Killing Them Softly


ジャッキー・コーガン  (2012年11月)

この映画、そこそこ誉められているのになぜだか近くに見た者がいない。予告編を見ただけではどういう作品かよくわからず、実際に見た者の一次見解を聞いてから見ようかどうするか決めようと思っていたのに、そういう話が入ってこない。それで、ええい、当たるも八卦当たらぬも八卦、ままよと劇場に足を運ぶ。 

 

だいたいこの作品、いったいどういう話なのかというと、ブラッド・ピットがヒット・マンを演じている話という以外はほとんど情報が入ってこない。実際、予告編で最も印象に残るのは雨の中ピットが銃を構えているスロウのシーンで、正直言って、そのシーン以外は既にもうほとんど覚えていない。確かにピットがヒット・マンというのは、この作品の最大のセールス・ポイントだろう。しかしそれだけで、他の作品のポイントやストーリーが聞こえてこないのはなぜなのか。いったい共演は? 

 

こういう疑問は、実際に映画を見てみると納得する。ピット以外は特に売れている俳優が出ているわけではないし、ピットはファースト・ビリングとはいえ、主人公とは言えない。主人公はギャングたちから金を盗む小悪党の二人、特にフランキーの方だ。それにこの語り口。やけに冗長なセリフ回しや動きのないフィックス系のショットが多く、ストーリーが立ち止まったり、あるいはどんどん拡散していってしまいそうでありながら、いったんアクションに入ると、これでもかというヴァイオレンス描写にスロウ・モーションを多様して、ヴィジュアル系を意識させる。要するに、簡潔に作品の中身や魅力を要約しにくい。 

 

むろんこういう特徴で真っ先に連想するのは、クエンティン・タランティーノだ。実際、「ジャッキー・コーガン」はタランティーノ作品と言われて見たら、なるほどと納得しそうだ。特にそう思わせるのは、始末屋としての自分の主義を依頼人のお役所関係のドライヴァー (リチャード・ジェンキンス) にわざわざ語って聞かせるピットで、こんな口の軽いヒット・マンが実際に信用できるかと思ってしまう。 

 

同様に、そのピットに頼まれて仕事を手伝う同僚ヒット・マンのミッキー (ジェイムズ・ガンドルフィーニ) の長広舌は、これはもう完全にストーリー・ラインを逸脱している。こういう語り口が通用するのは、やはりタランティーノ作品世界くらいだろう。さらに、血飛沫の飛ぶヴァイオレンス描写もタランティーノが得意としている分野で、その上登場人物が何度もクルマの中で会話するシーンがあるなど、つまり、「ジャッキー・コーガン」はかなりの部分、「パルプ・フィクション (Pulp Fiction)」を想起させる。 

 

一方、血が飛ぶといっても、ここぞという場所で必ずスロウ・モーションになる「ジャッキー・コーガン」は、ここまでスロウを多用するわけではないタランティーノとは異なっている。音楽の選曲も、かなり共通する部分はあるが、よりエスニックの香りがするタランティーノよりは、いかにもジョニー・キャッシュという「ジャッキー・コーガン」の方が、よりストレート・フォワードという印象を受ける。 

 

視覚的に印象に残るのが、画面に登場するほとんどの機会でタバコを吸っているピットで、近年登場人物がここまでタバコを吸っているのは見たことがない。確かディズニー・ブランドだと登場人物がタバコを吸う描写は禁じられているくらい、近年ハリウッドではタバコは嫌われている。ニューヨークでも健康志向のブルーンバーグ市長は公共の場での喫煙を禁止した上、先頃一定量以上のソーダの販売まで、糖分の摂り過ぎで肥満になったり健康を害するとして禁止した。 

 

ここまで登場人物がタバコをぷかぷか吸うのは、映画では「グッドナイト&グッドラック (Good Night, and Good Luck)」、TVでは「マッド・メン (Mad Men)」以来と言える。「マッド・メン」は、最初の頃は意図的に登場人物にタバコを吸わせる機会を多く持たせていたが、今では昔ほど登場人物がタバコを吸っているわけではない。作る側が実はタバコを吸わないので、つい忘れてるんじゃないだろうか。 

 

こういう時代と環境で、まあ映画の舞台となる南部はニューヨークほど健康志向ではないだろうが、それでもピット演じるコーガンは、始終のべつ幕なしにタバコを吸いまくる。 一時ピットは自分をマッチョに見せたくてそういう役ばかりやっていた時期があったが、その延長か。しかもマンガみたいに鼻の穴から盛大に煙を吹きまくる。ちょっと格好いいのとは違うような気がする。 

 

実質主演のフランキーを演じるスクート・マクネイリーは、ついこないだ、ベン・アフレックの「アルゴ (Argo)」で、神経過敏の大使館役員を演じていた。哀れなのがやってもないのに濡れ衣を着せられぼこぼこにされるマーキーを演じるレイ・リオッタで、理不尽な仕打ちを受けるところが、「ハンニバル (Hannibal)」を思い起こさせる。リオッタってなんかそういう損な役回りがはまる。 

 

演出はニュージーランド出身のアンドリュー・ドミニク。前作の「ジェシー・ジェームズの暗殺 (The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford)」でもピットと組んでおり、今回もアメリカの内部をテーマにした作品が続く。「ロウレス (Lawless)」のオーストラリアのジョン・ヒルコート同様、あの辺りの人間がアメリカの本質に迫ろうとしている。オーストラリア出身の俳優がアメリカの土着系を演じさせるとうまいのは今に始まったことではないが、演出する方までアメリカ人ではなくなりつつある。 









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金に困ったしがない小物ギャングが、地元のギャングの賭場を襲って有り金を頂く計画を立てる。ほとんど行き当たりばったりのように見えた計画はなぜだか成功し、実行犯のフランキー (スクート・マクネイリー) とラッセル (ベン・メンデルソーン)、計画を立てたジョニー (ヴィンセント・キュラトーラ) は小金を得るが、しかしギャングたちがただ手をこまねいて事態を傍観しているだけのはずはなかった。最初に目をつけられたのは過去に同様の前科があるマーキー (レイ・リオッタ) で、関係もないのにぼこぼこにされる。また、盗まれた金はギャングたちだけでなく経済界にも関係しており、彼らはプロの殺し屋のジャッキー・コーガン (ブラッド・ピット) を雇って、金を盗んだ者たちの抹殺を図る‥‥


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