Cake Boss  ケーキ・ボス (ケイク・ボス)

放送局: TLC

プレミア放送日: 5/25/2009 (Mon) 22:00-22:30-23:00

製作: ハイ・ヌーン・エンタテインメント

製作総指揮: ジム・バーガー、アート・エドワーズ、パメラ・ヒーリー

出演: バディ・ヴァラストロ


内容: ニュージャージー州ホボケンのケーキ・ショップ「カーロス・シティ・ホール・ベイク・ショップ (Carlo’s City Hall Bake Shop)」の日々の仕事振りをつぶさに拝見する。


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「ケーキ・ボス」は、ウェディング・ケーキから誕生パーティ用ケーキ、その他の種々の集い用の様々なオーダー・メイドのケーキ製作をメイン業務にしている、ケーキ・ショップ「カーロス・ベイク・ショップ」の日常に密着するリアリティ・ショウだ。


実はオーダー・メイドのケーキ製作専門のケーキ・ショップに密着するリアリティ・ショウというと、既に前例がある。フード・ネットワークの「エース・オブ・ケーキス (Ace of Cakes)」がそれだ。一見したところではペイストリー職人というよりは職人の刺青師といった感じのシェフ、ダフ・ゴールドマンと、彼の店「チャーム・シティ・ケーキス (Charm City Cakes)」の内情をとらえる番組で、既に3年前から放送が始まっている。


ところで、私は甘いものもそれなりに食べる。毎日食後に必ずデザートを食するというタイプではないが、それなりに好みはあり、シュークリーム (アメリカではクリーム・パフ) には結構目がない。毎回日本に帰省する時には、コージー・コーナーの100円のシュークリーム (前回帰省した時はさすがに110円になっていたが、それでも非常にお値打ち品だと思う) を食べるのを楽しみにしているという、グルメというよりは庶民的な甘い物好きだ。


ニューヨークでもベアード・パパが進出する前からそれなりに色んなとこのシュークリームを食べた。今では閉店してしまったが、アッパー・イーストの老舗「ボンテ (Bonte)」のシュークリームとか、あるいはウエスト・ヴィレッジの「クローズ (Claude’s)」のシュークリームは、是非一度は食べてみてもらいたい。シュークリーム好きなら目からうろこの一品だ。ここのシュークリームは、カラメルがかかった一見エクレアと見間違う形をしているのだが、そのシュークリームを食べて初めて私はカラメルが甘いものではなく、はっきりと苦いものであることを知った。だからこそ舌の上でシューの甘さとカラメルの苦さが溶け合って、絶妙のハーモニーを醸しだす。ここのシュークリームはニューヨーク一だと断言できる。


ところで、このクローズの経営者/シェフのおっさんも、かつてのボンテの経営者/シェフも、フランス仕込みのシェフだと思うが、揃って癖があるというか、頑固者だ。まず、両者とも味と店の外見には関係がないと言わんばかりに、店の外装内装は感心するくらい気を使ってない。洒落っ気なぞまったくなく、フレンチ風の小洒落なケーキ・ショップみたいなのをイメージしていると、まったく肩透かしを食らう。店の外観からだけではこれらがニューヨークで一、二を争う名店だとは想像もできない素っ気なさだ。


そしてボンテの場合、あれだけの味を持ちながら後継者を育てようという気はさらさらなく、ある時、店のリースが切れたからというだけの理由で、もう充分余生を送るだけの金は貯まったと見えて、さっさと店をたたんでしまった。店が閉まる時にはニューヨーク中のファンが名残りを惜しんでまた足を運び、ニューズにもなっていた。


クローズのおっさんの場合、ここは店構えがかなり小さいので本人が時々店頭にも出てきて勘定もしたりするが、かなり気分屋で、愛想のいい好々爺然としている時と、ほとんどよけいなことは言わないむっつり親父に徹する時と、日によって応対がまったく違う。まあ、かつて「サインフェルド」でおちょくられたスープ・ナチのおっさんほどではないが、しかしもうちっと客に愛想よくしてもバチは当たらんのにと思う。


ある夏の日の夕方に一度どうしてもここのシュークリームが食べたくなって、売り切れでないことを祈りながら買いに行ったことがあるのだが、そしたらこのおっさん、今日は暑かったからクリームが早く痛むのでシュークリームは作らなかった、と平然とのたまった。売り切れどころか最初からなかったのね、と脱力したのは言うまでもない。その日のショウ・ケースの中は、クリーム等を使わないペイストリー系ばかりだった。これだけで商売になるのか。


ケーキ職人に限らず、職人というのは多かれ少なかれこのような癖、頑固さがあるものだと思うが、それでも、これらのケーキ職人、そして「エース・オブ・ケーキス」のダフ・ゴールドマン、「ケーキ・ボス」のバディ・ヴァラストロは、フード・ネットワークが放送してるその他の一般的なクッキング・ショウに出演しているシェフと較べても、さらに癖があるように思える。むろんごく一般的な意味でのシェフにも、FOXの「ヘルズ・キッチン (Hell’s Kitchen)」「キッチン・ナイトメアズ (Kitchen Nightmares)」ホストのゴードン・ラムジーのような曲者はいるが、しかしデザート・シェフはかなり曲者の比率が高そうなのだ。


などと常々思ってたりはしたが、しかし本当のところを言うと、私自身が特に自分でデザートを作るわけではないため、レシピを覚えるとかのメリットがあまりないケーキ・ショップの内情をとらえるリアリティ・ショウについては、今回の「ケーキ・ボス」にしろ、事前に特に留意してはいなかった。私は結構メシを作るのも食べるのも好きだが、甘いものは基本的に食べる方専門で、自分では特には作らない。


過去何度か、まずは基本の基本くらいは勉強するかと思って、ストロベリー・ショート・ケーキ製作に挑戦したことがあるのだが、どうしても生地がうまく膨らまなかった。パンも同様で、どうしても途中でしぼんでしまう。それでこの手のオーヴン系の調理は才能がないと思って諦めた。それが俄然「ケーキ・ボス」に興味を惹かれたのは、こないだ読んでいたデイリー・ニューズの日曜版にこの番組の紹介記事が載っていて、その写真を見た瞬間、この店知ってる、とピンと来たからだ。


私は昨年からニューヨークのクイーンズを離れてお隣りのニュージャージー州に引っ越してきたのだが、そこでも時には無性においしい甘いものが食べたくなる時はあり、せっせと地道に新たな店を開拓していた。「ケーキ・ボス」の舞台となる「カーロス・ベイク・ショップ」は、ニューヨークからニュージャージ-に向かう時の表玄関と言える、ハドソン・リヴァーを渡ってすぐのホボケンという街の目抜き通り、ワシントン・ストリートにあるケーキ・ショップで、既にここのティラミスはうまいことは発見済みだ。


それよりも何よりも、現在私は朝晩このカーロス・ベイク・ショップの前を通ってマンハッタンのオフィスまで通勤しているのだった。店構えに見覚えがあるもなにも、ほとんど毎日見ている。実は実際に店の中に入る頻度という点では、ケーキ・ショップよりもお隣りの韓国系のグローサリー・ストアで、旬の安くなっているフルーツ等を買って帰ることの方が多いのだが、それでも親近感があるという点は変わらない。なんだ、それなりにケーキ類はうまいとは思っていたが、こういうリアリティ・ショウの舞台になるほど知られた店だったのか。


このカーロス代表のバディ・ヴァラストロもかなり癖のある濃い顔の男なのだが、ケーキ作りには才能があり、数々の賞を受賞していたりする。しかしすぐ切れたり怒鳴ったりするなど「エース・オブ・ケーキス」のダフ・ゴールドマンとかなり通じるものがある。なんでこんな短気なやつらがケーキ作りなんて地道な仕事で成功しているのかがよくわからない。オーダー・メイドのケーキで、表面に花を散らしたり絵を描いたりギターの形をしていたり消防車をかたどったケーキだったりするなど、時には気が狂いそうな細かい作業を延々とやっていたりするのだ。それとも、だからこそ短気になるのか。


特にこの消防車なんて、中にスモーク・マシーンが隠されており、ケーキの中から煙を吐く。思わず味よりアイディア、意匠重視かと言いたくなるが、ここのケーキはわりとうまいのはわかっている。要するに、この手のオーダー・メイドのケーキは、やはり味よりも外見にポイントがあるということなのだろう。その上で味もよければいうことない。以前、フード・ネットワークでこういうデザート・シェフによるケーキ・コンペティションをとらえた特番を見たことがあるが、審査は味ではなく見かけで順位を決定していた。食い物で味が審査の対象にならないケーキ職人というのは、やはり一般的な意味でシェフというのとは違う。


昔何かの料理本で、クッキングは才能だがデザート・クッキングは化学だと言っているシェフがいたのを覚えている。一般的な料理の味付けは、ほぼ経験と閃きに拠るが、特にベイク系のデザートの場合、生地が何度で膨らむとか、その時の粉とその他の材料の配合率とか、何度でメレンゲが固まるとか、その時の湿度や気温が関係してくるというのは、作る人にはまったく関係ない厳然たる化学であって、だからデザートというのは、根幹となるレシピが厳然としてある。そこは作る人が誰だろうと動かせないのだ。そこをきちりと押さえきれないとデザート・シェフにはなれない。なーるほど、だから私みたいな目分量だけで料理する人間が作るスポンジは膨らまないんだなと合点がいった。きっと「ブレイキング・バッド」の主人公で高校の化学教師をしているウォルターみたいな人間が、完璧なデザートを作れるんだろう。


ところで、「ケーキ・ボス」を見てまたここのティラミスが食べたくなったので、久方ぶりに帰宅の途中でカーロスに寄った。そしたら、確か前来た時にはなかった貼り紙が表のドアに貼られており、それによると、現在この店ではTV番組を撮影しており、店内に足を踏み入れることは番組に映る許可を与えたものとみなしますという但し書きがされている。うむ、こうすることでいちいち誰それの許可を得なくとも勝手に撮影していいわけか。一方、どうしてもTVに映りたくないという客を逃がすことになりやしないかという危惧もあるが、そこまでは気にしていられないんだろう。


店内に足を踏み入れると、昔はなかった大型の壁掛けTVが奥の壁に設置されており、そこでこの「ケーキ・ボス」、およびバディがブリトニー・スピアーズの誕生日のバースデイ・ケーキを作った時の模様等が流されている。これはスピアーズの新コンサート「サーカス」に合わせてABCが朝のトーク/ヴァラエティの「グッド・モーニング・アメリカ (Good Morning America)」内でプチ・コンサートを中継した時、ついでに彼女の誕生日ということでケーキを進呈したもので、このシーンは私も見た。そうか、あの時の彼がバディだったのか。


ここのティラミスは、実はバディの作るウエディング・ケーキとは異なり、ほとんど飾り気のないシンプルなティラミスだ。よくデリ等に置いてあるのと同じ、味も素っ気もない透明なプラスティック・ケースに入っている。むろんこんなケースに入っているのにはわけがある。とろとろのクリーム状であり、したがって切り取ろうとするとだらりとこぼれる。正統なティラミスとして、ケーキ類のように切り売りできないのだ。 もちろんこれこそがティラミスであり、だからこそここのティラミスはうまい。ちゃんとマスカルポンのチーズを使っているんだろうと思う。断言できるほど舌が肥えているわけじゃないのが残念だ。


サイズは大と小があり、値段は大きい方が税込みで15ドル95セントだ。もちろん大きい方を買って帰る。欲を言うと、もちっとお酒とエスプレッソのコーヒーを使ってくれているとさらに味が濃くなって私好みになるんだが、うちの女房曰く、たぶん子供にも好かれるようにわざとそうしてるんじゃないかという。それは大いにあり得る話だが、しかし、デザートだからこそガキのためじゃなく大人のために作ってもらいたい。


うちの女房は甘党だが、ミルクやクリーム系デザートは食べ過ぎるとおなかをこわすため、好きではあるがあまり得意ではない。その彼女が、このティラミスだけはばくばくと食べる。おなかこわすかもしれないと言いながら、それでもばくばく食べて、結局おなかをこわす。なんでおなかこわれる前に食べるのやめないんだと言うと、それができないからおなかこわすんじゃないの、あんたが買ってくるからだとくってかかられる。いったいなんなんだ。要するに、やっぱりうまいのだ。これだけの量が入っていて2000円しない。日本でこれ買ったらデパ地下で3000円以内じゃ買えんだろうなと思う。超有名店のものでもない限り、だいたいアメリカの物価は安い。私のような貧乏人にはありがたい限りだなと、ティラミスのついたスプーンをなめなめ、この文章を書いているのだった。








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ケーキ・ボス   ★★1/2

 
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