夜トークにゲストとして登場する。それだけならまだしも、ジミー・ファロンがホストのNBCの「レイト・ナイト (Late Night)」-「トゥナイト (Tonight)」では、ファロンと一緒にリズムに乗せてニューズを読み上げる「スロウ・ジャミン'」コーナーに何度も顔を出すなど、ちょっと、お前、信頼が何にも増して優先するワールド・ニューズのアンカーにしては、ちょっと腰が軽過ぎないかと思っていた。


印象としては、アンカーとしてのウィリアムズが最も似ているのは、前任者のトム・ブロコウではなく、我が強く、やはりこちらもパフォーマーという印象が強かった、CBSの「イヴニング・ニューズ」で長らくホストを担当していたダン・ラザーだ。そのラザーは、かつてブッシュ元大統領が兵役を偽っていたという偽情報に踊らされた挙げ句、結局引責辞任に追い込まれた。なんとなくではあるが、私はウィリアムズとラザーに、似たようなものを感じていた。


そして今春の、ウィリアムズの中東でのニューズ捏造事件が発覚する。これは2002年にイラク戦争を取材していたウィリアムズが、乗っていたヘリコプタを撃墜されて九死に一生を得たという話で、ウィリアムズ自身がこの話をいつぞやのCBSの「レイト・ショウ (Late Show)」においてホストのデイヴィッド・レターマン相手に話していたのを、私自身も見ている。へえ、ウィリアムズもヤバい目に遭ってんだ、この商売も大変だなと、素直に感心した。


そしたら今春、イラク戦争を回顧する、みたいな特集で「ナイトリー・ニューズ」でこの話が再度掘り起こされた時に、これを目にした軍人らが挙ってウィリアムズを弾劾した。ウィリアムズが戦地を取材したのは事実だが、彼が乗っていたのは別のヘリコプタで、撃墜されたヘリにはウィリアムズは乗っていなかった。彼が言っていることは事実に反すると糾弾した。


もちろん、それが事実としたら由々しき問題だ。自らニューズを捏造してしまったわけで、偽情報に翻弄されたラザーよりもっと性質が悪い。当然NBCも慌てて事実解明に乗り出し、その結果、ウィリアムズが述べたことは事実ではなく、自身をちょっと格好よくヒーロー化した脚色だったことが判明した。ウィリアムズは即刻「ナイトリー・ニューズ」から謹慎という名目で降ろされ、その後番組はレスター・ホルトを筆頭とするNBCニューズ・チームが交代でアンカーを務めた。


その後、ウィリアムズの処遇が最大の焦点となった。謹慎処分の後、「ナイトリー・ニューズ」アンカーとして再度復帰してくるのか、それともクビか。6月、NBCは「ナイトリー・ニューズ」新ホストにホルトが就任することを発表した。ウィリアムズは番組を降ろされたわけだが、しかしNBC自体をクビになったわけではなかった。


というのも、スキャンダルは起こしても、キャリアという点では輝かしいものを持つウィリアムズに比肩するニューズ・アンカーは、そうはいない。「ナイトリー・ニューズ」に復帰させるわけにはいかないが、ウィリアムズほどのキャリアがあるなら、NBCをクビにした場合、他のニューズ・チャンネルがこの機を逃さずウィリアムズに食指を伸ばしてくる可能性は高い。


NBCとしてはそれだけは避けたい。これまで育てきたネットワークを代表するアンカーを、他のチャンネルにみすみすとられることはなんとしてでも阻止したい。というわけで、ウィリアムズはNBCをクビにはならず、系列ニューズ・チャンネルのMSNBCで使われるということになった。


とはいっても、ウィリアムズの名を冠したニューズ番組を新たに製作するということではなく、現行番組の中で使われるという形で、確たる仕事があるわけではない。要するに閑職に飛ばされただけの飼い殺し、左遷だ。はっきり言ってウィリアムズの立場からしたら、まだクビになって新しい職場を探す方が彼自身にとってはよかったろう。これでウィリアムズは前に進むことも後ろに引くこともできず、キャリアの息の根を止められたことになる。


それにしても、なんでまたあんなつまらないことをしでかしたんだ。ウィリアムズは後日、自分のエゴのせい云々と言って謝罪していたが、ただただ残念としか言いようがない。あんな嘘でも、ワールド・ニューズのアンカーという立場では致命的ということは、その立場にいる者なら人から言われなくても充分わかっていただろうに。それでも、事実を脚色するという誘惑に勝てなかったエゴの肥大さというものに嘆息してしまうのだった。


それにしてもウィリアムズ、この話は彼は何度か異なったところでしており、今回初めて口にしたわけではない。しかしこれまでは運よくというか、事件の関係者の目から逃れており、捏造を指摘されなかった。それなのに、今、イラク戦争を回顧してその嘘を関係者から糾弾されるに至った。ここまでばれずに済んでいたのだ、黙っていれば今後もばれないままでいる可能性は大きかっただろうに。それとも天網恢恢と言うべきだろうか。


さて、新ホストのホルトは、個人的には「デイトライン」の顔という印象が強い。一方でホルトは朝のトーク/ヴァラエティの「トゥデイ (Today)」のウィークエンド・エディションのホストでもある。つまりホルトは、NBCを代表する報道系番組には既にすべて関係している。知名度としてはこれ以上望むべくもなく、ウィリアムズの後任として彼以外は考えられなかったろう。


就任したホルトの最初の正式な「ナイトリー・ニューズ」第1回は、6月22日に放送された。最初のニューズはノース・カロライナでの白人青年による黒人教会での銃乱射事件、次は北ニューヨークでの刑務所脱走事件で、この二つの事件だけでほぼ半分の時間を使った。


正式にホストに就任したからといって番組進行にこれまでと特に違いがあるわけではないが、正式番組名が「ナイトリー・ニューズ・ウィズ・ブライアン・ウィリアムズ」から「ナイトリー・ニューズ・ウィズ・レスター・ホルト」になるのは、本人にとってはやはりなにがしかの感慨を伴うようだ。この日の最後には、簡単な挨拶と共にウィリアムズにも感謝の辞を述べていた。


私は、ホルトはネットワーク史上初の黒人ホストだと思っていたが、歴史的事件のはずのそのことに誰も触れない。調べてみると、実は既に1970年代に、ABCの「ワールド・ニューズ」で、三人の共同アンカーではあるが、黒人のマックス・ロビンソンがホストに就いていた。ただしこの時の三人の相性はあまり芳しいものではなかったようで、ほどなく「ワールド・ニューズ」はシングル・アンカー体制に戻り、ロビンソンはその後しばらくして、AIDSで死亡している。


最近の、特に白人と黒人間における差別や暴力事件の頻発を見ると、これが根深い問題であることは論を俟たない。むしろ黒人初の大統領バラク・オバマが就任したことが、今まで蓋をされていたこの問題が陽の当たるところに出てくる機会を与えたような気がする。こういう時期にワールド・ニューズのホストに就任したホルトは、もしかしたら非常な大任を任されたのかもしれない。ワールド・ニューズ自体も変遷していく。










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