Atomic Blonde


アトミック・ブロンド  (2017年7月)

「アトミック・ブロンド」はアンソニー・ジョンストンとサム・ハートが2012年に発表したグラフィック・ノヴェル、「ザ・コールデスト・シティ (The Coldest City)」の映像化だ。ベルリンの壁が崩壊しようとする1980年代末のベルリンを舞台に、東西のスパイが相見えて丁々発止の謀略、肉弾戦を展開する。


端的に言ってしまうと、「アトミック・ブロンド」の面白さは「ジョン・ウィック (John Wick)」の面白さのそれとかなり重なる。要するに生身のアクション、それもかなり型にはまったアクションの面白さだ。


「ジョン・ウィック」主演のキアヌ・リーヴスが、多少腹が出て一見むさ苦しくなってきたとはいえ、やはり基本端正なあの顔で型の美しさでアクションをこなすから絵になる。「アトミック・ブロンド」におけるシャーリーズ・セロンも、あの美しい顔とプロポーションがあるからこそ絵になる。


アクションを撮る場合、そのスピード感はかなりの部分、編集による。そのため、無論できれば演じる俳優の運動神経がよければそれにこしたことはないのだが、なくてもある程度までカヴァーできる。たとえば「アンダーワールド (Underworld)」シリーズのケイト・ベッキンセイルや、わりとアクションにもよく出ているアンジェリーナ・ジョリー等は、実は編集でごまかさない限り、アクションは撮れないと思う。


しかし一つのシークエンス、流れとしてワンシーン・ワンカットで連続したアクションを撮ろうとすると、編集でごまかすわけにはいかなくなる。俳優もきちんとアクションしないと、シーンが機能しない。そのため、まず最初に徹底してリハーサルを行い、本番に挑む。


とはいえ振り付けされたアクションだから、人が二人以上絡むと、どうしてもそこにタイミングのずれが起こる。「ジョン・ウィック」でも、どうしてもリーヴスのアクションが僅かに遅れたり、相手が一瞬リーヴスを待つ場面があったりした。


実は「アトミック・ブロンド」でもそれがないわけではない。ないわけではないが、しかしむしろ「ジョン・ウィック」よりそれが気にならないくらいで、かなりできがいい。セロンは特訓したんだろうなとすこぶる感心する。正直言って「ジョン・ウィック」のリーヴスより、「アトミック・ブロンド」のセロンの方がいいんじゃないか。特に後半の、人のいないビルの中でスパイグラスを守りながらのほぼカットなしのアクションは、ケレンのあるワンシーン・ワンカット・アクションというよりも、リアルでありながら型の美しさも持つアクションで、天晴れというでき。


例えば元MMAチャンプのジーナ・カラノは、「エージェント・マロリー (Haywire)」に主演しているし、ロンダ・ラウジーも、こないだNBCの「ブラインドスポット (Blindspot)」を見ていたら、主演のジェイミー・アレグザンダーと派手に戦っていた。彼女らのアクションは当然切れがあるが、美しく格好いいアクションという点で、セロンは他の女優・アスリートから頭一つ抜けたという感じがする。


セロンは美貌でありながら、というか美貌であるからこそ、殴られて青タン作ると、逆に美しさに凄みが増す。その目の周りの黒いメイク、やり過ぎに見えなくもないけど映えますね、という感じだ。本人もその辺はわかっていて、出る映画では必ず目の周りに青タン作る。しかしむろん、その青タンの原因となった張本人の相手は、その倍は殴られることになる。


セロン演じる主人公のベルリンでの案内役となるチンピラのスパイ、パーシヴァルに扮するのが、ジェイムズ・マカヴォイ。近年アメリカでは「X-メン (X-Men)」のゼイヴィア役で善人という印象が定着しつつあったが、そういやこいつは、昔は英国版オリジナルの「シェイムレス (Shameless)」で、アルコールとドラッグ漬け一家の中心人物だった。実はこっちの方が本分か。M. ナイト・シャマランの「スプリット (Split)」もあったし。芸幅はなかなか広い。


先頃トム・クルーズ主演の「 ザ・マミー (The Mummy)」でエジプトの女王に扮していたソフィア・ブテラが、今度はうぶなフレンチ・スパイという役どころでも出ている。演出のデイヴィッド・リーチは、「ジョン・ウィック」のチャド・スタヘルスキ同様、スタントマン上がり。スタントマン出身の演出家が、アクションをいかに格好よく見せることに最大限の注意を払っているかがよくわかる。普段からどう動けば最も絵になるかを意識しているんだろう。経歴を調べてみたら、実は「ジョン・ウィック」の一部をリーチが演出しているそうだ。道理で。











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1989年、ベルリンの壁崩落の前夜、魑魅魍魎が跋扈するベルリンで西側のスパイ、ガシオーネがダブル・エージェントのサッチェルの裏切りによってKGBのバクーチン (ヨハンネス・ハウクル・ヨハネッソン) に殺され、ソ連で活動している西側スパイのリストを奪われる。MI6のロレイン・ブロートン (シャーリーズ・セロン) が召喚され、サッチェルを探し出し、リストを回収すべくベルリンに送り込まれる。実はガシオーネはロレインの恋人だった。ロレインは案内役のパーシヴァル (ジェイムズ・マカヴォイ) の手引きによって調査を開始する。しかし彼女の行動は東側に筒抜けだった。さらに彼女にフランスのスパイ、デルフィン (ソフィア・ブテラ) が接触してくる。果たして敵は誰で味方は誰か、四面楚歌の状態でロレインは反撃に転じる‥‥


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