Late Show with David Letterman   レイト・ショウ・ウィズ・デイヴィッド・レターマン

放送局: CBS

プレミア放送日: 8/30/1993 (Mon) 23:30-0:30

最終回放送日: 5/20/2015 (Wed) 23:35-0:35

製作: ワールドワイド・パンツ

製作総指揮: ロブ・バーネット、バーバラ・ゲインズ、マリア・ポープ

ホスト: デイヴィッド・レターマン

バンド・リーダー: ポール・シェイファー


内容: 22年間続いた深夜トーク・ショウ「レイト・ショウ・ウィズ・デイヴィッド・レターマン」の最終回。


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Late Show with David Letterman


レイト・ショウ・ウィズ・デイヴィッド・レターマン  ★★1/2

ついにデイヴィッド・レターマンがホストの「レイト・ショウ」も最終回を迎えた。かつてNBCで「レイト・ナイト (Late Night)」のホストを10年にわたって担当し、歴史ある「トゥナイト (Tonight)」のポスト・ジョニー・カーソンの筆頭と言われながらその座をジェイ・レノに奪われ、傷心となってCBSに移って「レイト・ショウ」ホストに就任し、そしてそこで20年以上の長きにわたって番組を続けた。


視聴率の点から見ると、レターマンの「レイト・ショウ」は番組が始まって数シーズン以外はほとんど常に裏番組のレノの「トゥナイト」に及ばず、万年時間帯2位の位置に収まっていた。それでも20年以上も続き、キャンセルではなくレターマンが自らの意志で番組の幕を引いたわけだから、CBSにとってもレターマンにとっても満足できる結果を残せたと言えるのではないか。


だいたい、レターマンのギャグ・センスは癖がある。レターマン・ギャグの基本は、いじめ、というか、いちびり、というか、とにかく嗜虐的なものだ。ややもすれば弱い者いじめみたいなところがあり、そのため見る者を選ぶ。今でこそかなり軟化しているが、特にレターマンがかつてNBCで深夜零時半の「レイト・ナイト」ホストをしていた時代は、その癖が強過ぎ、笑えないことが多かった。


例えばマクドナルズに行ってクオーター・パウンダーではなくスリー・クオーター・パウンダーやハーフ・パウンダーを注文したりするのはまだいい方で、まったくメニューに載っていないものを注文したりする。寿司屋に行って天婦羅を注文するようなもので、見ていて笑えないし、やられた方は単純に不愉快だろう。ある時はウエイトに扮したレターマンの関係者が何も知らない一般客に対し、オーダーされたものではなく関係ないものをあれこれ勧めて本気で怒らせていた。仲間内ならまだしも、赤の他人にこれをやって面白いと思うセンスが解せない。単なる嫌がらせでしかない。


20年前にNBCが、レターマンが引退するカーソンの後をつつがなく継いで11時半編成の「トゥナイト」ホストに収まることができるかを危惧したのも当然なのだ。たぶん、もしレターマンが下馬評通りに「トゥナイト」ホストに就任していた場合、かれこれ数年前にコナン・オブライエンが「トゥナイト」に就任した時のように、その癖のあるギャグ・センスのために視聴者をつかまえられず、遅かれ早かれキャンセルされていたんじゃないかという可能性は小さくないものがある。


その点、CBSに移ってきたレターマンは、常に視聴率でレノの後塵を拝するようになっても番組はキャンセルされることなく、その上、時間をかけてレターマンのギャグも軟化し、より多くの視聴者に適合するようになった。例えば縫いぐるみを着たゆるキャラの集団を、一人一人スターバックスに送り込んで店内をゆるキャラで一杯にするという視覚ギャグは、視聴者も店も客も楽しめるなかなかシュールなものだった。ギャグの質が年月と共に変化して行ったことがわかる。こういう時間をかけた緩やかな適応は、「トゥナイト」では無理だったろうし、今ではCBSですら無理だろう。つまり、これができたレターマンはラッキーだった。


さらにレターマンには、他の者だったら致命的だったと思えるスキャンダルもある。番組関係者と浮気してオフィス内で乳繰り合っているのを知った他の関係者から強請られ、強請に屈するよりはと自ら自分の浮気を番組内で告白した時なぞは、レターマン、何言ってるんだ、お前、大丈夫か、と私はTV画面を見ながら絶句した。しかしレターマンの場合、こういうスキャンダルがマイナスにならないのだ。むしろ強請りに屈しない筋の入った男として、株を上げた印象すらある。これがレノだったら、たぶんNBCから引導を渡されていたと思う。


他にレターマンだけが特に印象に残る特質として、本人の外見の変化が挙げられる。そこそこキャリアが長いことが特徴の一つでもある深夜トークだが、例えばレノの場合、20年前と現在とでは、確かに髪に白いものが増えたが、それでも全体としての印象はほとんど変わらない。しかしレターマンの場合、特に2000年に心臓バイパス手術を受けた後、ほとんどぼさぼさの髪が薄く白くなり、かなり老けた印象を与えるようになった。正直言って20年前と今とでは、まったく同じ人物には見えないほど外見が変わっている。


さて、こんなそんなでレターマンの「レイト・ショウ」もついに最終回を迎えることになった。CBSはプライムタイムにレターマンのキャリアを回顧する特番「デイヴィッド・レターマン: ア・ライフ・オン・テレヴィジョン (David Letterman: A Life on Television)」を編成して引退を盛り上げる。「レイト・ショウ」自体でも、過去の放送から選りすぐったクリップをまぶしてレターマンのキャリアを回顧する。


だいたい最終回の一と月前辺りくらいから、ゲストもレターマンに所縁の深い馴染みのあるセレブリティが連続して顔を出すようになった。意外だったのが、これらの面々が結構エモーショナルだったりしたことだ。レイ・ロマノは登場するなりオレは今とてもエモーショナルだといってうるうるしているし、ビル・マーレイも感傷的になっているし、「レイト・ショウ」の動物コーナーのレギュラーで、いつもレターマンに対してあんたはまともに動物も扱えないのかとケンカ腰にすら見えたジャック・ハンナまでもが涙をぬぐったりするのを見ると、思わずこちらもほろりとしてしまう。レノの「トゥナイト」が終わる時は、例えばレノ派のサンドラ・ブロックが涙ぐんだりしていたが、ここまで大勢が涙もろかったわけじゃない。


それ以外ではティナ・フェイはまばゆいばかりのブルーのドレスをいきなり脱ぎ出すと、その下には下腹部に「Bye, Dave」と書かれたレオタード姿で、ジュリア・ロバーツは毎回お約束のようにキスをせがみ、ジョージ・クルーニーはあんたは引退はまだ早いとレターマンと自分とを手錠で結び、繋がれたまま翌日分の放送の冒頭にも顔を出すなど、なかなか皆面白い演出を見せた。


そして最後の週は、月曜のゲストがトム・ハンクス。ハンクスはジェイムズ・コーデンがホストに就いた「ザ・レイト・レイト・ショウ (The Late Late Show)」の最初のゲストでもあり、この手の節目に現れるお約束人物化しつつある。火曜のゲストは、そもそもの20年前の「レイト・ショウ」第1回のゲストでもあったビル・マーレイが、巨大ケーキの中から現れる。正式なゲストとしてではないが、盟友リージス・フィルビンも当然の如く登場、番組を収録しているエド・サリヴァン・シアターのすぐ後ろに店を構え、番組にも度々登場した「ハロー・デリ」オーナーのルパートも顔を出す。音楽ゲストは御大ボブ・ディランだ。


そして水曜の本当に本当の最終回は、冒頭、ブッシュ親子、クリントン、オバマ等のアメリカの歴代大統領が現れ、それぞれがアメリカの長かった悪夢はやっと終わりました、レターマンが最終回ですと告げ、番組が始まる。フォード、ニクソンを除くと、わざわざその短いセンテンスを言うためだけに歴代大統領がヴィデオで登場する。最後のオバマとはレターマンと一緒の掛け合いまである。国民的番組なんだなあ。


最終回にはゲストはいないが、お約束のベストテン・リストに、私がレターマンに言いたかったことと題して10人のスペシャル・ゲストが登場、アレック・ボールドウィンを筆頭に、バーバラ・ウォルターズ、ジェリー・サインフェルド、スティーヴ・マーティンらが登場、ここでもトリはマーレイだった。


その後はほとんどを総集編のような感じで進行、最後にレターマンが挨拶を述べ、音楽ゲストはフー・ファイターズで締め括った。レターマン本人はできるだけいつも通りに番組を進行させ、クールに締めようとしていた節が窺えるが、ステュディオの観客が、最後だしと盛り上がっていたという感じだった。よくレターマンのモノローグに登場する息子のハリーと奥さんもステュディオに来ていた。ハリーはいつの間にか大きくなって、既に10歳くらいか。実はスポットライトが当たるのが嫌そうな感じだった。もう物心ついてんだな。結局番組は予定の1時間を20分くらい超えて終了した。これ、DVRに録画しておいて見ようと思った者は、最後が途切れてて呆然としたろう。


実はこの日は、最終回の直後に始まった「レイト・レイト・ショウ」のオープニングもなかなか面白かった。「レイト・レイト・ショウ」はいつもはLA収録なのだが、この日に限り番組が始まると画面に映ったのは「レイト・ショウ」が収録されているNYのエド・サリヴァン・シアター前のブロードウェイの路上で、いきなりスティングがギターを抱えて「Every Breath You Take…」と歌い始める。レターマンへのトリビュートだ。スティングは現在、自身が手がけるミュージカル「ザ・ラスト・シップ (The Last Ship)」公演のためにNY滞在中なのだ。いずれにしても「Every Breath You Take」は、歌詞をよく聴くと、かなりストーカーで怖い。


そしてカメラが引くと、そこに映り込んで来たのは、誰あろう 「レイト・レイト・ショウ」ホストのコーデン。彼までNYに来ていたのか。コーデンはスティングのギターに合わせて、即興でラップで歌詞を挟む。するとそれが気に入らないスティングは、頼むからやめてくれとコーデンを諌める。しょうがないからコーデンは普通にスティングとハモるのだが、それが結構上手なのだ。悪くないじゃないかという態度のスティングに対し、コーデンは、じゃ、とスティングのギター・ケースに1ドル札を入れて去っていく。それを見たスティングが、たったの1ドルか、ケチ、とくさす落ちになっていた。


直後に始まった場所をLAのステュディオに移しての「レイト・レイト・ショウ」のオープニン グでは、レターマンに敬意を表して、「レイト・ショウ」オープニングでポール・シェイファーとCBSバンドが奏でる「レイト・ショウ」のオープニング・ テーマを演奏して番組が始まった。それにしてもコーデン、意外にとても歌がうまい。


「レイト・ショウ」終了後、CBSはこの時間帯どうするんだろう、次ホストのスティーヴン・コルベアが就任する秋までまた臨時ホストで凌ぐのかなと思っていた。あるいは、一時的にその後の時間帯に編成されている「レイト・レイト・ショウ」をこの時間帯に持ってきて、コーデンの露出度を高めるという手もある。


そしたらCBSは、夏中ドラマの再放送で乗り切る方針のようで、まずこちらも最終回を迎えた「メンタリスト (Mentalist)」を手始めに、新番組の「CSI: サイバー (CSI: Cyber)」、「ハワイ 5-0 (Hawaii 5-O)」等の再放送が入れ替わり立ち代わり編成されている。コーデンが就任するまでの「レイト・レイト・ショウ」の臨時ホスト・ヴァージョンはわりと面白かったから、ここでもそれを見てもいいと思ったんだが。


かれこれ20年前にレターマンになって当然と思われていた「トゥナイト」ホストの座をレノに奪われた時、誰もがレターマンに同情した。しかし、現在、その「トゥナイト」ホストの座を飛ぶ鳥後を思い切り濁して追われたレノを見ていると、最終的に最も実のある結果を得たのは、レターマンだったと思わざるを得ない。これだけ人から惜しまれて最終回を迎えることができたのだ。本望だろう。










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