放送局: FOX

プレミア放送日: 9/19/2007 (Wed) 21:00-22:00

製作: グラナダ・アメリカ、オプトメン、A. スミス& Co.

製作総指揮: アーサー・スミス、ケント・ウィード、ゲリー・マッキーン、パトリシア・リーウェリン、カート・ノースラップ

監督: ブラッド・クレイスバーグ

ナレーション: J. V. マーティン

ホスト: ゴードン・ラムジー


内容: 英国のセレブリティ・シェフ、ゴードン・ラムジーが、アメリカの商売の傾いているレストランを立て直す。


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英国のセレブリティ・シェフ、ゴードン・ラムジーがアメリカにやってきてホストを担当しているFOXの勝ち抜きシェフ発掘リアリティ・ショウ「ヘルズ・キッチン (Hell's Kitchen)」は、一昨年から放送が始まっている。大人気番組とまでは言わないが、近年の「アイアン・シェフ」に端を発するクッキング関係のリアリティ・ショウとしてファンを獲得、それなりの人気を博しており、来春には第3シーズンの放送が決まっている。


そのラムジー、英国出身だからして、当然最初は英国で製作されているTV番組に出ていた。なかでも私のお気に入りは、BBCが製作、アメリカではBBCアメリカが放送していた「ラムジーズ・キッチン・ナイトメアズ (Ramsey's Kitchen Nightmares)」で、癇癪持ちのラムジーが怒鳴り散らしながら、傾いているレストランのメニューに手に入れるのを中心に経営を立て直していくのが非常に面白かった。私のこのホーム・ページはアメリカのTV番組について書くのが趣旨だから特にはとり上げなかったが、実は2004年のTV番組では、私が選ぶベスト5に入れてもいいくらい結構はまっていた。


そのため、そのラムジーがアメリカにやってきて製作した「ヘルズ・キッチン」も毎回楽しみに見ていた。うちの女房はけんかや争いごとが好きではなく、そのため出演者/参加者が裏をかいたり策を練って互いに陥れたり言い合ったりする、「サバイバー」のような勝ち抜き系のリアリティ・ショウをあまり好まない。それで「ヘルズ・キッチン」も、最初、なんであそこまで参加者が罵倒されなければならないの、可哀想じゃない、と言っていたのに、後の方では熱心に食い入るように見ていた。要するにやはり面白いのだ。


そしてラムジーがアメリカ版「キッチン・ナイトメアズ」として新たに製作、ホストを担当するのが、この「キッチン・ナイトメアズ」だ。BBCアメリカのホーム・ページを覗いてみると、本家が「ゴードン・ラムジーズ・キッチン・ナイトメアズ」と表記されており、FOX版は単に「キッチン・ナイトメアズ」と表記している。それで両者を区別しているようだ。一方「ヘルズ・キッチン」は、これまでの2シーズンは基本的にネットワークがオフ・シーズンとなる夏場に放送されていた。それが「ナイトメアズ」は9月の公式のネットワーク新シーズン開始と共に編成されている。もちろんラムジーは一人しかいないのだから今後も「ヘルズ・キッチン」を放送していくつもりなら「キッチン・ナイトメアズ」はこの時期に放送するしかない。


これによってラムジーはほとんど一年中FOXで自分の番組の何かに出ていることになる。さらに本家BBC版も継続しているようで、これじゃ身体がいくつあっても足りやしない。それよりもなによりも、世界中に展開している自分の名を冠したレストランは、いったい誰が面倒見ているんだ。たとえ彼の愛弟子たちがラムジー直伝の腕を開陳しているだろうとはいえ、これじゃ本人の名を冠した店名や、彼目当てに足を運んでくる客を騙していることにならないか。それとも、ケンタッキー・フライド・チキンですべてカーネル・サンダース本人が調理しているのではないように、そういうものとして納得するしかないのか。


一方、たとえばそのケンタッキーのチェーン店で食い較べしたことがある者ならわかると思うが、あれだけマニュアル化されているファースト・フード店でも、作る者によって微妙にでき上がったチキンの味が変わってくる。そこで働いていたことのある私が言うんだから間違いない。慣れると、一口味見しただけでその日厨房に入ってチキンを揚げているのが誰だかわかった。ファースト・フードですらそうなのに、ああいう高級レストランで、本人が調理するわけではない料理に大枚払う意味があるのかとも思ってしまう。日本では「料理の鉄人」にちょっと出過ぎただけで、自分の店の味が落ちたと確か道場六三郎が叩かれていたと聞いたことがある。ここはやはり、ビジネスだと割り切るべきか。


話が逸れたが、「キッチン・ナイトメアズ」はそのラムジーが、傾き始めたレストランに乗り込み、メニューを改善し、必要とあれば内装外装にも手を入れ、シェフやウエイトや経営者に活を入れ、経営を立て直すのをとらえる番組だ。60分番組で、一回につき一軒のレストランがフィーチャーされる。「ヘルズ・キッチン」は西海岸で収録されているため、私は「キッチン・ナイトメアズ」も西海岸のレストランを中心に収録するのかなと思っていたのだが、そうではなく、これまで見たところでは、マンハッタン、ナッソー、ウエストチェスター、サウス・ハンプトンと、すべてニューヨーク近郊のレストランが選ばれている。これは「ヘルズ・キッチン」が西海岸だったから今回は東海岸にしようということか、それともニューヨークにも自分の店を構えるラムジーの行動しやすいようにか、その辺はよくわからない。


見ていると傾いているレストランというものは、だいたい共通項がある。つまり、そこで働いている者の勤労意欲が低く、物事を改善していこうという向上心に欠ける。その結果が、まずいメシとなって現れる。もちろん全員が全員そういうわけではなく、単に気概が空回りしているという場合もあるが、いずれにしてもその意気込みが実を結んでいない。また、基本的に商売上手ではなく、イタリアン・レストランが何件も軒を連ねてお互いに潰し合っていたり、サーヴィス過剰で利益が出なかったり、かと思えばサーヴィスが杜撰で客が来なかったり、インテリアや雰囲気に妙味がなかったり、従業員同士うまく行ってなかったり、キッチンにはゴキブリがうようよいたり、シンクの下では野菜や肉やソースが腐って醗酵していたりと、やはりなんらかの理由があって繁盛しない。しかし、なにはともあれ商売がうまく行かないその第一の理由は、やはりメシだ。とにかくメシがうまくなければ客は来ない。その味と値段のバランスだ。


番組ではまずラムジーがそのレストランにお邪魔し、メシを注文して食べる。だいたいそのレストランのシグニチュア・メニューからオーダーするのだが、まずラムジーを満足させるには至らない。というか、繁盛していないレストランのメシだからわかり切っていたことだが、だいたいにおいて大いにラムジーをがっかりさせることになる。その様子を遠巻きに興味津々で見ていたシェフは、ああ、ラムジーがオレの料理を吐き出している、と心底落胆することになる。一方、ラムジーから罵倒されたシェフの中には、場合によっては開き直ってラムジーに文句を言うやつもいる。特にアメリカ版だと、シェフやオーナーのガタイがフットボール選手並みによくて、ラムジーを圧倒する場合が結構ある。


そういう体格のやつが、なに、てめえ、何言ってんだ、オレのメシが食えねえってのか、オレのマネジメントにケチをつけるってか、っと向かってくると、あの、徹底して高圧的なラムジーが結構ひるむという瞬間が何度もあった。英国版でも言い返してくるやつはいたが、迫力がまったく違う。なんつーか、シェフってやっぱりブルー・カラーというか、本質的に体育会系じゃないと務まらないよなと思わせられる。また、どうしてもこいつは使いものにならないとラムジーが判断した場合、そいつのクビを切るようにオーナーに進言することもある。どうしても才能のないやつだとか怠け者だとかはいつの時代にでもいるから、これはもうビジネスとして割り切ってラムジーの言うようにクビを切るか、さもなければオーナーが代替案を考えるしかない。実際にそうやってクビになって去っていった者もいた。


そういうすったもんだの挙げ句、だいたいはなんとかラムジーが思い描く通りにメニューを改変し、キッチンや内装に手を入れ、シェフやオーナー、バーテンダーやメートルディ、ウエイト等のスタッフに意識改革を要請してようやっと再オープンにこぎつけ、ある程度レストランを軌道に乗せることに成功して番組は終わりとなる。とはいえ、見ているとそうやってなんとか成功にこぎつけたはずのレストランを、そのすぐ後に売ってしまったとか、結局元のメニューに戻したとか、シェフが辞めたとか、そういうことを番組のエンディングのクレジットでさらりと言ってのけたりする。それまでドラマティックに展開して再オープンを成功させたと思ったらすぐこれだ。ラムジーもいったい何のために頑張っていたのか。


上述したように、FOX版「キッチン・ナイトメアズ」と並行して、いまだにBBCアメリカでも本家「ナイトメアズ」が放送されている。オリジナルの方は、実はスコティッシュ訛りの強いラムジーが、さらに独特のアクセントがある英国の地方に出向くということもあって、エピソードによっては登場してくる面々が何言ってるかさっぱりわからないということもあったりする。これは当然私の英語力の問題もあるが、普通のアメリカ人にとっても、英国の地方のアクセントが入った英語は聞き取りにくい。BBCアメリカでもその辺はわきまえており、最近では自チャンネルのコマーシャルで、もし会話が聞きとりにくい場合は、TVの字幕を現すクローズド・キャプション機能をオンにして、セリフを字幕表示して見るようにというアナウンスを何度も流す。


最初はひねくれた英国人のことだ、英国特有のジョークだとばかり思っていたが、どうもマジのようだ。アメリカでBBCアメリカの視聴率が伸び悩んでいる理由が、要するに言葉が聞きとれないから見ないアメリカ人が多いと考えているらしい。もしかしたら一理あるかもしれない。さもなければ英国でヒットした「カップリング」や「ジ・オフィス」や「ヴィヴァ、ブラックプール」(これのアメリカ版は今秋CBSがヒュー・ジャックマン出演で「ヴィヴァ・ラフリン (Viva Laughlin)」として製作放送したが、2話放送しただけでキャンセルされた) 等の番組が、そのまま放送されているBBCアメリカを人が見ずに、わざわざアメリカでリメイクされて放送されるわけがわからない。アメリカ人にとって、イギリスは外国なのだ。


とまれ、そんなわけで私は今でもBBCアメリカにチャンネルを合わせ、オリジナルの「ナイトメアズ」もよく見ているのだが、やはり今でも時によっては登場してくる人間が何言っているのかさっぱりわからない場合が往々にしてある。それなのに、FOX版「ナイトメアズ」を見ると、なんだ、ちゃんと何言ってるかわかるじゃないか。まあ、「ヘルズ・キッチン」を見ている時からうすうすと気づいていたのではあるが、ラムジーもアメリカに来るとかなり地というよりはアメリカの視聴者を意識しているか、あるいは相手がアメリカ人だから自然に自分もつられてそうなるのか、多少言葉遣いが変わる。だから私でも聞けるようになる。


さらに、実はこちらの方が理由としては最も大きいと思うが、ラムジーの相手のしゃべる言葉が英語か米語かという点が大きく影響する。つまり、BBC版ではラムジーの相手がまず何言っているかわからないから、それに反応するラムジーの発言も予測が難しい。それに対してアメリカが舞台だと、こちらは相手が何言っているか聞きとれる。そのため、ラムジーも何というかある程度予測できるのだ。この差は大きい。会話というのは漠然とではあっても、常に相手が次に何を言うか予想しながら進んでいくのだということがよくわかる。実際BBC版でも、アメリカ出身の黒人女性が英国で開いたソウル・フードの店が舞台となった回では、その相手の発言もラムジーの発言もちゃんと理解できた。「キッチン・ナイトメアズ」は、両方見ると語学勉強にも役に立つ。  






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Kitchen Nightmares


キッチン・ナイトメアズ   ★★1/2

 
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