Maleficent


マレフィセント  (2014年6月)

アンジェリーナ・ジョリーが魔女に扮する「マレフィセント」は、現代版「眠りの森の美女」だ。マレフィセントとは、幼いオーロラ姫に呪いをかける魔女の名だ。ジョリーが2本の角を生やしているスティルを見た時から、これ、はまりまくってないか、と感心する。魔女か。しかもプロデュースしているのはジョリー自身なのだ。


とはいえディズニーが製作する「マレフィセント」は、もちろん単純にマレフィセントを悪役にはしない。実はマレフィセントは、妖精の国に生まれ、純真な心を持っていた。それが悪い魔女のように見えるのは、それこそ征服欲の塊の悪い人間たちから妖精の国を守るために王様たちを魔法を使って蹴散らしたため、人間の側から見ると敵にしか見えないからだ。


また、これが一時代前なら、ヒロインに情けをかけるステファンはヒーローで、最終的には二人は結ばれるものと相場が決まっている。ところが実はヒロインはヒロインではなく、ヒーローに見えた者は実はヒーローどころか悪役だ。


とはいえステファンだって、完全な悪役というのとは違う。彼はその気になればマレフィセントを殺して翼を手に入れることができたのだが、さすがにそこまでする気にはなれず、 翼だけをマレフィセントから切り離しただけで、命まで奪う気になれない。それが仇となってマレフィセントから報復を受けるわけだから、因果応報とはいえ、 悪者になり切っているわけではない。演じているのが「第九地区 (District 9)」や「オールド・ボーイ (Oldboy)」のシャールト・コプリーだから、なおさら悲哀が引き立つ。昔話には必ず何かしら教訓が含まれていることを考えると、ここでの教訓は、不用意な情けは我が身を滅ぼす、ということになろうか。


マレフィセントだって、ステファンにはともかくオーロラに含むところは何もなかったのに、つい激情に駆られて、この娘は永遠に眠り続けるだろうと呪いをかけてしまう。言ってしまった途端に、しまったと思ったに違いない。とすると、口は災いの元とも言えるか。グリム童話によると、魔女 (マレフィセント) は、実際に王女は針が刺さって死ぬという呪いをかけたが、その後、別の魔女が死ぬのではなく眠ることに呪いを軽減させたということになっている。ここではとっさに、死ぬ、ではなく眠らせることにしたマレフィセントの判断は、結果的には吉と出る。情けは人のためならず、とも言える。だいたい教訓や格言は、まったく対の意味を持つ言い回しがあったりするが、「マレフィセント」は一作で両方カヴァーしている。


実は5歳の時のオーロラ姫を演じているのは、ジョリーの娘のヴィヴィアン・ジョリー-ピットだ。映画は私一人で見に行ったのだが、家を出る前に女房がどこかから情報を仕入れてきて、アンジーが実の娘と共演しているはずだから確認してきてという。それで、へえ、そうなのかと私もちょっと気にしながら映画を見ていたのだが、よくわからない。


最初、若い頃のマレフィセントを演じている子がその娘かと思っていたのだが、同様にちょっときつめの顔という以外、特に似ているとも思えない。ジョリーは養子でとった子も多いはずだから、似てないどころか人種が違っても彼女の子という場合もあり得る。


もしかしてオーロラ姫かとも思ったが、彼女は明らかにダコタの妹のエル・ファニングだ。彼女の顔は知っているから間違いはないだろう。はて、そうすると、ではいったい誰だ? あと、ほとんど主要な女性の登場人物はいないぞ。まさか妖精の叔母の一人か? それとて一人はイメルダ・スタウントン、もう一人も見覚えがある (後で調べたらレスリー・マンヴィルだった。) 残る妖精は一人だけだが、やはり叔母役であり、そこそこ歳はとっている。そうすると残るはステファンが結婚した妃くらいしかいないが、歳が行き過ぎる。やっぱり若い頃のマレフィセントを演じた子か。


結局誰だったかわからないまま家に帰ってきて、若い頃は若い頃でも、本当に幼い5歳の時のマレフィセントを演じた子がジョリーの娘だということは、調べて初めて知った。女房が、ジョリーの娘はどうだったと訊くので、いや、結構気にしながら見てたんだけど、誰だかわからなかったと答えると、不満そうな顔をする。そんなこと言われても、彼女の場合、娘といってもジョリーに似ている保証はどこにもなく、人種さえ違う場合さえあるというのに、一度も見たことのないまったく赤の他人の娘を、しかもまだ顔かたちが確定していないとても幼い時に見せられてもわかるかと、思わずこちらもむっとする。


オーロラとマレフィセントは血は繋がっていない。しかし一見すると二人の結びつきは血の繋がり以上のものがある。なんとなれば二人はある意味常に一緒にいたからだ。これまた養子をとりまくっているジョリーの姿と重なる。生みの親より育ての親なのだ。遠くにいる血縁より、近くにいる存在の方が重要なのだ。こういう信念を持ってジョリーが養子をとっているのは間違いあるまい。


ところでヴィヴィアンはジョリーとブラッド・ピットとの間にできた本当の娘なのか? それとも養子だったのか。気になるから調べてみたところ、 本当にジョリーが帝王切開で産んだ子で、しかも男の子ノックス・リオンとの双子であった由。うーん、やっぱり先に知ってないと、映画だけ見ててもわからんよ。










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翼を持ち、空を飛ぶことのできる妖精マレフィセント (イゾベル・モロイ) は、人間界から隔たった森の妖精たちが住む世界で自由に暮らしていた。ある時マレフィセントは、人間界から森にさ迷い込んだ少年ステファンと出会い、二人は仲良く成長する。人間界のキング・ヘンリーは森を制圧しようと兵隊を率いて侵攻するが、マレフィセント (アンジェリーナ・ジョリー) の力の前になす術もなく撤退する。王はマレフィセントを打ち負かした者に王位を譲ると発表する。ステファン (シャールト・コプリー) は疑うことを知らないマレフィセントに薬を飲ませ眠らせるが、殺すに忍びず、マレフィセントの翼だけを切りとって持ち帰る。ステファンは王の娘と結婚して王位を継ぎ、美しいオーロラが生まれる。しかしそのお披露目の儀に現れたマレフィセントは、オーロラは16歳になるまでに機織りの針に刺され、永遠の眠りにつくだろう、そして真の愛のキスでしか目覚めることはないという呪いをかける。ステファンは国中の機織りを壊し、森の中の家で元妖精の乳母たちにオーロラを世話させる。何も知らないオーロラはすくすくと成長して美しい娘になるが、その傍には常にオーロラ (エル・ファニング) を人知れず見つめるマレフィセントの姿があった‥‥


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