Chappie


チャッピー  (2015年3月)

ロボット・コップ、もちろん「ロボコップ (Robocop)」を自分流に作り直したのが、ニール・ブロムカンプの「チャッピー」に他ならない。しかし、その「ロボコップ」が昨年リメイクされ公開されたばかりという時期に、その印象も冷めやらぬうちに公開された「チャッピー」は、たとえブロムカンプという独自のセンスを持つ才能が演出しても、どうやら興行という点では芳しい成績を挙げるには至らなかったようだ。


むろん「チャッピー」と「ロボコップ」は似て非なるものだ。チャッピーは人間的な感情や学習機能を組み込んではいるが、やはりロボットはロボットだ。一方ロボコップは、ロボット化されているとはいえ、根っこの部分はまだ人間だ。つまり、人間化しようとするロボットを描くのが「チャッピー」で、ロボット化しようとする人間を描くのが、「ロボコップ」と言える。


もちろん「第9地区 (District 9)」「エリジウム (Elysium)」で、エイリアンやロボット化して社会から疎外された者の悲哀を描いているブロムカンプのこととて、チャッピーも単純なロボットではない。感情を持ち、生まれたての赤ちゃんのように周りの環境から学習していく。しかし壊れたロボットにプログラムされたチャッピーのバッテリーは、5日間しか保たない。


さらには善悪がプログラムされているのではなく、自らの学習によって学んで行く必要があるチャッピーは、教える者の影響によって悪い方に偏って行く可能性がある。案の定、育ての親がギャングになってしまったチャッピーは、光りものファションに身を包み、悪い言葉を使うチンピラのようになってしまい、あろうことか悪事に手を染めてしまう‥‥


結局人間ではないチャッピーは、どこへ行っても疎外感を味わわせられる。学習機能がつくということは、そういう感受性も身につけるということなのか。一人とぼとぼと寂れたヨハネスブルグのスラムを歩くチャッピーは、「第9地区」のエビ型エイリアンと同じだ。というか、アイデンティティに悩むロボットというと、日本人としては手塚治虫の「鉄腕アトム」を思い出さざるを得ない。


今思うと、手塚は斬新な発想で評価されるブロムカンプの、さらに40年先を行っていた。今、手塚が「鉄腕アトム」を描いて、それをアニメじゃなく実写化できたら、と考えたのだが、そういえば、「アトム」には実写版もあった、といきなり思い出した。マンガやアニメだとあの2本の髪の毛、というか角、というかアンテナは、正面から見るとなぜだかいつも同じ方向を向いているのが不思議と子供心にも思っていたが、実写だと正面から見ると右と左に一本ずつ横向きについていた。などと、今アトムが実写とCGで製作されらたならと考えたためにちょっと想像が暴走してしまうのだった。


ブロムカンプには「ロボコップ」へのオマージュだけでなく、是非子供時代に手塚も読み込んでいてもらいたかったと思う。せめてアニメの「アトム」だけでも見ていてくれれば。そうすれば「チャッピー」は、「ロボコップ」の二番煎じとか亜流なんて散見される辛い評価ではなく、我々があっと驚く新しい世界を提示することができたかもしれない。


とまあ、そんなことに思いが至ったのも、登場人物の名前がニンジャ、とか、あるいはそこここに仮名漢字が書かれていたりとか、ヘンに日本が見え隠れするからだ。そんなのはいいから、手塚を読め、手塚を。もう「アトム」はいいから、まずは「火の鳥」を読め。あんたならそこから得るものは多いはず。


チャッピーに扮しているのはブロムカンプ作品の常連シャールト・コプリーで、どうやらコプリーはブロムカンプの分身であるらしい。とはいえ本人の顔が一瞬でも映るわけではないコプリーがチャッピーである必要が本当にあるのかという気もしないではないが、コプリーしかできない動きがあるとか、ブロムカンプにとっては、たとえ顔が見えなくともコプリーであるという事実が重要なのだろう。ま、確かに人々から石を投げられてスラムを彷徨うチャッピーは、「第9地区」のエイリアンとかなりダブるところがある。


コプリーは既にハリウッドでも活躍しており、スパイク・リーの「オールド・ボーイ (Oldboy)」とか、ロバート・ストロンバーグの「マレフィセント (Maleficent)」とかに出ていて、あれ、こんなとこにコプリーがいる、と思わせた。最近ではマーヴェル・コミックスを映像化した、ソニーのプレイステーションが展開するオリジナル・シリーズ「パワーズ (Powers)」に、異形の者を追う殺人課の刑事という、これまたけったいな役柄で主演している。


プレイステーションのオリジナル・シリーズと聞いた時は、最初、なぜゲーム機がオリジナル・シリーズなんだと思ったが、要するにプレイステーションとかXboxとかのゲーム・コンソールは、遠隔地の者とゲーム対戦するために、既にネットやTVと接続している。これを利用してプレイステーションだけに配信するコンテンツ製作が可能なわけで、ゲーマーを囲い込むと共に新規ユーザを獲得するビジネスの一環だ。


さらにプレイステーションはアメリカでは独自のストリーミング・サーヴィス、Vueを展開しており、ケーブルTV会社と契約しなくても、多くのTV番組がプレイステーション経由で見れる。ソニー自体はハリウッド・スタジオ大手の一つであるわけだし、将来的にはなにも地上波のネットワークを買収しなくても、自分たちだけで一大コンテンツ・プロヴァイダになれる。ついでに言うと「チャッピー」自体、ソニー作品だ。コプリーはソニーの先兵か。


そういうソニーの思惑通りに事態が展開していくかは、現在では未定、というか業界の意見を読んでいる限りではわりと否定的に見ている者が多いという印象を受けるが、それでも、「チャッピー」や「パワーズ」に主演しているコプリーは、「チャッピー」では本人の顔を拝めるわけではないとはいえ、時代の先端を行っているという気がする。それにしても現時点で出演作の半分以上で人間じゃないコプリーって、いったい何者?










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近未来、南アフリカ。引きも切らない犯罪に業を煮やした政府はロボット・コップを投入、休むことなく犯罪摘発に従事するロボット・コップは多大な成果を収めていた。ロボット・コップ研究開発者のディオン (デヴ・パテル) は、次のステップとしてほとんど人間のように自律的に学習する新型ロボットを研究していたが、上司のミシェル・ブラッドリー (シガーニー・ウィーヴァー) は、たとえロボット・コップの性能がよくなろうとも、それがビジネスに結びつかないような開発は欲しなかった。ディオンは、撃たれて廃棄処分になる寸前だったロボットを無断で家に持って帰って、独自に研究を続ける。一方、ロボコップを動かなくするには遠隔操作でスイッチを切ってしまえばいいと短絡して考えたギャングのニンジャ、ヨランディ、アメリカは、ディオンとロボコップを拉致する。パワーの入ったロボコップは、まっさらな赤ん坊のような存在であり、ヨランディはロボコップをチャッピーと名付けて教育を開始する。しかし壊れたバッテリーで起動したチャッピーは、新規バッテリーに交換しない限り、寿命は5日間しかなかった。一方、ディオンが会社に無断でロボットを家に持ち帰ったことを知った同僚のムーア (ヒュー・ジャックマン) は、自分が研究している大型ロボットがないがしろにされていることが気に入らず、この機をとらえて自分の研究が有利に運ぶよう画策する‥‥


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