放送局: UPN

プレミア放送日: 3/10/2004 (Wed) 20:00-20:30

製作: カーシー-ワーナー-マンダバック

製作総指揮: キャリン・マンダバック、デイヴィッド・ゴーツク、デイヴィッド・サックス、ジェイソン・ヴェノカー

クリエイター: デイヴィッド・サックス

監督: ジョン・ライス

脚本: キャリン・マンダバック、デイヴィッド・ゴーツク、ジェイソン・ヴェノカー

音楽: ジェフ・スダキン

声の出演: パトリック・ウォーバートン (リプリー・「リップ」・スマッシェンバーン)、ルーシー・リュー (ラクエル・スマッシェンバーン)、レイチェル・ドラッチ (アリス・スマッシェンバーン)、エリザベス・デイリー (ビリー・スマッシェンバーン)、アーティー・ラング (ターボ)


物語: スマッシェンバーン家は、一家の大黒柱リップがカー・レース・ドライヴァーとして、妻のラクエルが秘密エージェントとして、共にヴィデオ・ゲームに出演して働いている。二人共忙しいため、難しい年頃の娘アリスと息子ビリーの教育が心配だ。リップは親がいない時の気晴らしのために、ペットを飼うことを考え、ペット・ショップに出向くが、そこにいるのは奇想天外な動物ばかり。しかしビリーは犬のようなターボを気に入り、家に連れて帰るが‥‥


_______________________________________________________________


アメリカのネットワークのプライムタイムで、現在成功しているアニメーションは、たった一つ、「シンプソンズ」だけだ。これに、同じFOXが「シンプソンズ」と抱き合わせで放送している「キング・オブ・ザ・ヒル (King of the Hill)」、さらに、放送中は大した視聴率がとれなかったのに、DVDを売り出したらバカ売れしたために、いったんはキャンセルされたのに、今秋からまた再度放送がほとんど本決まりになっている「ファミリー・ガイ (Family Guy)」を併せた3本のみが、現在ネットワークで放送されているアニメーションである。


「シンプソンズ」が長い間人気を保っているのを見てもわかるように、アニメーションの人気がないわけではない。ウォルト・ディズニー、ハナ・バーバラ、ワーナー・ブラザース等、大人も楽しめるアニメーションの歴史は古い。映画でも、「ファインディング・ニモ」等、家族揃って楽しめるアニメーションの需要は今だに高い。しかし、現在では、アニメーション専門のカートゥーン・ネットワークや、編成する番組の半分程度をアニメーションが占めるニコロデオンという、ほとんど専門化したアニメーション・チャンネルがあるため、どうしても不特定多数の視聴者にアピールしなければならないネットワークでは、アニメーションは編成しにくい。それを考えると、「シンプソンズ」がいかに例外的に人気が高いかがわかる。


一方、カートゥーンやニコロデオンを筆頭とするケーブル・チャンネルでは、アニメーションは盛況だ。特にカートゥーンでの和製「アニメ」を筆頭とするアニメーション群は強力で、それに「ラグラッツ (Rugrats)」や「スポンジボブ・スクエアパンツ (SpongeBob, SquarePants)」を擁するニコロデオン、当然のディズニー・チャンネル、さらに今では音楽チャンネルという印象はほとんどなくなってしまったMTVが編成する「スパイダーマン」、コメディ・セントラルの「サウス・パーク」等、ケーブル・チャンネルのアニメーションには事欠かない。ディズニーは、カートゥーン・ディズニーなんてもう一つのアニメーション専門チャンネルも始めているし、スパイクTVによる大人向け色気ギャグをまぶした「トリッピング・ザ・リフト (Tripping the Rift)」なんてのもある。


ネットワークでも、日中の子供向け番組を編成する時間帯、および週末の朝の時間帯では、アニメーションは今だに人気のあるジャンルだ。「ポケモン」は、一時ほどの絶大な人気はないとはいえども、まだまだ子供は見ているし、「遊戯王デュエルモンスターズ (Yu-Gi-Oh!)」もかなり頑張っているなど、ここでも「アニメ」の人気は高い。アニメでなくとも、CBSの土曜朝の時間帯は、基本的にニコロデオン番組の再放送だし、ABCはディズニー番組を編成しているなど、実は、アニメーションは、万遍にむらなく、一日中ずっとどこかで必ず放送されている。


しかし、アメリカのTV番組というと、まず人々が真っ先に考えるのは、ネットワークでプライムタイムに放送される番組である。6大ネットワークのプライムタイムで放送されるようになって初めて、そのジャンルなり番組なりは一般的認知を得たと言えるのであって、「シンプソンズ」以外ほとんど知られていないアニメーションが、現在、一般的アメリカ人の生活の一部であると考えることができるくらい浸透しているかというと、それはまだまだだろうと言わざるを得ない。ここ数年、ネットワークのプライムタイム・アニメーションでは、FOXを除いては私の知る限り、ABCが2000年にケヴィン・スミスの「クラークス」をTVアニメ・シリーズ化したことがあるのみなのだ。はっきり言って、この分野は見捨てられていると言っていい。


その、ネットワークでのプライムタイムにおけるアニメーションという難しい分野に挑戦するのが、UPNが新しく編成する「ゲーム・オーヴァー」だ。UPNというと、プロレス中継の「WWEスマックダウン!」といくつかのSF番組番組 (それも人気は下降気味だ)、それに月曜夜の黒人向けシットコムが編成の三本柱であって、はっきり言って私がここ数年で面白いと思ったのは、リアリティ・ショウの「アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル」のみだ。つまり、要するに、ほとんどの視聴者はあまりUPN番組とは縁がない。だからUPNのアニメーション編成は、どちらかというと窮余の一策的な印象がないでもない。


とはいえ、「ゲーム・オーヴァー」の舞台設定はなかなか面白そうだ。主人公一家の日常を綴るこの番組、一家の長リップは、実はヴィデオ・ゲームの定番と言えるレーシングものに出演しているドライヴァーだ。その妻ラクエルは政府の秘密エージェントとして、悪者退治に世界中を飛びかっている。実はこの二人が夫婦であるだけでなく、ヴィデオ・ゲームの登場人物という役割を終えて家に帰ると (彼らは24時間体制で働いてるんじゃないのか?)、そこには年頃の息子と娘がおり、教育問題に頭を悩ます親でもあるというところがミソだ。それでも、親子の団欒の真っ最中に、秘密エージェントであるラクエルのところには、緊急出動の要請が時と場合を構わず飛び込んできたりするのだ。


実は、ヴィデオ・ゲームの登場人物を主人公とするアニメーションは、これまでにもあった。その番組「リブート (ReBoot)」は、90年代にかれこれ7シーズン放送され、ほどほどの人気を獲得していた。「リブート」は土曜朝放送の、ほぼ完全な子供向け番組だったとはいえ、ヴィデオ・ゲームをイメージしていただけあって、その図柄も「ゲーム・オーヴァー」とかなりよく似ている。ただし「リブート」は、勧善懲悪のロボットものというのが基本的なラインであり、そこに捻りを導入したギャグ・アニメーションの「ゲーム・オーヴァー」とは、本質的に内容は異なる。


また、図柄という点では、「ゲーム・オーヴァー」を含むすべてのCGアニメーションが、キャラクター・デザインはともかく、視覚的な素材の肌触りの印象が、全部「トイ・ストーリー」みたいになってしまうのは、現在の技術ではしょうがないだろう。それでも昔に較べればだいぶ進歩したような印象を受けるし、特に最近、そういうソフトが開発されたのだろうと思うが、カメラが「マトリックス」的な動きをして被写体をとらえるクレーン移動が、この種の媒体では花盛りだ。


「ゲーム・オーヴァー」のプレミア・エピソードでは、教育問題に頭を悩ますリップが、ペットを飼うのもいいだろうとペット・ショップに出向くのだが、そこで手に入れた犬のできそこないのようなペットが、葉巻を吸うわ、子供たちにいかがわしい情報を教えるわという展開で、案の定、事態はよけい紛糾するだけという状態を描く。


声の吹き替えで最も知られているのが、ラクエルの声を担当しているルーシー・リューだろう。「チャーリーズ・エンジェルズ2」はぽしゃったが、「キル・ビル」は話題になったし、現在、アメリカで最も知名度のあるエイジアン女優ということは間違いあるまい。とはいえ「ゲーム・オーヴァー」は、最初、ラクエルの声を担当する予定だったのはマリッサ・トーメイだった。その選択も悪くないと思う。実際、放送されなかったパイロット・エピソードでは、ラクエルの声はトーメイが吹き替えているそうだ。


しかし結局、最終的にラクエルの声に抜擢されたのはリューだった。この番組、ヴィデオ・ゲームのパロディということで、やたらとなぜだか忍者やカンフー使いが画面に登場して、あれーっとかあいやーっとか奇声を発したりするシーンがあるので、そういうところも関係しているかもしれない。リューだと、いざという時3役くらいかけもちして、何がなんだかよくわからないチャイニーズ的セリフを撒き散らして周囲を煙に巻けるだろう。


次によく知られているのが、アリスを担当しているレイチェル・ドラッチだ。NBCの「サタデイ・ナイト・ライヴ」で、頭から腕が出ているという危ない畸形ギャグで知られている。リップ担当のパトリック・ウォーバートンは、声優としては、「キム・ポッシブル」や「ファミリー・ガイ」等、多くの番組に出ているが、最も知られているのは、「サインフェルド」でのパディ役だろう。ビリーを吹き替えているエリザベス・デイリーは、「ラグラッツ」や「パワーパフ・ガールズ」等、超人気作で活躍しており、アメリカ産のアニメーション好きなら、絶対声に聞き覚えがあるはずだ。ターボの声を担当しているのは、口の悪いラジオのDJとして知られるハワード・スターンの番組に出演しているアーティー・ラング。


私はなかなか面白いと思った「ゲーム・オーヴァー」であるが、実はこの番組、数回放送されただけで、視聴率低迷を理由に既にキャンセルされている。やはりプライムタイムでのアニメーションというのは、どうも成功率は低いようだ。悪くないと思ったんだけどねえ。もしかしたら、しばらくすると、それこそカートゥーン・チャンネルあたりが放送権を買い取って、続きを放送してくれるかもしれない。もしできたら、その時、トーメイが声を担当したというパイロットも放送してくれないかな。






< previous                                    HOME

 

Game Over

ゲーム・オーヴァー   ★★★

 
inserted by FC2 system