Kingsman: The Golden Circle


キングスマン: ゴールデン・サークル  (2017年10月)

「キングスマン: ゴールデン・サークル」は一昨年の「キングスマン (Kingsman: The Secret Service)」の続編だ‥‥ということよりも、私にとっては「ゴールデン・サークル」は、上映と共に流れてきたジョン・デンヴァーの「カントリー・ロード (Country Roads)」でいきなり印象に残ることになった。


いったい、なんで今年はこうも「カントリー・ロード」の当たり年になってしまったんだ? というくらい今年は「カントリー・ロード」を耳にする機会が多い。しかも最初は未来宇宙世界を描くSF「エイリアン: コヴェナント (Alien: Covenant)」で聞いたと思ったら、次はNASCARが舞台のハイストもの「ローガン・ラッキー (Logan Lucky)」で耳にし、その印象も冷めぬ間に今度は「ゴールデン・サークル」だ。いったいどうなってんだと思ってしまう。


さらに「コヴェナント」主演のキャサリン・ウォーターストンは「ローガン・ラッキー」にも登場し、そのウォーターストンと恋仲になる主人公を演じたチャニング・テイタムが、今度は「ゴールデン・サークル」に出ている。この連鎖はいったいなんなんだ。「カントリー・ロード」が今年の映画界に及ぼした影響と今後の展開を読み解くことが、将来の映画界を占う上で大きな意味を持つのは間違いない。カントリー・ミュージックの温床であるアメリカの田舎の保守層によって共和党のドナルド・トランプが大統領になったことと、何か関係があるのか。


「ゴールデン・サークル」では、冒頭でキングスマンの面々のほとんどが死んでしまう。ちょっとしたエグジーの不注意が原因でキングスマンの所在が敵に知れ、攻撃を受けたせいだ。前作でもエグジーの教鞭役のハリーが殺されてしまうので、「キングスマン」では味方や主人公に近い存在でも結構簡単に殺されてしまうのは知っていたが、今回はいきなり初っ端からキングスマンのほとんどが死に、残っているのはエグジーとマーリンだけになってしまった。前作であれだけ念入りに描いたキングスマン養成特訓はなんのためにあったのかと思えるくらい、時と時間をかけて育ててきたキングスマンが呆っ気なく殺される。


と思っていたら、実はハリーは生きていて、記憶をなくしてステイツマンに保護されていた、というのは、今度は安易な展開過ぎないかという気もしないでもない。正面からサミュエル・L・ジャクソンに脳天を撃たれて射殺されたはずだが、というのを生き返らせた新医療技術はそれなりに説得力がないわけではなく、将来はこういう救命機器が実際に登場するかもしれないと思わされもする。しかし一方でSFチックなのも確かで、「カジノ・ロワイヤル (Casino Royal)」で心臓が止まった007を電気ショックで生き返らせたのが、遠い昔のように感じられる。同じ英国のスパイものなのに。


こういう簡単にエージェントが殺し殺されるのは、前作でもその気がなかったわけではないが、今回その特色が満遍なく発揮されている。



(注) 以下ちょっとネタばれ


特に意外というか腑に落ちないのはステイツマンのエージェントであるウィスキー (ペドロ・パスカル) の描かれ方で、多少疑惑の行動をとるとはいえ、はっきり言ってキングスマンの味方だ。キングスマンにとっては命の恩人とすら言える。それを自分たちの利益のために殺してしまう。しかも残虐非道この上ないやり方で。はっきり言ってこれではキングスマンに感情移入なぞできない。あんたらと麻薬女王のポピー・アダムズは、自分たちの利益のことしか考えていないという点で、同類とすら言える。同じ立ち位置にいるように見えて、もし利害が一致しなかったらどうせこちらを殺そうとするんだろう。


スパイというものの本質はそういう、自分たちの利益国益を第一に考える自己中の代表であるとはいえ、こういう身も蓋もない身勝手さを堂々と描かれると、見ている方としては鼻白んでしょうがない。せめて裏切らざるを得ない者の悲哀を描くくらいのことはできなかったものか。これではウィスキーが可哀想過ぎる。あるいは、アメリカ秘密結社のエージェントであるのにウィスキーという名をもらっているところが、ダブル・エージェントというか、本物のステイツマンではないことを暗喩していたとも言える。


また、ウィスキーはともかく、テキーラ、ジンジャーエールと来て、ステイツマンのボスの名がシャンパンというのもなんだか収まりが悪い。バーボン工場が秘密基地であるのにだ。やはりここは、ボスはバーボンという名であるべきではないだろうか。


ここでふと「カントリー・ロード」を思い出す。もしかしたら「ゴールデン・サークル」の居心地の悪さは、出演しているエルトン・ジョンに「カントリー・ロード」を歌わせなかったことにあるのではないか。一方で、もしかしてジョンに「カントリー・ロード」を歌わせたら、取り返しのつかない事態に陥ったのではないかという危惧も捨てきれないところがある。それも含めて「ゴールデン・サークル」は、なんだか微妙に収まりが悪い。










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ハリー (コリン・ファース) 亡き後、キングスマンとして活動するエグジー (タロン・エガートン) たちを、何者かが襲う。敵はエグジーがクルマに残したメモリを手掛かりに次々とキングスマンを手にかけ、ついに残っているのはエグジーとマーリン (マーク・ストロング) だけになってしまう。二人は最後に残された頼みの綱として、同様の秘密結社である、チャンプ (ジェフ・ブリッジス) 率いるアメリカのステイツマンを頼る。そこで二人は、死んだと思っていたハリーがまだ生きていて、記憶をなくした状態でステイツマンに保護されていることを知る。一方、麻薬操作によって世界を征服しようとしているポピー・アダムズ (ジュリアン・ムーア) の手によって、エグジーの恋人であるティルデ王女 (ハナ・オルストロム) を筆頭に、麻薬をたしなんだことのあるほとんどの人々が生命の鍵を握られていた‥‥


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