Nightcrawler


ナイトクロウラー  (2014年11月)

マルチプレックスに着いてみると、大勢の若者が階段やフロアに座り込んでだべっている。ここでこんなすごい人混みは経験ない。お、そうか、今日、正確には確か昨日から「ハンガー・ゲーム (The Hunger Games)」の最新作「マネシカケスの少女 (Mockingjay)」が始まっているはずだと思い出す。それでか。


ヒット作を分割して稼ごうというハリウッドの姿勢は「ハリー・ポッターと死の秘宝 (Harry Potter and the Deathly Hallows)」が定着させたように思うが、しかし嚆矢というわけではない。たぶん昔もあっただろうし、「ロード・オブ・リングス (The Lord of the Rings)」3部作もあれで一つの作品だ。「マトリックス (Matrix)」もある。


しかし製作に時間のかかる映画の場合、2部作として製作することの不都合さもある。これらの人気作は、多くの場合ティーンエイジャー向けのファンタジー系作品で、出演者も若かったりする。そうすると同時期に撮ってない場合、時間的にはほとんど同時期のはずの前後編で、結構出演者の顔が変わってたりしそうだ。


それになによりも、間隔を開けて次作が公開される場合、観客が飽きてないかという心配もある。この製作サイドの心理的垣根を取っ払ったのが「ロード・オブ・リングス」だったことは間違いないだろう。毎年末公開というシステムで公開された「リングス」の興行成績が予想を上回ったことが、現在の2部作の流行を決定づけた。観客はプロデューサーが考えているのより忠実で、忍耐強い。


しかし、普通、明らかに飽きやすく流行り廃りの早いティーンエイジャーにおいて、なぜこういう一部のブロックバスターだけが常に人気があるかは謎だ。実際、2部作3部作とは異なるがシリアル、スピンオフという形で製作公開される映画も結構あるが、それらが常に成功するわけではない。ある一定以上の人気、知名度が最初から構築されていない場合、ストーリーの分割は自分で自分の首を絞めるだけになりかねない。ライフスタイルの一部に組み込まれるほど普遍化したほんの一握りの作品だけが、前後編という特権的な公開スタイルを獲得し、成功する。


これって、富める者はますます富み、貧するものはますます貧する二極分化経済を如実に反映しているのではないか。成功失敗という枠組みだけにとらわれない映画産業全体の繁栄のためにも、あまり顧みられない作品も見なくては、と私は人もまばらな「ナイトクロウラー」を上映している小屋に足を運ぶのだった。


「ナイトクロウラー」で最も印象的なのは、これまで典型的な善人とは言えなくとも、少なくとも悪人を演じることのなかった (たぶん) ジェイク・ジレンホールが、主人公とはいえ悪役を演じていることにある。ジレンホール演じる主人公ルーは、友達のいないローナーで、定職にもついてない。印象が悪く、どこに面接に行ってもどこからも断られる。深夜、街を徘徊しフェンスを盗んで金属材として売って小金を得てたりする。セキュリティに見つかると、隙を見て逆に相手に襲いかかり、金目の腕時計を奪い取ることもある。もしかしたら相手は死んでしまったかもしれないが、そんなのお構いなしだ。


ジレンホールはそういう、明らかに法の向こう側にいる人間を演じているのだが、実際悪人に見える。これにはかなり感心した。先週も、「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 (The Girl with the Dragon Tattoo)」で気弱で無能な編集者を演じていたミカエル・ニクヴィストが、「ジョン・ウィック (John Wick)」ではロシアン・ギャングのボスに扮し、結構それらしく見えることに感心したのだが、今回のジレンホールはそれよりももっと感心した。


ルーは、夜中街を流しながら事件を追う特ダネ・カメラマンという仕事を自分の天職として発見する。元々自分さえよければという発想の持ち主だから、事件現場に勝手に手を加えて脚色したり、業界ライヴァルを落とし入れるなんてことも平気でする。そういう微妙な嫌らしさ、一人よがりの傲岸な男という雰囲気をちゃんと出している。


いくら夜型で他の人間との協調が得手ではないとはいっても、一人で毎夜街をクルマで流し続けることはできないし、警察無線を傍聴しながら運転して同時に場所を特定するのは不可能だ。それでルーはナヴィ役として、若いがほとんどホームレスのリックをはした金で雇う。


実はリックに扮しているリズ・アーメッドが、かつてNBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ (Saturday Night Live)」のレギュラーだったクリス・カタンにそっくりだ。角度によっては瓜二つで、シリアスなドラマとはいえ、私の頭の中ではカタンの十八番のゲイ・パフォーマーのマンゴーを思い出して困った。


演出はダン・ギルロイで、名が示す如く近年ハリウッドで名をよく聞くトニー・ギルロイの弟だ。実は彼の妻が、映画でTVディレクターのニーナを演じているレネ・ルッソだ。ちょっと肉がついてケバくなったなと思っていたが、自分の妻なのでこちらも思う存分好きなように演技つけたんだろう。


先頃サンダンス・チャンネルの「ジ・オナラブル・ウーマン (The Honorable Woman)」を見て、主演のジレンホールの姉のマギー・ジレンホールがいいなと思っていたが、弟のジェイクもそのできに勝るとも劣らない。そしたら演出の方もギルロイ兄弟と、実力が何よりもものを言うハリウッドで、姉弟、兄弟が活躍している。才能ある血統ってのはやっぱりあるんだな。











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ロサンゼルス。ルー (ジェイク・ジレンホール) は友達がなく、素行も悪く、職にもあぶれていた。ある時、ルーはハイウェイで交通事故の現場に遭遇、警官たちよりも早く現場に到着して事故現場を撮影するローダー (ビル・パクストン) に興味を抱く。ショッキングな事故現場を撮影したフッテージがTV局に売れることを知ったルーは、盗んだ自転車を売り払った金でカムコーダーを買い、撮影のチャンスを求めて深夜の街を徘徊し出す。ついにカージャックで撃たれた市民を撮影することに成功したルーは、チャンネル6のニーナ (レネ・ルッソ) に売りつけることに成功する。味を占めたルーはインターンとしてリック (リズ・アーメッド) を助手に採用する。ある強盗事件では勝手に現場の家に忍び込み、現場の証拠品をアレンジしてドラマティックにすることも厭わなかった。ニーナは少しくらいモラル的に問題があってもショック・ヴァリュウの高いルーのフッテージを好み、二人は二人三脚で次々と特ダネをものにする。ある時、高級住宅地で押し込み強盗の現場に遭遇したルーは、現場だけでなく犯人の顔と車も撮影しておきながら警察にはそのことを伏せ、さらなる特ダネを追って犯人たちを見張り出す‥‥


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