Out of the Furnace


ファーナス/訣別の朝 (アウト・オブ・ザ・ファーナス)  (2013年12月)

屋外スクリーンで上映される映画を人々がクルマの中から観賞しているという出だしから、「アウト・オブ・ザ・ファーナス」は既にかなりきな臭い臭いを発散しており、ガールフレンドと共に映画を見に来ていて、ちょっとした口論からデグロート (ウディ・ハラーソン) がガールフレンドに手を上げ、見かねて止めに入った赤の他人をぼこぼこに叩きのめすまでを描く最初のシーンで、ちょっとこのヴァイオレントさはただ事ではないと思わされる。これってクリスチャン・ベイルとケイシー・アフレック主演のアメリカの田舎町ヒューマン・ドラマじゃなかったのか、ハラーソン主演のヴァイオレンス・クライム・ドラマだったのか。それはそれで先が気になるし面白そうではあるが、これだけ予想を裏切られる出だしも滅多にない。


むろん主人公はベイルとアフレックであり、冒頭の切れ具合で見る者の度肝を抜いたハラーソンはその後しばらくは引っ込み、話はベイルとアフレックのベイズ兄弟へと焦点を移す。ベイル演じる兄のラッセルは町の製鉄所で働いており、ガールフレンドのレナ (ゾーイ・ザルダナ) と一緒に住んでいる。実入りはあまりよくはないが、それでもベストを尽くしており、小さな仕合わせに満足を感じていた。弟のロドニー (アフレック) はイラクで負傷した退役軍人で、今ではほとんどギャンブルに入り浸っていた。地元でアンダーグラウンドの賭けストリート・ファイトを仕切るジョン (ウィレム・デフォー) から金を借りており、借金を帳消しにするため自分から率先してファイトに出ていた。


ある時、ラッセルは自分のミスから事故を起こしてしまい、クルマに乗っていた母子を死傷させてしまう。実刑になったラッセルが刑期を務め終えて刑務所から出てきた時、病床にいた父は既にこの世になく、レナも彼の元を去ってシェリフのウェスリー (フォレスト・ウィテカー) と同居しており、そしてロドニーはすべてをチャラにして出直すために、最も危険なストリート・ファイト・リングに足を突っ込んでいた‥‥ 冒頭に顔を出したハラーソンが束ねているのがそのファイト・リングであり、ほとんど地方警察が手を出せないほどの組織力があった。


映画の前半は、まあハラーソンが出てくるシーンやストリート・ファイトのヤバそうなシーンはあるにせよ、基本的にアメリカの鉄鋼が主体の田舎町で、大きな成功とか将来の夢は特になく、内側に鬱勃したものを抱えているとはいえ、それとなんとか折り合いをつけて小さな仕合わせを見つけようともがく若者たちを描き、後半、話は一転して、何者かが弟に危害を加えたに違いないと確信する兄の復讐譚となる。


こないだ「プリズナーズ (Prisoners)」を見た時、ふと「ディア・ハンター (The Deer Hunter)」を思い出したが、製鉄の町という舞台となる場所や、後半雰囲気ががらりと変わる二部構成等、実は「アウト・オブ・ザ・ファーナス」の方がよほど「ディア・ハンター」に近い。「アウト・オブ・ザ・ファーナス」の後半は戦場になるわけではないが、やはり主人公は銃を構えて敵地に乗り込んで行く。


演出が「クレイジー・ハート (Crazy Heart)」のスコット・クーパー、主演がベイルということもあって、なんとなく「ザ・ファイター (The Fighter)」のような作品をイメージしていたのだが、前半は実際かなり共通点もなくはないと思うが、しかしこの作品の面白さは、がらりと印象を変える後半のクライム・ドラマの緊張感の方にある。少なくとも私はそうだった。


ベイルは一時、主役のくせに印象薄かったりいいところは脇に持ってかれたりという境遇に甘んじていた時期があったが、今回、後半が復讐ものに転じることで、いかにも彼が主役然となった。自分の正義に忠実で、銃を持って敵に相対するこちらの方が、悩んでばかりいる「ダークナイト・ライジング (The Dark Knight Rises)」のバットマンよりもよほどヒーローっぽい。シェリフだってベイルを止めきれないのだ。人は悩めるスーパーヒーローなんか求めていない。正と悪は対立するもの二項分化できるものであって、もしそれが悪ならば粉砕すべし。


バットマンがバットスーツに身を固めてもまったくなし得なかった正義のテーゼを、生身のベイルがあっさりと体現する。きっとベイルも、正義の味方という足枷にとらえられて身動きのとれなくなっていた自分自身に憤懣抱えていたんだろう。近年はスーパーヒーローという隠れ蓑やコスチュームの下に素性を隠さなくても、生身で悪と対峙できる。どうせ顔を隠しても誰かがどこかでスマートフォンで素顔を撮影してYouTubeにアップするから、結局いつまでも自分の素性を隠し通していられるものではない。スパイダーマンが誰かっていうのは、既にトビー・マグワイア・ヴァージョンでは公然の秘密になっていた。素顔を晒して悪党どもに銃をぶっ放す。これでいい。


ところで、ほとんど素手で殴り合わせ、賭け勝負をするアンダーグラウンドのストリート・ファイトは、実際に数多く存在するらしい。都市伝説のようなものかと思っていたが、それこそ単に裏庭ファイト・クラブから、映画に描かれたようなかなり大がかりなものも存在するようだ。ただしそれが移動サーカスのように、巡業興行的にスケジュール化されるほど管理されて展開しているとは知らなかった。むろんそうした方が利益を生みやすいのは当然だが、一応はビジネスマンに見えなくもないデフォーはともかく、常にラリっており凶暴野蛮で、ものを考えることができなさそうなハラーソンが総元締めか、でも、あれだけキレまくられると、確かに恐怖制は敷けるという気はする。彼らから見ると、エスクワイアの「ホワイト・カラー・ブロウラーズ (White Collar Brawlers)」なんて、子供の遊びにしか見えんだろうなあ。










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ペンシルヴェニアの、ほぼ唯一の産業が鉄鉱関係という田舎町に住むラッセル (クリスチャン・ベイル) とロドニー (ケイシー・アフレック) のベイズ兄弟には、死期の近い父がいた。ラッセルは製鉄所で働いていたが特に実入りがいいわけではなく、元軍人のロドニーはほとんどギャンブルに入り浸っていた。ある夜、ラッセルは不注意から人身事故を起こしてしまい、刑務所入りを余儀なくされる。ラッセルが出所した時、既に父は世を去り、恋人のレナ (ゾーイ・ザルダナ) も新しいシェリフの恋人ウェスリー (フォレスト・ウィテカー) と暮らしており、そしてロドニーは危険なアンダーグラウンドのフィスト・ファイトに手を出していた‥‥


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