コムラード・ディテクティヴ   Comrade Detective 

提供: amazon 

プレミア提供日:  8/4/2017 (Fri)

製作: フリー・アソシエイション、G&Tプロダクションズ 

製作総指揮: ブライアン・ゲイトウッド、アレックス・タナカ 

監督: リス・トーマス 

出演: フローリン・ピアシッチJr./チャニング・テイタム (グレゴア・アンゲル)、コメリウ・ウーリッチ/ジョゼフ・ゴードン-レヴィット (イオシフ・バチュー)、エイドリアン・パデュラル/ニック・オファーマン (コヴァチ)、オリヴィア・ニタ/ジェニー・スレイト (ジェイン)、ダイアナ・ヴラドゥ/クロイ・セヴィニー (ソーニャ・バチュー)、ジョン・ロンソン (自身) 

  

物語: 1980年代ルーマニアのブカレストで刑事として働くグレゴアは、上司の反対も聞かずにパートナーのニキータと共にアンダーカヴァーで麻薬の取り引きを取り締まろうとして逆に敵の罠にはまり、ニキータを殺されてしまう。この話を聞いた、かつてニキータと共にレスリングをしていたという田舎の刑事バチューがブカレストにやって来て、グレゴアの新パートナーに任命される。二人はニキータが殺された現場に落ちていたメモを手掛かりに、アメリカ大使館を訪れる。大使のジェインは、何か隠していることがあるようだった‥‥ 


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Comrade Detective


コムラード・ディテクティヴ  ★★★

うーん、と思ってしまった。まず第一に、「コムラード・ディテクティヴ」を面白そうだと思ったのは、何よりも内容だ。冷戦が継続している1980年代チャウシェスク政権下のルーマニアで、民主主義を目の敵にしている刑事の活躍を描くプロパガンダ刑事ドラマがあった。 

  

冷戦瓦解後、ドラマのオリジナル・フィルムは流出紛失したが、忍耐でもってそのフィルムを探し出し、デジタル修復を施し、英語吹き替えで提供するのが、「コムラード・ディテクティヴ」だ。 

  

ということを冒頭でチャニング・テイタムとジョン・ロンソンが熱く述べる。むろん嘘八百で、この冒頭の口上を含めてのコメディ・ドラマが、「コムラード・ディテクティヴ」に他ならない。 

  

とまあ最初は人を食った設定と内容で興味を惹いたわけだが、それだけでなく、私の場合、出演のテイタムの名も気になった。なんとなれば今夏から秋にかけて、アメリカ映画界はかつてのジョン・デンヴァーのヒット曲「カントリー・ロード (Country Roads)」が旋風が吹き荒れた。「エイリアン: コヴェナント(Alien: Covenant)」「ローガン・ラッキー (Logan Lucky)」「キングスマン: ゴールデン・サークル (Kingsman: Golden Circle)」と、一見してなんの関連も脈絡もない作品が、テーマとして使われた「カントリー・ロード」を介して繋がった。その橋渡し役となった一人が、テイタムだ。 

  

テイタムは「ローガン・ラッキー」と「キングスマン」に出ており、特に「ローガン・ラッキー」では主演であるなど露出度は高く、印象に残った。そのテイタムが、今度は1980年代のルーマニアを舞台とする番組に出演する。すわ、また「カントリー・ロード」が使われるのかと気になったのは言うまでもない。いくら撮影時期が違っているとはいえ、数か月の間に出演作が4本も発表か。 

 

一方、「コムラード・ディテクティヴ」は私が見たのこそ秋だが、amazonでは既に8月に提供が始まっている。つまり時間軸上で言うと、「コヴェナント」がまず初めにあって、「コムラード・ディテクティヴ」、「ローガン・ラッキー」、「ゴールデン・サークル」と続く。そのため、実は「コムラード・ディテクティヴは、テイタムを含めた「カントリー・ロード」の輪には、最初から入ってなかったのかもしれないという可能性もある。 

 

それに実はテイタムは、「コムラード・ディテクティヴ」に出ているとはいっても、実際に本人が登場するわけではない。番組第1回の前口上を述べる時だけ出てくるが、それ以降は英語版吹き替えとして主人公の声を吹き替えているだけだ。それも意図的に東欧っぽい発音にしていると見え、これがテイタムが吹き替えていると最初から知らなければ、彼だと気づかないと思う。 

 

実際の話、番組が始まると、冒頭の東欧的な印象のテーマと「カントリー・ロード」は、いかにもそぐわない。まったく接点はなさそうに見える。これは「コムラード・ディテクティヴ」には「カントリー・ロード」はないな、と思っていたら、話に関係してくるのはルーマニアにも進出してくるアメリカや資本主義だ。資本主義にどう対抗するかというコミュニズム・プロパガンダというのが本質の番組という設定であるため、これは当然だ。そのため、もしかしたらアメリカ資本主義を代表する曲として、「カントリー・ロード」が使われる可能性もゼロじゃないんじゃないかという期待めいたものもありはする。 

 

番組はストリーミング提供であり、全6話が一時に提供される。そのためやろうと思えば全部見て確認することもできはしたが、ちょっと忙しかったのでそこまではしなかった。とはいえ番組が面白くないわけではない。微妙にわざと全員オーヴァーアクティングの演技はむしろ芸コマで感心させられる。主人公のパートナーであるマチューの声を吹き替えているのはジョゼフ・ゴードン-レヴィットで、これもわざと東欧っぽく発音しているのだろう、知らなければ彼と気づかない。 

 

わざわざルーマニアまで行って1980年代を再現した撮影も、そこそこ金かかっているだろうに、よくやると感心する。段ボール紙でできていて火をつけると燃えるクルマと言われたトラバントが、街中を跋扈している。数年前クロアチアを旅行した時、初めて本物のトラバントを見て感激したが、そのトラバントがうようよ走っており、対するアメリカ大使の乗るキャデラックのような高級車との対比が効いている。どうやら当時のルーマニアにはジーンズも普及していなかったようで、ジーンズ・ブランドの名が犯罪と関係している。殺人者が被っているのはロナルド・レーガンのマスクだ。 

 

とまあ、結構ルーマニア人が見ると痛し痒しというか、内心忸怩たるものがあるのではと思う。一方で役者は自虐的に楽しんで演じているように見えなくもない。80年代ルーマニアか。ナディア・コマネチとチャウシェスク政権と「4ヶ月、3週と2日 (4 Months, 3 Weeks and 2 Days)」以外ではよく知らない世界。考えれば東ベルリンとはいえ、「アトミック・ブロンド (Atomic Blonde)」もこれにかなり近い世界だった。 あまり知られていない世界だからこそ、想像力をかき立てられるとも言える。










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