デイヴィッド・ブレイン、リアル・オア・マジック   David Blaine, Real or Magic

放送局: ABC

プレミア放送日: 11/19/2013 (Tue) 21:30-23:00

製作: ラディカル・メディア

製作総指揮: ジョン・カーメン、デイヴ・オコナー、ジャスティン・ウィルクス

監督: マシュウ・エイカーズ

出演: デイヴィッド・ブレイン


内容: マジシャン/イリュージョニストのデイヴィッド・ブレインによるマジック・ショウ。


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David Blaine, Real or Magic


デイヴィッド・ブレイン、リアル・オア・マジック  ★★★

一口にマジシャン/イリュージョニストといっても、世の中にはラス・ヴェガスで継続的にショウを行う、かつてのジーグフロイト&ロイやデイヴィッド・コッパーフィールドのようないかにもマジシャン然とした大物から、クリス・エンジェルのような中堅、ほとんど名を聞いたこともない者まで、ピンからキリまで色々いる。


その中でもデイヴィッド・ブレインが異色なのは、まず彼の場合、路上を歩いている一般人相手に行うストリート・マジックを得意としていること、マジシャンというよりはグランジ・ロッカー、もっと悪く言うとほとんどホームレスに見える恰好容貌、そしてなによりも、マジシャン/イリュージョニストというよりも、耐久アーティストと呼ぶ方が近いその活動内容にある。


近年彼が挑戦したものは、逆さ吊りや息止めの記録、あるいは触ると感電死の100万Vの電流に囲まれたり食料なしでプラスティック・ガラスの中に閉じ込められたりと、危ない、命に関わるようなことをしていながら、本人はまったく動かないため視覚的にはかなり地味なパフォーマンスが多く、何を好き好んでこんなの選ぶのかと訊きたくなるようなものばかりだ。


例えば2012年10月にブレインが挑戦した最新スタントの「エレクトリファイド (Electrified)」は、100万Vの電流に囲まれた身動きのとれない場所で3日間立ち続けるというものだった。一方、実は安全対策のために着込んだ絶縁スーツが、完全に電流を逃がすことができるほどよくできたもので、あれを着ていればたとえ100万Vの電流に触れても安全は保証済みだったらしい。ただし、科学的に安全というお墨付きが出ていても、ではそれをやるかと問われれば、ほとんどの者は否と言うだろう。実際、ブレインの心電図には、電気ショックを受けた際の乱れが記録されていたそうで、どんなに安全を保証されても、率先してやりたいという物好きはそんなにはいないだろう。


「エレクトリファイド」の前に挑戦したのが、逆さ吊り記録に挑んだ2008年の「ダイヴ・オブ・デス (Dive of Death)」だ。このスタントも、逆さ吊り記録に挑戦とか言っておきながら、途中ちゃんと休憩をとっていたり、アシスタントが頭を支えていたりなどしていた上、最後のクライマックスに醜態を晒してしまうなど、かなりケチがついた。


さらにその前、2006年に息止め記録に挑戦 (「ドラウンド・アライヴ (Drowned Alive)」) して敗れた時、次は逆立ち世界記録なんてどうだなんて思っていたのだが、そしたら逆さ吊りに挑戦した。ただし公言していた不眠記録への挑戦はボツになったようだ。あれは覚醒と睡眠の境界の判断が難しそうだから、ちょっと無理っぽいとは思った。息止め記録は最初の挑戦では失敗したため、翌々年場所を変えて新たに挑戦して成功させているが、いずれにしてもブレインの近年のスタントは、万事スムーズに事が運んでいるわけではない。


そして今回の「リアル・オア・マジック」は、かなり初心に戻ってシンプルなストリート・マジック寄りの構成になっており、そうそうこれが見たかった、これが彼のマジックの魅力と特質を最もよく表していると感じた。


ただし今回は、あまり大掛かりな仕掛けを用いないシンプルなマジックが多いが、マジックを見せる相手に、これまでのストリート・マジックで見せていた一般人ではなく、セレブリティがその大半であることが特色となっている。冒頭のAMCの「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」のブライアン・クランストンとアーロン・ポールを筆頭に、ウィル・スミス、カニエ・ウエスト、ケイティ・ペリー、ハリソン・フォード、エイミー・ロサム、ウディ・アレン、ロバート・デニーロ、スティーヴン・ホウキング、オリヴィア・ワイルド、ジェイミー・フォックス、リッキー・ジャヴェイス、マックルモア、ジョージ・W・ブッシュ元米大統領といった面々が、ブレインのマジックに驚嘆する。


こうやって見ると、やはり驚いた時の反応は一般人もセレブリティも変わりないのだった。しかしブレインが、世界的権威の宇宙物理学者ホウキング相手にカード・マジックを披露したのには驚かされた。知人か? あのホウキングが、あの人口音声で、すごいな、どうやったのかまったくわからないよ、なんて言ってるのだ。アレンなんて、ゴールデン・グローブ賞の生涯功労賞なんて自分だけを表彰する場を平気ですっぽかすくせに、ブレインが金魚ごと大量の水を飲み干すのをじっと立って見ている。


こういうストリート・マジックにも流行はあるようで、袋やカップをいくつも置き、そのうちの一つの中に錐を刃先を上にして立たせ、それがどれだか知らないはずのマジシャンが、上から袋もしくはカップをばんばん叩き潰していくというマジックは、まったく同じことをクリス・エンジェルが「ケイティ (Katie)」でやっているのを見た。業界内で新しいネタの見本市みたいなのがあって、そこから新ネタを随時仕入れてくるので、時にネタが被るみたいなことがあるんじゃないだろうか。


エンジェルで思い出したが、スパイクの「ビリーヴ (BeLIEve)」で、エンジェルは糸を口に含み、かっと吐き出す瞬間に糸を針の穴に通すというびっくりマジックを見せていた。一方ブレインは破ったトランプのカードを口に含み、それを呑みこんで千切られたもう半分のカードにぷぅーっと息を強く吹きかけると、あら不思議カードが元に戻っているというマジックを見せる。


どちらもいったん口の中にものを含み、それを吐き出す瞬間にマジックを完成させるという技で、確かにどうやって、と驚かされはするが、しかし、一方でばっちぃと思うのも確かだ。あんたの唾がかかったカードや針と糸を手に取ってみたいと思う者はそんなにはいないと思う。マジックとしては高度なのかもしれないが、えげつーっと思うのも禁じ得ない。


ブレインはこういう生理的というか視覚的に不快、とまでは言わないまでも、あまり見てくれのよくないマジックを結構よくやる。今回は他にも口に糸を含んでそれを眼の傍から引き出すという、やはりあんまりいい感じのしないマジック、というよりもゲテ見世物をマックルモアに見せていた。かと思うと錐を手の平に突き刺して貫通させたりする。考えれば耐久アーティストとしてスタントに挑戦している時は、ほとんど見てくれは関係なかったりする。彼としては、視覚的意外性がありさえすれば、それが美的かどうかはあまり関係ないのかもしれない。一見して彼自身グランジだし。


そのブレインの今回の最大の見せ場のスペシャル・マジックが、アレンにも見せていた水の大量飲水蓄積マジック -- というか、やはりゲテ見世物だ。こりゃちょっとマジックやイリュージョンというのとは違う。どういうものかというと、胃の中に大量に水を飲んで蓄え、それを延々と噴水さながら吐き出し続けるというものだ。要するに、最初にペットボトルを一気飲みして、それを噴き出し続ける。放水ホースさながらで、実際ABCの「ジミー・キメル・ライヴ (Jimmy Kimmel Live)」にゲストとして出た時、ゴミ箱に火をつけ、それを人間消火器として口から水を噴き出して消火していた。


これが簡単にできることではないことはよくわかる。常識で言って、人間の身体の中からあんな大量の水を意図的に噴き出し続けられるわけがない。それ以前に、あんな大量の水を一気飲みできるということが既にまず異常だ。私が高校の頃、体育会系のクラブに所属しているやつは、部活が終わった後、500ccのジュース一気飲みを生き甲斐にしているやつもいたが、これはその比ではない。まるで牛とかが後で反芻するためにもう一つのでかい胃に水を貯めていたかの如く、水を口から噴き出しまくるのだ。ただただ単純に唖然とする。これって芸なのか?


視覚的に効果があるというよりも、水を噴き出した後は口回りが水と唾液も混じってべとべとだし、正直言ってまるっきり見てくれはよくない。ほとんど子供の遊びのようだ。よく言って宴会芸レヴェル -- にもならないだろう。宴席で口から液体を撒き散らし続けたら、お前どっか行けと言われて追い出されてしまう。上で挙げた「ジミー・キメル」の場合でも、キメルもどう反応していいかわからないといった態で、正直あまり楽しくなさそうだった。しかしあれだけ胃にものを貯められるなら、やはり次はタケル・コバヤシと一対一での大食い勝負しかないだろう。










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