John Wick


ジョン・ウィック  (2014年11月)

キアヌ・リーヴス主演のアクションということで、前作「47 Ronin」を見逃していることもあり、ちょっと気になっていた。リーヴスは、この歳になっても相変わらずまだ美形と呼ばれる顔をキープしている。少し腹が出てきているような気もするが、それでも出演作が途切れることもない。大したものだ。


リーヴスがアクション俳優としてまだ一線にいるのは、あの顔を抜きにしては考えられない。あの顔でアクションをやるからいいのであって、つまりリーヴスのアクションは、実際の本人のアクションよりも見かけ、つまり型に負っている。そのことは「マトリックス (Matrix)」が雄弁に証明しており、「ジョン・ウィック」もその例に漏れない。


今回リーヴスが演じるのは、愛する女性と巡り会って引退したかつての凄腕の殺し屋というキャラクターだ。その女性が没し、彼女が残したイヌをギャングに殺されたことにより、報復に立ち上がる男ジョン・ウィックがリーヴスだ。


話がいかにも今風なところは、復讐に立ち上がるジョンの理由が、妻の忘れ形見の子イヌを殺されたことにある。妻を殺されたのではない。イヌを殺されたのだ。イヌを殺した若造も、そのためにジョンが命を賭して自分を追ってくる理由がわからず、たかだかイヌのために、と口走る。しかしジョンにとっては子イヌのデイジーは家族の一員であり、妻の生まれ変わりとすら言える。やられたらやり返すのが当然だ。


実際、アメリカ人家庭の多くでイヌはペットですらなく、家族の一員だったりする。今では多くの日本家庭でもそうだろう。私の家にもイヌではなく、ネコがいるのだが、それでも、はっきり言って赤の他人の人間よりも、自分ちのネコの方が大事だ。ネコより忠臣のイヌの場合、飼い主との繋がりはもっと密だろう。かつてマンハッタンにヘルムズレー・ホテルを所有していた富豪のレオナ・ヘルムズレーが死去した時、嫌いな近親者には一銭も残さず、飼いイヌのマルチーズに10億円以上の遺産を残したことで話題になった。遠くの親戚より近くのイヌなのだ。


あるいは、もしかしたらデイジーの敵討ちというのは口実に過ぎず、妻が死んだことによってそれまでは自分の中に封印してきた血を求める性が、出口を求めて噴出してきたのかもしれない。デイジーの死はたかだかきっかけに過ぎなかった可能性もある。


それにしても、そもそもこの妻は、殺し屋と知っていて男を愛したのだろうか。むろん男が完全に心を入れ替えた可能性はある。しかしそれでも相手は元人殺しだ。そういう男に甘え、死後に私の代わりに愛してねとパピーが届くよう手配する。うーむ、あちこちで話としては信じ難い。


そういうまるでリアリスティックではない展開が多々あり、もう一つの例として、殺し屋やギャングの宿泊専用のホテルがある。一般客もいることはいるようだが、基本的に後ろ暗いものを持つ者が贔屓にしており、そういう奴らだとすぐにわかる専用のコインを持っている。これの裏社会の通貨を利用して銃撃やらなんやらで部屋をめちゃめちゃにしたり血で汚した後始末の便宜を図ってもらう。ホテルのフロントマンに扮しているのは、FOXの「フリンジ (Fringe)」のランス・レディックだ。


家に帰ってきて調べるまで気がつかなかったのが、タラソフに扮しているミカエル・ニクヴィストで、「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 (The Girl with the Dragon Tattoo)」でいかにも使えなかった役立たずの主人公、というよりは狂言回しのミカエルを演じた男が、ここでは髭生やしてちゃんと危ない男に見える。まるで印象違って気づかなかった。そのアンポンタンの息子イオセフに扮しているのは、HBOの「ゲーム・オブ・スローンズ (Game of Thrones)」のアルフィー・アレンで、彼もなかなかいい感じ。ウィレム・デフォーは「ファーナス/訣別の朝 (Out of Furnace)」での半分ワルで半分人情派的キャラクターをここでも再現している。結局こういうワルに徹しきれない奴が、いつも貧乏くじを引く。


演出のチャド・スタヘルスキは、スタントマン上がりのこれが長編第一作だそうで、自分でアクションをこなしながら、どういうアクションが格好いいかなんてことを勉強したんだろう。要するに彼も型重視だ。リーヴスを使いたかった理由がよくわかる。スタントマンから演出に転じるというのは彼が初めてというわけではなく、かつてハル・ニーダムが、それこそ「グレート・スタントマン (Hooper)」という作品を撮っているし、「デッドコースター (Final Destination 2)」のデイヴィッド・R.・ハリスもそうだ。どうやったらアクションを格好よく見せるかが仕事の本質のスタントマンが、視覚重視というのはよくわかる。彼ら以外にもスタントマン上がりの演出家は何人かいたはずだ。


こういう現場上がりは映画の作り方のイロハを肌で知っているので、少なくとも見せ方を心得ていたりする。「ジョン・ウィック」もテンポよく進み飽きさせないが、やはりアクション以外の見せ方は少し弱いかなと思わないでもない。もっとも、リーヴスのアクションが格好よく見えさえすれば、それ以上望むものはないとも言える。










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ジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス)は凄腕の暗殺請負人だったが、ヘレン(ブリジッド・モイナハン)と愛し合うようになり、業界から足を洗う。しかし蜜月も長くは続かず、ヘレンは病魔に冒され帰らぬ人となる。ヘレンは死の間際に、自分の死後に子犬のデイジーをジョンに届けるよう手配してあった。ジョンはデイジーを大事に扱っていたが、町中でジョンがドライヴするクルマに惚れたイオセフ(アルフィー・アレン)が夜、ジョンの家に忍び込んでクルマを盗み出すついでに、デイジーを殺してしまう。イオセフの父はロシア系ギャングのタラソフ(ミカエル・ニクヴィスト)で、彼こそはかつてのジョンの雇い主だった。怒らせたジョンが誰よりも怖いことを最もよく知っているのがタラソフで、ジョンはイオセフを殺すまで諦めないことを知っていた‥‥


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